11.9.軽い決定
リゼは今、城下町を歩いているという話を聞いたので、そちらへと向かってみることにした。
あの話をして何と言われるか分かったものではないが、話さないわけにはいかない。
どうせ知ってもらわなければならないのだ。
今歩いている場所は前鬼城の大通り。
まぁここに来ればまた先ほどと同じように様々な鬼から話しかけられるわけで、捜索はウチカゲや鳳炎に任せることにした。
アレナと姫様にも探しに行ってもらいたかったが、俺から離れるつもりはないらしい。
仕方ないので取り合えずこのままにしておくことにした。
にしても、戦争中だというのに鬼たちは明るいな。
暗い表情をしている奴なんて誰も居ない。
本当に戦争をしているのかと疑いたくなるほどだ。
こういう世の中がいつまでも続けばいいのにと思う。
「で……まだ見つからないのか?」
「リゼさんはうろうろするのが好きな人だから」
「そうなの?」
「うん。なんだっけ……『メリルを任せられるようになったから、もう私の出番はないかな』って言ってた気がする」
「……ジグルか? ジグルなのか??」
「あ、そうそう。ジグルもそうだけど、クライス王子もここに来てるはずだよ」
「なんでこんなに集まっているんだ……?」
「次の戦場が前鬼の里付近で発生する可能性があったからです。なので援軍として派遣されてきているのですよ」
「ほぇー……。となると、会うのが少し楽しみだな。特にクライス王子」
あの厨二病キャラは今どうなってしまっているのだろうか。
零漸が色々教えてあげていたはずだけど……。
「あいつ今どうなってんの?」
「すごいよ」
「凄いですね」
「へ、へぇー……」
やばい想像つく。
いや、でも成長してああいうのを恥じらう心も出てくるはずだ。
あのまま成長しているということはないだろう。
どちらにせよ、会うのが楽しみではあるけどな。
「応錬様、団子はいかがですかな?」
「笹団子もありますよー!」
「んじゃ三人分もらっていいか?」
「「はーい!」」
お店の手伝いをしている子供二人が声をかけてくれた。
丁度お腹もすいていたような気もするので、貰うことにする。
そんな感じでまた大通りを歩いていった。
しかし六年経っているとはいえ、あまりこの辺は変わっていないようだな。
俺としてはそっちの方がありがたい。
なんせ古き良き時代を実際に歩いて渡ることができているんだからな。
まぁこの世界には魔法もあるし、化学はほとんど発展しないだろう。
四百年後もこれくらいだといいのだが……。
いや、さすがにそこまでいくといろいろ変わっているはずだな~。
「団子美味い」
「美味しいですよね~。私のおすすめの一つなんですよ~」
「他にもおすすめあるのか?」
「ありますよ。うどんさんとかお寿司屋さんとか」
「眠る前に食べられるかな」
「絶対に行きましょう!! アレナさんも!」
「行く……!」
凄く硬い意志を感じる。
まぁそれくらいは付き合わないとな。
そこで遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
見てみると、リゼが走ってきている。
だがウチカゲと鳳炎はいないらしい。
「匂いかな?」
白虎だし、鼻が良かったはずだ。
普通に歩いていたらこいつから来てくれたのか。
それじゃあウチカゲと鳳炎に探しに行ってもらう必要はなかったかな。
リゼは人の垣根を飛び越え、俺の前に着地する。
「起きたなら起きたっていいなさいよ!!」
「さっき起きたばかりなんだが」
「あ、そうなの? にしてもよかった! 鳳炎からあんたが起きたって話を聞いて飛んできちゃったわ」
「あれ、鳳炎は?」
「置いて来たけど」
「さすが最速……」
なんだ、結局鳳炎から話を聞いて飛んできたのか。
まぁそれはどっちでもいいか。
んじゃ、本題に入ろう。
「話は鳳炎からあの話は聞いたか?」
「聞いたわ。あんたと鳳炎は眠るらしいわね」
「そうだ。お前はどうする? 無理に付き合わなくてもいいわけだが」
「私も眠るわ」
その言葉に、俺は少し驚いた。
もう少し考えてから決めてもらってもいい気がするのだが。
ていうか……。
「……え、すごく軽いな?」
「まぁーやりたいことも別にないし、なによりメリルとジグルがくっついたから私の役目はこれで終わりかなぁ~って思って」
「待って凄い聞き捨てならない言葉が聞こえてきたんだけど」
いや、さっきアレナから少し話は聞いたけど、もうそこまで進展しているとは思っていなかった。
……って、そういや六年経ってるんだったな。
そりゃくっついていたってなんにも不思議じゃない……か?
