4.38.討伐隊全滅


「で、どういうことかちゃんと説明しなさい」

「私の体力が半分持っていかれたのだが……」

「「お前弱いな!」」

「体力が少なく防御力が低いのだ! 致し方ないだろう!」


 何という弱さなのだろうか。

 確かに今の一撃はそれなりに強い攻撃ではあったように見えたが、そこまで削れるようなものではなかったはずだ。

 マリアも手加減はしているだろうからな。


 流石に今の一撃で体力を半分持っていかれるなど、強い魔物に出会ったら一撃で沈んでしまうではないか。

 よく今まで生き延びてこられたものだ。


 痛む腹部をさすりながら、鳳炎はよろよろと椅子に座って事の顛末をぽつぽつと説明し始めた。


「オーク捜索隊は報告にあった場所に向かったが……結局そこでの成果はあまり得られず、さらに奥に進んだそうだ。私も増援として向かったのだが、指定されていたキャンプには誰もおらず、そこにあったのは血の跡だけであった」

「……それで?」

「私は周囲の捜索を上空から行った。しかし敵はおらず、生き残りも見つけることができなかった。なのでまずは報告をと思いここに戻ってきたわけだ」


 オーク……というのは零漸とアレナが倒したあれの事だろう。

 確か俺とアレナがオークを発見したのは一週間以上前のことだ。


 俺はギルドにそのことを報告した。

 恐らくこの捜査隊は俺が持ってきた情報から作られた捜索部隊なのだろう。

 確か何処かでそういった話を聞いたことがあるような気がする。


 で……まぁ返り討ちという訳か。

 報告の時、俺は零漸とアレナが倒したオークが斥候である可能性があるとして報告した。

 なので他のオークが出てきてしまったのかもしれないが……それにしても捜査隊が壊滅……いや、全滅したとは思いもしなかった。


「建国以来この土地にオークが出てくるなんて戦争時以外聞いたことがないわ」

「おいおい、早くちゃんとした調査をしたほうがいいんじゃないか?」

「してこの結果なのよ」


 今回派遣したオーク捜査隊はBランク以上の騎士団で構成された部隊だったらしく、オーク程度であれば引けを取らない者たちばかりであったようだ。

 この騎士団はサレッタナ王国の兵士たちであり、国の問題だとして国が兵を貸し出してくれたのだという。


 だが結果は一人として戻ってこないという有様。

 明らかに異常な存在の何かがいることは明白だった。


「なんで一気に面倒ごとが増えるのよぉ!」

「仕事だろ……」

「そうだけどさ! まさかダンジョンでの問題と周辺での問題が一気に起こるだなんて思わないじゃない! 異常よこんなの!」

「……異常?」


 まぁ確かに異常であることには変わりないのだろう。

 あのダンジョンは一体いつからできたものなのかも良くわかっていないし、オークだってこの土地に来るだなんてことはなかったようであるし。

 分からないことだらけの状況ではあるが、何か引っかかるようなものがあるように思う。


 それはどうやら鳳炎も同じらしく、何やら考えを巡らせているようだった。


「鳳炎」

「ん、いや……私もちょっとわからないことがあってな……。惨殺現場の状況なのだ」

「と、いうと?」

「オークってのは人も食う。私も実際に目撃してしまっているのでそれは確実だ。だが剣や武器などは食わない。なのにあの場所には防具の破片どころか武器の一つ、矢の一本も落ちていなかったのだ」


 俺はすぐに骸漁りか何かではないかとは思ったが、流石のあの距離まで赴いて骸漁りをする奴なんていないだろうと考えて、その考えを振り落とす。


 そうなってくると、確かにその現場の状況はおかしいと言えるだろう。

 相手は魔物であり、人の持つような武器を使うとは思えない。

 そう思うのは、相手がオークであるとされているからである。

 あいつらの図体は非常に大きく、人間が使うような小さな武器を扱えるはずがない。


「本当にオークが襲って来たんすかね?」

「ほぼ間違いはないと思うのだが……見ていない以上確信は出来ないのが現状である」


 とは言っても騎士団が負けるとなれば、それ相応の魔物が出てこなければおかしい。

 オーク程度倒せるような騎士団だとは聞いているが、実際はどれほどなのかも俺は知らない。

 マリアがそういうのであるから、そうなのではあるだろうが……ではそれより強く、知恵のある魔物などいるのだろうか。


 この世界にまだ疎い俺には答えを導き出せなさそうな案件だった。


「とりあえずこの案件は私の方でやっておくわ……」

「オーク再調査、国への報告、ダンジョンの再調査、調査のための派遣する冒険者及び騎士団……やることいっぱいだな!」

「君らのことの書類も作らないといけないのよ……? それにこうなった以上警戒を強めないといけない……。前の報告では一匹だったっていう事だったからあんまり警戒はせずに私たちだけでやってたんだけど……今回はそうもいかなさそう」

「ちょっと同情した」

「ちょっとなのね?」


 これはいつ俺が指名されて派遣されるかわからなくなってくるかもしれないな。

 仕返しに……。


 ま、呼ばれたら呼ばれたでその時は頑張るとしましょうかね。

 割とギルドマスターってのは大変そうだし。


「じゃ、とりあえずまた明日来るよ。その時にランクも上げてくれ」

「はいはい……」

「お、応錬!」

「ん?」


 零漸とこの部屋を後にしようとしたとき、鳳炎が声をかけてきた。


「わ、私もお前たちの仲間に入れてくれないか!」


 お、まさかの申し出……って言ってもそりゃそうだよな。

 この世界に来て初めての日本人。

 このままはいさようならって訳にはいかないだろう。

 俺としては別にいいのだが……。


「どうする零漸」

「いいんじゃないっすか? 確かチームに制限とかなかったはずっすから」

「ま、アレナとウチカゲの意見も聞かないとな。よし、とりあえず来い鳳炎!」

「あ、有難う!!」


 安心したように礼を言う鳳炎。

 これが恐らく本来の性格から出る声であり、口調なのだろう。

 ま、その辺は思う所があるようだから、そっとしておくことにしておこうか。


 とりあえず報告も終わったし、明日には全員そろってランクを上げてもらうことにしよう。


 それから宿に帰り、自室で気絶するように眠りについた。

 鳳炎もこの宿を拠点にするらしく、以前まで借りていた宿からこちらに引っ越してくることになった。

 鳳炎のことは明日の朝にでも説明しておけばいいだろう。


 とりあえず今日は、ダンジョンで溜まりに溜まった疲れを癒すとしよう。

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