5.26.魔水晶


 白龍前での天割は二回目だが、本気で振り抜いたことは無かった。

 まさかこんなことになるとは……。


 前にいた魔物は全て斬られており、地面は血の海と肉塊の山が形成されていた。

 急に大多数の魔物が絶命したことにより、生きている魔物は一度立ち止まって困惑している。

 頭がいい分、状況を整理するのに時間をかけているのだろう。


 予想以上の攻撃力にドン引きしてしまいそうだ。

 この攻撃力でMP100しか使わないってやばいでしょ。

 何回も天割は使って来たけど、ここまでなるとは思いませんやん??

 確かに武器によって攻撃力変わるって書いてあったけどさ!

 知らない!

 こんな事は知らないぞ!


「応錬ー! ナイスだ!」


 いや親指立てんな鳳炎。

 マジで。

 てかこの状況でそんな嬉しそうにしている奴お前しかいないぞ。


 すると、後方から地面を揺らさんばかりの歓声が聞こえてきた。

 そちらの方をばっと見てみると、冒険者が腕や武器を掲げながら叫んでいる。

 ど、どうしてこうなった……。


「行けるぞー!」

「やれる! よっしゃやるぞー!!」

『『『おおおおおお!!』』』


 なんか知らんけど士気上っとる!

 お前ら何もしてないやろがいっ!!

 岩しか投げてないじゃん!!


 でもぶっちゃけ、これだけあれば何とかなりそうだ。

 俺が頑張れば被害はゼロになるかもしれん。

 やるときはやりますよ。

 そうですよやってやりますよ!


 てか今の一撃でどれくらい減ったんだ……?

 それが分かれば後なんかいきればいいとかわかるんだけどな……。


 MPの残りを考慮して見ると、あと九回は撃てる。

 そんだけ撃てれば殲滅も夢じゃないだろう。

 だけど無駄撃ちは避けたいからな。

 今度は出来る限り接近させて一気に斬り飛ばしてやろう。


 鳳炎はずっと攻撃してるのね。

 ていうかあいつはあとどれくらいいるのかは分かってるはずだよな……。

 あー、情報のやり取りをできるようにしておけばよかった。

 こういう時こそ泥人をあいつに預けておいた方が良かったな。


 まぁいいや。

 まだ魔物たちは動いていない。

 こちらの準備はもう出来ているからな。

 いつでも来ていいぞ!


 それに動かなければただ鳳炎に蹂躙されるだけだ。

 戸惑っている暇はないぞー!


『ギャアアアアア!!』

「!!? なんだ!?」


 城の中から叫び声が聞こえた。

 冒険者の士気が上がっている中、その声を聞きとれたのは奇跡とも言っていいかもしれない。

 後方を確認してみると、冒険者が食われていた。


 ムカデに。


「!? あ!? ああ!? あいつダンジョンで戦ったムカデじゃねぇか!!」


 あの時大量に出てきたムカデだ。

 それと全く同じ奴。


 なんで城の中からこんな奴が出てくるわけ!?

 外からしか来てないんじゃなかったのか!?

 つーかどうやって入って来た!?


 気配を感じたのか、声が聞こえたのかは分からないが、魔物の群れが動き出した。

 さっきとは全く違う速度で進軍してきている。

 明らかに動きが速い。


 そして、攻撃方法が変わった。


「ぐっ!?」


 鳳炎が捕まった。

 地上から長い舌を持っている魔物が、鳳炎を捕まえたのだ。

 鳳炎はすぐにその魔物を燃やそうとするが、それよりも先に魔物が舌を引き寄せて鳳炎の体勢を崩させる。


 空中で体勢を崩すとなかなか立て直すことはできない。

 バタバタを翼を羽ばたかせて何とか風を拾おうとしているが、上手くできない様だ。

 そのまま鳳炎は地面に向かって落ちていく。


 だがそこには、大きな丸太を持ったオークの様な魔物が居た。

 丸太を肩に担ぎ、鳳炎を見据える。

 タイミングを見計らい、バットを振る要領で丸太を振り抜き、鳳炎を殴った。


「かっ……」


 体中の骨が折れる音が聞こえ、鳳炎は俺の方に飛んでくる。

 地面を転がって勢いを削っていくが、既に踏ん張る力が無いのか、吹き飛ばされた勢いそのままに城壁に激突した。

 その威力も相当なもので、城壁が少し崩れてしまう。

 そして、鳳炎はどさりと地面に倒れ伏す。


「ちょ!? お前!?」


 すぐに回復水を入れている瓶を取り出し、鳳炎の下へと駆け寄っていく。

 顔に向かってかけると同時に、大治癒を施すことにする。

 じゃないとマジで死んでしまいそうだ。

 今も生きているか怪しい所である。


 鳳炎の下に到着した後、瓶の蓋を取ってかけようとした瞬間。

 鳳炎の体が崩れ去った。


「……は?」


 防具の間から灰が零れていき、灰の山が作られる。

 俺はそれを口を開けて眺めている事しかできなかった。


 え……?

 これ……どう、どうなるの……?

 なんで崩れた?

 どこ行った鳳炎……え?


「ぶぁあ!」

「うおおおおおおおお!!!? びっくりしたああああ!!」


 灰の中から子供が出てきたぁ!!?

 だ、だ、だだ、誰だてめぇ!!


「そんな驚かないでよ! 僕だよ僕! 鳳炎だよ!!」

「え、はぁ!? いや、だって……いやでも……」

「不死鳥の恩恵なんだって! 不死になることができるの! 死んだら子供になっちゃうんだけどねー!」

「あ、そうかい!」


 とりあえず安心したよ!

 死なねぇってこういう事になるのね!


「ていうかそれ戻るのか!?」

「三日は戻れない! 服、服……。魔道具袋……」

「子供になること前提で服は用意してんだな……」


 用意が良いというか何というか……。


 ていうか生きてるんだったらそんなこと気にしている場合じゃねぇ!!

 城の中にムカデが出てんだった!!


「鳳炎! ムカデが! 中に!」

「む、ムカデ!? 敵が中にいるって事!?」

「そう言う事だ! ありゃ俺がダンジョンで見たムカデだ! 水晶から延々と湧いてた奴だな!」

「…………えっ?」

「え? …………あ」


 塊が言っていた魔水晶っていう物。

 それを何処かに配置するとかも言ってた。

 その情報に加え、俺がダンジョンの中で見たムカデが無限に湧いてくる水晶。


 魔水晶というのは、もしかすると魔物を無限に湧かせ続ける水晶の事……?

 そしてそれをあの塊は配置している。

 この国の何処かに。

 そこからムカデが湧いている……?


 鳳炎もその事に気が付いたようで、顔を真っ青にして俺に指示を飛ばした。


「応錬はここで敵を食い止めて! 僕は中の様子を見て対処する!」

「ってお前! その体で大丈夫なのか!?」

「この体だと飛べないけど、MPの消費量が下がって威力が上がるんだ! こっちは任せて!」

「機動力が減るだけか! じゃあ任せた! こっちは任された!」

「お願い!」


 俺は白龍前を今一度構え、鳳炎はサレッタナ王国の中へと走っていったのだった。


「難儀な!」

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