いや、不思議だわ。
「よくくっついたな。貴族と冒険者が」
「いや~私こういうの大好きなの~! まずはジグル君がSランク冒険者になってね?」
「え!? えす!!?」
まじで!?
うわぁーこれは完全に置いていかれましたねぇ~……。
ジグルがSランクかぁ……。
どんな戦い方するのか気になって仕方ないんだけど。
Sランク冒険者にしては若いと言われていそうだな。
いくら雷弓の弟子で悪魔のイルーザに魔術を教えてもらったとしても……そんな早くなれるものなのか。
まぁ、実力があったんだろうな。
「すげぇなぁ……。今ジグルは何処にいるんだ?」
「戦場よ。『兄さんは俺が守る』って言って真っ先に飛び出していったわ。ちょっと前まではここにいたんだけどね」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「まぁそれだけ応錬のこと信じてるってこと。サレッタナ王国も大体そんな感じだったわ。騎士団長のロイガーと副団長のツァールも出張ってきてたみたいだし」
「ああー、懐かしい名前だな」
結局関りはほとんどなかったけど、あいつらのことは覚えている。
兄弟で騎士団をまとめているんだったよな。
兄のツァールの方が、難癖付けて俺に襲い掛かってきたんだっけ。
懐かしいなぁ。
でも、それだけの人に信じてもらえているっていうのは本当に嬉しいことだ。
記憶が消されて、俺がいろいろやらかした張本人だということになっているというのに……。
体を張って守ってくれている。
頭が上がらないな。
「それでねそれでね! ジグル君がイスライト家の専属護衛に任命されて~、いろいろあってメリルのお母さんのお父さん……要するにお爺さんが認めてくれて、養子にして貴族の仲間入りをしたって感じ!!」
「話がぶっとんだな」
「家族になるなら結婚しろという条件付きで!!」
「お爺さん凄いな!!」
マジで何があった!!
その過程が気になりすぎるんだが!!
それを言われた時にジグル、さぞびっくりしたことだろうなぁ……。
関係のない人が聞いてもびっくりするもん絶対。
でもまぁ、認められるほど強くなったんだな。
礼儀作法とかで苦しめられているあいつの顔が容易に想像がつく。
苦労してるぞ絶対。
「で、本当にいいのか?」
「何が?」
「いや、封印されること」
「うん。いいわよ。私も応錬の意見に賛成だしね。私たちがいて戦争が起こってる。それにメリルやジグル君を巻き込みたくない。まぁ、巻き込んじゃってるけどねー……。でもまだ遅くないと思うから、できるだけさっさとこの戦争を終わらせたいって感じかな」
「それをジグルとメリルに言う予定はあるか?」
「ないかなー」
リゼは頭の後ろで腕を組み、空を見上げた。
「あの二人だったら急に私がいなくなっても、その理由くらいすぐに分かるでしょ。ていうか私が今あの二人に会うと意思が揺らぎそうだから」
「そうか、助かる」
「元々この世界の人間じゃないしね」
「それは関係ないぞ」
「ん? あ、そうね」
自分を納得させるために、なんだか妙な理由も付けようとしていたようだ。
リゼが良ければ、それでいいのかもしれないが。
すると後ろから鳳炎が飛んできた。
どうやら俺たちを探すのに手間取っていたらしい。
「話は終わったか」
「おう。いいってさ」
「そうか」
「んでんで? これからどこか行くの? どうせ封印まで時間が掛かるんでしょ?」
「呑気であるな……」
「楽しめるときに楽しまないとでしょ」
「「確かに!」」
その瞬間、俺はアレナと姫様に手をぐいと引っ張られる。
まさか今から食べ歩きする気じゃないだろうな……。
と、思っていたらその予感は的中。
今日一日歩き回ることになってしまったのだった。
まぁ……いいかー。
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