第九章 王子誘拐
9.1.ラックを返しに行こう
寒さが続いていたが、ようやく日が暖かくなり始めて春が顔を覗かせる。
だがまだ寒いのには変わらない。
日が沈めば日中に溶けた雪は固まって凍り付く。
暖かくなり始めたといっても、風は相変わらず冷たく、それに思わず身震いしてしまう程だ。
まだまだ体調管理に油断ができない日が続いていく。
雪も多く残っているのだが、それはバミル領だけであったようだ。
バミル領は氷照山脈から吹雪いてくる風に雪が乗ってくるため、他の地域よりも積雪量が多いらしい。
上空を飛んでいる俺たちにはそれが良く分かった。
前鬼の里、ガロット王国にもまだ雪は残っているが、もう降ることはあまりない。
なので溶けていくのを待つばかりだ。
ガロット王国に到着した俺と鳳炎、アレナ、ウチカゲ、ジルニアは早速診療所へと向かっていた。
ジルニアがいたおかげで融通を利かせてもらい、鳳炎のことを見てもらうことになったのだ。
しかしやはりというべきか、記憶をなくした患者は何人か見てきたものの、根本的な治療方法はないというのが現状であるようだ。
傷や打ち身などを治すための診療所。
どれだけ高名な回復師がいたとしても、記憶を取り戻すといった治療はできないらしい。
「すみません、応錬さん……」
「いいっていいって。ジルニアのせいじゃないさ」
「僕記憶なんて失ってないってばー」
「鳳炎は黙ってろ」
こんな調子なんだもんなぁ、こいつも。
記憶を失ったっていう自覚がないのは普通なんだけどね。
綺麗に記憶が書き換えられているし、何とも面倒くさいことになったよ。
とりあえずガロット王国でどうこうすることはできない、ということは分かった。
次はサレッタナ王国で見てもらってもいいかもしれないな。
だけど久しぶりにガロット王国に来たんだから、もう少し遊んでいきたいというのはある。
いつ悪魔が次の行動に出るか分からないから、遊んでいる暇はないんだけど、息抜きくらいなら許されるだろう。
戦ったばっかりだし、こいつらも疲れているはずだ。
少しは休ませてあげたい。
「ウチカゲ見て見て。バラディムに教わった短剣術」
「ちょ、診療所内で刃物は出さないで……」
アレナはそう言って小太刀を出そうとするが、ウチカゲはそれを咄嗟に止めていた。
あれ、もしかして休憩必要ない?
めっちゃ元気じゃん……。
アレナはバミル領にいたときずっとバラディムに剣術を教えてもらってたからな。
とはいってもアレナの身の丈に合う武器は短剣なので、そっちをメインに教えていたようだが。
今回あんまり使う機会はなかったみたいだけど、覚えているだけで身を守る方法は増えるからな。
さて、ちょっと整理しますか。
まず俺たちが最優先でやりたいことは、鳳炎の記憶を取り戻すこと。
こいつは何かに気が付いた。
それを思い出してもらえれば、これからの行動もすぐに決まるはずだ。
そして悪魔だが、あいつらは本当の敵ではないということが分かった。
致し方なく、人間の領地を襲っているにすぎない。
だが、流石に見てみぬふりはできそうにない。
他にも何か方法があるはずだ。
人間を殺さなくても解決できる方法が。
結局悪魔が次にやろうとしていることは全く分からなかったし、目的も定かではない。
本当の敵も分からないが、それは鳳炎の記憶を取り戻すことによって分かることだろう。
今は何の情報もないんだ。
鳳炎のことをまずは何とかしたい。
そういう技能を持っている人を当たれば、何とかなりそうな気もするが……。
これは運だな。
「
「ん? あー……。ラックも返しに行かないとな。もうずいぶん借りてるし」
「
「誰に?」
「
ローズじゃなかった。
ちょっと面白かったな。
でもそうだな、まずはこいつを長いこと借りちゃってるから、返しに行こうか。
向こうまでは二日かかるし、最後に大空の旅を満喫できるでしょう。
解放的な空間で飛びまくって気分も十分いいだろうしね。
ま、アスレは忙しいだろうし、またいつでも会えるからその時に会うことにするか。
「皆もそれでいいか?」
「構いませんよ」
「だいじょーぶ!」
「ほんじゃ、決まりだな」
今度はサレッタナ王国の診療所を訪ねてみることにしよう。
ついでにイルーザの所にも行って話を聞いてみることにするか。
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