5.24.防衛戦
大きな音が近づいてくる。
あのような音は今まで聞いたことが無い。
地鳴がずっと続いているようで、細かい揺れが城壁にへばりついている冒険者の足に伝わってくる。
見ていなくても、それがまだ遠くにいるという事が分かる事に加え、それがまだ小さな音であると伝えてくれた。
もう時間切れだ。
あれから一時間……。
水晶を探し回ってみたが何処にも無い。
完全に探しきれていないというのもあるが、探すためだけに魔力を消費して居られないのでね……。
そろそろ現実と向き合わねば。
「いや、多すぎね……?」
魔物たちは律儀に木々を回避して来ていたため、森自体にはあまり被害はない。
だがそれ故に目測を誤ってしまった。
森を突破してサレッタナ王国に直進してきている魔物たちは、平原に出てその姿を現す。
確かにこれは津波という表現ができる程の数だ。
だが……多すぎる。
誰だ四万五千って言った奴この野郎。
そんな数じゃねぇだろこれ!!
いや、俺も数を正確に測れるわけじゃないよ!?
でもこれは素人目にもわかるぞ!
絶対に四万五千とかいう数じゃねぇ!!
冒険者たちもそれを見て青ざめている。
そりゃそうだよな。
こんな光景見て立ち向かおうとか言う奴いねぇよ……。
つっても、もう既に逃げるなんてできないだろうし、やるしかないんだけどな!
「怯むなよ!! 自分のやることをしっかりと勤めろ! じゃないと勝てる物も勝てん!!」
「と、とは言っても応錬さん! これは無茶ですよ!」
「無茶だろうが何だろうがやるしかねぇだろう! 腹くくれ冒険者共!!」
半分ヤケだ。
つーかめっちゃ怖いんですけど。
こんな数相手にして大丈夫なのかな……俺。
いくら技能に恵まれてるからって、流石にこれは怖い……。
だってあれだろ?
あいつら全部人間襲うんだろ?
ここで食い止めれなければ被害が甚大になるのは確実だし、それを想像するのは容易だ。
え、待ってめっちゃ不安になって来たんだけど……。
「投石機の準備を急げ!」
「やってる!」
「マナポーションどんどん持ってきてくれー! これじゃ足りないぞ!」
「つ、伝えてきます!」
もう全員ヤケなんじゃないかって思えてきたなぁ……。
ハッハッハッハ。
俺本番に弱いんだって今初めて知ったわ……。
「応錬君!」
「お、おお。マリアか……」
「ちょっとシャキッとしなさいよ! あんたが今の所頼りなんだから!」
「痛っつ、背中叩くなって……。ていうか俺より頼りになる奴いるだろ……」
「頼むわよ!」
そう言って、マリアはすぐ近くの冒険者の所に行き、背中を叩く。
そして、俺に掛けた言葉と全く同じことを言ってから、他の冒険者の所に走っていった。
あの野郎見境なしか。
まぁ普通の冒険者がギルドマスターに激励されたらそりゃ調子がつくわな。
あいつなりの士気の上げ方か……。
……鳳炎に全部持ってかれてるもんなぁ。
てか鳳炎が異常なんだよな?
すげぇ信頼度だよ。
俺あそこまで行けないと思うわ。
「よし、まぁやれるだけやりますか……!」
やらねぇと死ぬんだけどな!!
『合唱魔法! アースドール!』
俺が一人で気合を入れていると、外からその様な声が聞こえた。
見てみると、地面から土の兵士が出現している。
あまり強そうには思えないが、使い捨て出来る前衛部隊だ。
戦力増強になると思えば凄い魔法だ。
だが……。
どうやら消耗が激しいらしいな……。
発動したと同時に、魔法使いは息が上がってすぐにマナポーションをがぶ飲みしている。
よくあんなもの躊躇なく飲めるな……。
あの魔法は十人で発動させる物の様だ。
姿としては騎士を象っているのだろう。
石の剣を全員が携えている。
しかし消耗が激しい分、数は多い。
ざっと二百くらいだろうか……?
マナポーションで魔力を回復させた魔法使いの一人が、杖を掲げて魔物の方に振り下ろす。
すると、土で作られた騎士たちは地面を滑る様にして魔物へと向かって行った。
その速度は馬車よりも速い。
「はえー、凄い便利な魔法だな。接近戦が出来ない魔法に特化した技能を持つ冒険者にとっては有難いだろうな……」
「……水帝の応錬さん、でしたっけ。でもあれ合唱魔法でしか使えない魔法ですよ」
「ポンコツじゃねぇか」
パーティーで魔法使い十人とかいらん。
こういう時にしか使えない魔法だな……。
てか合唱魔法って久しぶりに見たかも。
俺が見たのは崖を動かす程度の物だったけど、使い方次第でこんなのもできるんだな。
土の騎士を眺めていると、その上空に赤く光る物体が飛んでいるという事に気がついた。
あれは鳳炎だろう。
そろそろ本格的に防衛戦が始まりそうだ。
「よぉし……。た、頼むぞ冒険者たち……。俺もできる限り頑張るから、頑張ってくれよー……! 『連水糸槍』!」
まずはこいつで様子見だ!
前に鳳炎がいるからでっかい技能はとりあえずお預け!
連水糸槍は結構自由が利くからな!
それに多連水槍程操作が難しくない!
なんせ二本だけしかないからな。
切れ味は俺が保証しよう!
っしゃ行ってこい連水糸槍!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます