11.6.いやだ


 零漸が言いにくそうにそう言った。

 だが自分の気持ちを素直に言ってくれるのはありがたい。

 こいつも今までの話を聞いて、ずっと考えていたのだろう。

 考え抜いて出した答えだ。


 一番はカルナと宥漸を置いて行きたくないのだろうな。

 父親としては当たり前のことだ。


 だが、俺はそれが駄目だとは言わない。

 これは強制ではないのだ。

 俺は零漸の意思を尊重しよう。


「そうか」

「……え」

「なんだ?」

「い、いや……なんか……言われるものかと……」

「いやいや、俺と一緒に封印されてくれとか、言えるはずないだろ。これは強制じゃないんだ。お前には守る者もいるんだし、それでいい」


 俺の言葉を聞いて、零漸は目をパチクリとしていた。

 好き好んで封印される奴なんていない。

 だから俺に付き合う必要はない。


「こ、断っておいて聞くのもあれっすけど……い、いいんすか?」

「それでいい。な、鳳炎」

「うむ。二人眠れば十分だろう。幸い、お前はただ硬いだけなのだからな」

「いや……攻撃技能はあるっちゃあるっすけど……」

「硬いだけで通すのだ。攻撃手段を一切見せてはならない。この約束を守れ」

「……」


 零漸の一番特徴的な能力は硬いこと。

 攻撃手段がないと思わせることができれば、零漸に付けられている脅威度は一気に低下するだろう。

 それができるかは、零漸の努力次第といったところではあるが。


 まぁ守ることに関してはずば抜けているし、それだけでも十分生きていけるだろう。

 他の皆のことも守ってくれそうだしな。


「あなた、いいの?」

「……いい……と思う」

「そう」


 カルナが心配そうに零漸に聞いた。

 うん、それでいいんだ。

 俺に付き合って眠る必要はない。


 あとはリゼに話を聞きに行かなければならないな。

 今あいつ何処にいるんだろう。

 まぁ今はいいか。


「……話は、まとまったようですな」


 ライキが言った。

 勝手な決断だったが、それに了承はしてくれた……と思う。

 もちろん申し訳ない気持ちもある。

 名残惜しさだってあった。


 まだこの世界を楽しみきれてない。

 そんな余裕はまったくなかったわけだがな……。


「そうだな。ごめんな、皆」

「謝るな応錬。日輪も同じことをしたのだ。お前のやろうとしていることは間違っていないし、無駄な戦争も終わる。いや、終わらせる」

「おお~、ダチアが言うと説得力あるなぁ」

「抜かせ。心を弄ぶ悪魔が」

「魔物です」

「やかましい」


 二人でくつくつと笑う。

 こんな会話をするのも、これが最後になる。

 少しくらいは楽しんでもいいでしょ。


「ティック。ウチカゲの義足のメンテはどうなってんだ?」

「今はテキルがやってるぜ。でも鬼の寿命はなげぇからな。是が非でもテキルの技術を鬼の誰かに覚えさせねぇと」

「鬼にそこまで器用な奴はいませんよ?」

「じゃあ自分で覚えるんだな! じゃねぇと二度と歩けなくなるぞ!」

「それは困る……」

「まぁ安心しろ。テキルの魔力結合は一生続くからよ」


 それで安心できるのかと言われると疑問なのだが。

 だが確かにメンテナンスができるようになっておかないと、これからが大変だろうな……。

 まぁウチカゲならできるだろ。


 できる事も一気に少なくなっただろうからな……。

 そっちに打ち込めるはずだ。


「……雰囲気を変えようとしているところ申し訳ないのですがな……」


 そこで、ライキが会話を止めた。

 このタイミングでかぁ……。

 だがライキは何か重要なことを話そうとしているということが分かった。

 その顔を見ればすぐに分かることだ。


 目線は……カルナと宥漸に向いている。

 全員が静かになり、視線が集まったことを確認したあと、話し出す。


「……カルナ殿と宥漸殿に……危険が及ぶかもしれませぬ」

「と、いうと?」

「……宥漸殿は、零漸殿のご子息。危険視されていた存在のお子であることは間違いありませぬ。子孫を残せる力があると知れ渡れば……やはり零漸殿、そして母君となるカルナ殿にも危険は生涯迫り続けるかと」

「そ、それは俺が守るっすよ!!」

「……違うのです零漸殿。危険を跳ねのけるお力が必要かどうかと聞いているのではありません。危険に身をさらす生活を生涯続けなければならぬということを危惧しているのです」

「隠し通せば……」

「……世の中、そう甘くはありますまい。隠し事というのはいつか必ず露呈するもの。零漸殿のお力は使わなければよいだけではございますが……カルナ殿と宥漸殿はそうではない。離れ離れになって暮らすという策もありますが……それは望みませぬでしょう?」

「「当たり前!」っす!」


 ライキの最後の問いには、二人が声を合わせて叫んだ。

 いくら自分たちの存在を隠し通すためとはいえ、家族が散り散りになって暮らすのは嫌に決まっている。


 でもその辺までは考えられなかったな……。

 くそう、いるだけで危険が迫るなんて……。


「あっ」

「うわまたなんか変なこと思いつきやがったな貴様」

「酷い言い様だな鳳炎!! お前焼き鳥にして食うぞ!!」

「ふんっ! 私に火は効かないのだ!」

「そうだった……」


 その耐性欲しいわ……。


「まぁ冗談は置いておいて……。何を思いついた?」

「ああ。でもその前に……ライキ。鬼の寿命って大体どれくらいだ?」

「ふむ、平均三百五十といったところですかな。儂の様に長く生きられる鬼は少ないかと。しかし、本質に気付いた鬼であれば……平均四百といったところかと」

「寿命延びるのか……。んじゃ、四百年後に設定するか」

『…………なにを?』


 ほぼ全員が、同じ言葉を口にした。

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