4.37.鳳炎の過去
「私は空の声から不死鳥になれると聞いたぞ」
「空の声?」
俺は天の声、そして零漸は地の声……そして、鳳炎は空の声と来た。
今まで全く進展のなかった話ではあるのだが、また声が増えるとは思っていなかった。
一体声は何種類あるのだろうか……。
っていうか。
「これ、まんま四霊とか四神だな」
「私もお二方の進化先を聞いてそれを思いました。ですが私が不死鳥という事は鳳凰か朱雀かわからないので……どちらかと言われると悩ましいのですが、零漸殿が亀、ということは霊亀だと思うのです。なので四霊の方が濃厚かと」
「ってことは、あと一人確実に日本人がいるってことか。それがどっちか分かれば、四霊か四神のどっちに分類されているかがわかるって所だな」
「麒麟か白虎か……ですな」
「あんの~俺話が全く分かんないんですけどぉ……」
「ていうかその話は私が聞いていても良い話なのか……? 鳳炎君からも聞いたことのないことがバンバン出てきているんだけど……」
移動が面倒くさいので、俺たちはギルドマスターであるマリアの仕事部屋を使わせてもらっている。
確かにマリアにとっては進化とか種族とかいろいろぶっ飛んでる話になってはいるが……。
「まぁお前に聞かれても別に問題ないかなって」
「それは褒め言葉として受け取っていいのよね?」
マリアなら秘密を守ってくれるだろう。
ある意味ここは一番厳重な場所だ。
そう簡単に情報が漏れたりすることは無い。
さて、話を戻そう。
とりあえず俺たちの詳しい進化先は四霊か四神のどちらかにまで絞れた。
四霊であれば俺は応竜になり、四神であれば蒼龍になる。
まぁそれがわかったところで、あとどれくらいで進化ができるのか全く持ってわからないのではあるが、進化先がわかるってだけで少し期待してしまうものだ。
俺は未だ……という過去のまましばらく龍の成り損ないの姿でいなければならないのだがな……。
できれば早く進化するとしよう。
「鳳炎は今どんな種族なんだ?」
「私はそのまんまの意味でフレイムホークという鳥です」
「俺は龍の成り損ないだ」
「俺はー、爆硬トータルっす!」
フレイムホークという鳥は、読んで字のごとく炎の鷹らしい。
だがこの姿が非常に厄介であり、その姿でその辺に止まろうものなら足場が必ず燃えてしまうらしいのだ。
マリアに聞いてみたところ、そのフレイムホークは普通火山などにいるはずの魔獣だそうで、この辺りでは決してみることのできない魔物なのだという。
「てか本当に良いの!? 私君たちの正体知っちゃったんだけど!」
「お前が黙っていれば問題ない。ていうかそれなりに権力のある人物に俺たちのことを知っておいて貰いたいと思ってたところだ。それに、アレナとウチカゲ、更には鬼の里の者たちは俺たちのことを知っているからな」
「鬼の里があるのか!」
「米もあったぞ」
「!!!! こ、今度是非連れて行ってくれないか!! 頼む! 本当に頼む!」
「流石食涙の鳳炎。食べ物に関しては食いつくわねぇ~」
食涙の鳳炎?
なんだそのかっこ悪い二つ名は。
「食涙?」
「ああ、こいつはねぇ~……」
「ギルドマスター! ここは俺が話す!」
鳳炎はそう言って片手でマリアを制止させる。
マリアは素直に引き下がって、鳳炎が話をしだすのを待っているようだ。
「多分……お二方も同じ境遇だったのではないでしょうか」
「何がだ?」
「……食事です」
俺たちの食事は……大概魚か肉だ。
魚に関してはあまり美味いも不味いもなかったので、普通に食事をすることはできていた。
それは零漸も同じであり、特に食事に障害があるという訳ではない。
蛇になってからはほぼ肉。
鬼の里で世話になった時は時々野菜が出てきた程度で、その時も食事が苦になったということは無い。
零漸は亀になって陸に上がった時は、すでに肉を食っていたらしいし、別に苦になってはいなかったようだ。
「なんて幸せな奴らなんだ!」
「どうした落ち着け」
「私は……私は……! 虫を食べさせ続けられてきたのだ!」
「……虫」
鳳炎はその光景を思い出してしまったのか、ひどく青い顔になって頭を抱えていた。
相当思い出したくないのだろう。
だが何故虫を?
自分で狩って食事を調達すればいいというのになぜあえて虫を食べつづ……あ。
「お、お前……まさか……雛から始まったのか!」
「うっ……」
辛うじて胃の中にある物を抑え込み、親指を立てる。
か、考えたくもない……。
という事は設定的に……鳳炎は卵から生まれて、それからは親鳥に食事を与えられて生きてきたのだろう。
え? おぞましすぎない?
