5.25.数の暴力


 鳳炎が魔物に向かって攻撃をしはじめた。

 絶炎によって炎は消えることなく燃え続け、更には他の魔物に燃え移っていく。

 これが連鎖していけば良いのだが……そうもいかない。


 鳳炎の攻撃範囲は広いが、魔物全てに攻撃を与える事は出来ていない様だ。

 あっちへ来たりこっちへ来たりと、忙しそうに敵を攻撃している。

 それに加え、魔物は上空にもいた。

 そいつらに絡まれて地面への攻撃が疎かになっている事もしばしばだ。


 だが結構余裕そうだな……。

 心配するのは杞憂か……?


 鳳炎が一番槍を入れた後、今度は土の騎士が突撃していく。

 その速度は速い為、鳳炎の所まではすぐに到着した。

 そして敵を斬り捌いていく。


 持っている武器が石なので殴り殺すと言った感じになっているが、それでも十分。

 その速度を活かして攻撃を避けながら敵を攻撃している。

 結構強いじゃないかあの魔法。


 しかし、そうは言ってもあの数を援護なしに捌くには無理だったようだ。


「ギャワワワワ!!」

「ジャアアアア!!」

「────」


 数の暴力……。

 前方百八十度から一気に攻め立てられ、呆気なく魔物の波に飲み込まれる。


 ダンジョンにいる魔物は、俺が遭遇した奴は総じて頭がいいように思えた。

 それは今この地上に出てきている奴らも同じようで、倒し方が分かった途端、すぐに実行して残りの土の騎士を蹂躙していく。

 全然持たなかったな……。


 だがそのお陰か、土の騎士を襲った魔物たちは全て鳳炎の攻撃の餌食になった。

 足止めが主な目的で勝つことは考えていなかったようだ。


「よーし! 投石機準備ー!! 放てー!!」


 号令が聞こえた瞬間、冒険者が投石機を動かして岩を飛ばしていく。

 その岩は鳳炎のいる場所にも飛んでいったが、鳳炎はそれをすぐに見つけて急上昇して投石を躱す。

 マジで機動力高いなあいつ。


 投石機で飛ばした石は、魔物の群れに大きな被害をもたらした。

 落ちた衝撃で数匹の魔物がつぶれ、数十匹が吹き飛んでいく。

 そして岩は勢いをつけたまましばらくの間転がっていき、何十匹もの魔物を引き潰していった。


 地面に着地した衝撃で割れた岩は、予想外の軌道を描いて魔物をひき殺す。

 何十個もの岩がそうして魔物を殺していったが、相手の数を考えるとこんな被害は小さなものだ。

 かすり傷にもなりはしないだろう。


 それに、次弾を撃つのは時間がかかりそうだな……。

 まぁそりゃそうか。

 あんなデカい岩城壁の上に持ってくるだけでも一苦労だしな。

 岩を持ち上げるクレーンみたいな物はあるが、数は無いみたいだし……。


 俺がそんなことを考えていると、敵が連水糸槍の射程範囲内に入って来た。

 他の冒険者はまだ射程範囲内ではないのか、敵が近づいてくるのを待っている。


 待ってましたよやってやりますよ!!

 では先手を打たせていただきましょう!


 連水糸槍は横に可能な限り伸ばしている。

 糸をピンと張った状態で、そのまま魔物の群れに突っ込ませた。


 地面から大体六十センチ程浮かせておく。

 この高さであれば、殆どの魔物を斬ることができるはずだ。

 さぁいけい!!


 連水糸槍を魔物の群れに突っ込ませると、何の抵抗もなくスパッっと数えきれない程の魔物の胴体が切り離された。

 走っていた勢いもあって、それはズベチャという音を立てながら地面を転がり、沈黙する。

 予想以上に敵を屠ることができて非常に驚いた。


 だが……。

 連水糸槍は糸をあまり伸ばせない。

 長さ的には二十メートル程だろうか。

 

 水糸っていう技能を作ってそれをこれに合成したらまた長さ伸びないかな……。

 つっても今そんなことしている暇はないな。

 よし、とりあえず飛ばした連水糸槍を動かしてどんどん敵を倒していく。


「つっても、こりゃ俺だけじゃ無理だな!」


 鳳炎の絶炎による攻撃と、俺の連水糸槍での攻撃。

 どれも魔物を全て何とかできるほどの攻撃範囲は持ち合わせていなかった。


 敵の数が多すぎんだよっ!!

 ああっ!

 俺の連水糸槍の槍の部分が掴まれた!

 放せこの野郎っ……はなせっての!!


 ええい!

 お前を軸にしてもう一個の槍で周囲の魔物全部斬ってやる!


 片方の槍を掴んでいる大きめの魔物を軸にして、もう一本の槍を動かしていく。

 周囲の敵は簡単に斬れたし、槍を一本掴んでいた魔物の体も斬ることができた。

 槍もまた解放されたので、すぐに攻撃を再開する。


 にしてもこれキリがないな!

 連水糸槍は一つじゃないとこんな精度でないし!

 あれやるか!!


 空圧結界を階段状にどんどん作って行って、城壁の外に降りる。


「え!? ちょ、ちょっと応錬さん!?」

「なにしてるんですか! もう少しで射程範囲内です! 戻ってきてください!」

「心配無用! 一発撃ったらすぐ下がる!!」


 俺は白龍前を抜いて脇構えにする。

 後ろから冒険者の声が聞こえてくるが、それよりも確認してもらいたいことがある。


「おい! 投石機は撃てるか!?」

「も、もうそろそろ撃てます!」

「早くしろ!!」

「はい!」


 この技能はどれだけの被害が起こるかよく分かってないし、狙い通りに飛んでくれるかどうかも分からない。

 だから鳳炎にはできるだけ上に飛んでいってほしいのだ。

 投石機が飛んで来た時、鳳炎は上に飛んでいったからな。

 それを利用して、同じタイミングで天割を発動したい。


 鳳炎は今低空飛行しながら敵を攻撃し続けていた。

 この状況であの技を出すのは避けたい。


 暫く構えた状態で待っていると、投石機が飛んで行く音が聞こえた。

 上空を岩が通過していく。


 鳳炎はその動きが見えたのか、またすぐに上空へと飛んでいった。

 赤い炎が上昇していく。

 そして岩が着弾し、数十匹の魔物をひき殺す。


 このタイミングだ。

 鳳炎は暫く飛んでくる岩に注意を向ける為、上空で停滞している。

 今は降りて攻撃はしてこないだろう。


 MPを100使ってしまうし、上手く制御できるか分からないが、こんな時しか使えないしな。

 ぶっつけ本番!

 久しぶりに使うな!

 手加減無しの全力バージョン……。


「『天割』!」

 

 脇構えの状態から左足を軸にして右足を左側から出す。

 要するに左回転して右足を踏み込み、後ろから回すようにして三尺刀、白龍前を横に凪ぐ。


 綺麗に横に凪ぐことが出来たと……思う。

 さぁどうだと、目線を前に向ける。

 そこには、胴体を失った足だけが立っており、その胴体は宙を舞っていた。


「……おっふ。さ、さ……流石本気の天割だぜ……」


 冒険者は声を出すことが出来ずに、ただただ驚いていた。

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