「貴方たちにわかるか……? 胃の中で暴れまわる芋虫の感覚が!!」
「やめろ鳳炎! 俺たちまで気持ち悪くなる!」
「そして胃の中で横たわる芋虫の感覚がああああああ!!!! それが鮮明にわかるのだよ! 雛だから嚙めもしない! 殺せないから丸のみだ! そして自らの胃の中で暴れ、ゆっくりと弱っていき! そして動かなくなる感覚! そして数時間後に腹が減る! それがどういう意味か分かるかぁ!! 消えたんだよ僕の中にいいいいいいいいい!! あああああああああ!」
「よせ鳳炎! それ以上はお前が持たない!」
「ん? 今僕って……」
「余計なこと言うな零漸、俺も気になっている」
半狂乱にはなっている鳳炎ではあるが、そのせいで何かを壊したりするということは無い。
とりあえず意識は残っているのだろう……。
器用だなおい。
鳳炎は俺がダトワームになった時よりも過酷な人生を送っていたのだろう……。
割と普通に同情してしまう。
「うえっほげほ……」
「大丈夫か……」
「ま、まぁ私の生まれはそんな感じで……それがあったからかどうか知らないが、何食べても目から涙があふれるようになった……。美味しい食事って素晴らしい……」
これはマジで料理という物に感謝をしている者の顔つきだ。
到底マネできるようなものではない。
無駄にイケメンってのが非常に腹立たしいが、それはこの際おいておくとしよう。
「で、僕ってなんすか?」
「忘れるのだ!」
「零漸わかってやれよ。こいつ高校デビューしたんだから」
「ああ!」
「おい! 当たらずも遠からずだけどおい!!」
この反応からして、本当の喋り方というか性格はこんなのではないのだろう。
おそらく元の一人称は僕で、この世界に来て私に変えたと言う所だろうか。
というか、前世での知識で話が通じるっていうのはなんとも嬉しい物だ。
今まで零漸しか話の分かるやつはいなかったし、こうして話すのはなんとも面白い。
あ、そういえば鳳炎に聞いておきたいことがあったのだった。
「鳳炎。記憶はあるか?」
「ん? ……あーそういうことか。私はあるぞ。応錬はないのか?」
「零漸はあるんだが……俺にはそういった物が全くないんだ。なぜかは知らん」
「では大変だったろう」
「いやそうでもないぞ?」
俺が失っている前世の記憶は俺の事だけ。
なので日本での常識とかは持っている。
親の顔とかどこに住んでいたとかは全く分からないが、日本の地名なんかは大体言える。
スマホやパソコンのことも知っているし、歴史のことも覚えている。
それだけあれば、この世界で暮らすのにはそんなに不自由はしなかったな。
「なんだそっか。じゃあよかったな」
「ああ」
鳳炎は前世の記憶という事は何とか隠してくれた。
流石に零漸よりは頭が良いらしい。
マリアの前で前世の記憶があるとか知られるのは面倒くさいからな。
零漸は今の会話の内容を理解できていないので、その辺はスルーでいいだろう。
鳳炎と話していると、話したいことが山ほど出てくる。
新しい情報源でもあるし、少しでも鳳炎のことを知っておきたい。
今はそんなに早く知りたいという情報はないが……今の鳳炎のことについて知っておくべきだろう。
「お前は今何してんだ?」
「私は冒険者ギルドで金を稼いでいる。今はBランクになったばかりであるな。まぁ人の姿になったのはちょっと前だし……幸運にもこの近くにいたから応錬たちより早く登録できたのが大きいな」
話を聞いてみれば鳳炎が人の姿になれたという時期は、俺たちと全く変わらなかった。
零漸も同時期だったことから、俺たちが人間になれるようになった時期は完璧に重なる。
ということはあれは共通の物だったのだろうか。
初めて俺が聞いた言葉が質量。
それを零漸と鳳炎も一番初めに聞いたのだという。
という事は、今一人はいないが四人のうち誰か一人があの条件をクリアすれば、全員の条件が一つクリアになるという事か。
そう考えれば確かにおかしなことはあった。
俺は何もしていないのに急に条件をクリアしたというメッセージが聞こえた事がある。
恐らくそれは俺以外の奴が、その条件をクリアしたという事だったのだろう。
てなると理解という奴をクリアしてくれた奴には感謝しないとな。
あれはマジでよく分からんかった。
理解って何よまじで。
「何か謎が一つ解けた気分だ……」
「全く分かんなかったっすからね~」
「確かに」
「あんたらそろそろ出ていきなさいよ……。ていうか鳳炎君。貴方、私になにか用があるんじゃなかったの?」
「あっ」
完全に忘れてやがったなこの野郎。
鳳炎はすぐに立ちあがってマリアに近づき、報告を開始した。
「オーク捜索隊、全滅しました」
「……」
「おぐほぁ!!?」
マリアが信じられない速度で鳳炎に拳を撃ち込み、部屋の端っこまで吹き飛ばした。
まぁ妥当な行動である。
これだけ重要な報告を俺たちに構って忘れていたわけだからな。
「なんでそれを始めに報告しないのよ! ぶっ飛ばすわよ!」
「もうぶっ飛ばしてるっす……」
零漸。それは言っちゃダメ。
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