9.2.飲みに行こう
あれからすぐにサレッタナ王国へと飛び立った俺たちは、無事にラックの住んでいた場所までは到着することができた。
だが肝心のローズやユリーはその場にいなかったようだ。
とりあえず俺たちはラックの背中から降りる。
「
「「
ラックは騎竜のリックとパックにそう挨拶をするのだが、走って来た二匹は思いっきりラックに飛び蹴りをかます。
体格差もありそんなに痛手を負っていないラックではあったが、二匹の行動に困惑しているようだ。
だが話を聞けば蹴り飛ばした理由が良く分かる。
「「
「
「嫉妬か……」
まぁ今まで一緒にいたのに、ラックだけが広い外に行ってしまったことに不満を覚えていたのだろう。
本来、騎竜は野山を駆けまわるらしいので、やはりこの空間ではこいつらも狭いらしい。
馬車より速いのは明らかなのだが、やはりラックと比べるとその移動速度は段違いだ。
それに数が少ない。
こいつらをまともに使えるのは俺や雷弓の二人とジグルだけだろう。
出番が少ないことに怒っているんですね。
「大丈夫なの?」
「まぁほっとけばいいさ。それより、あいつらは何処だ?」
「この辺りにはいないようですね。待ちますか?」
「いや、鳳炎を診療所に連れて行ってみよう」
目下の目的は鳳炎の記憶を取り戻すことにある。
ラックを置いておけば帰ってきたということは分かるだろうし、別に伝える必要もないだろう。
「よし、鳳炎。病院行くぞ」
「だから私は大丈夫だと言っているだろう!?」
「大丈夫だから問題なんだよ!」
ああ、しっかり大人の姿に戻った鳳炎は通常運転です。
やっぱこいつの一人称、僕の方が似合うぞ。
何度も何度もお前は記憶を消されているって説明しても、信じてもらえないんだよなぁ。
でもバミル領でのことやルリムコオスとの会話全てが抜けているので、違和感だけはなんとなくあるようだ。
違和感があるというのであれば、記憶が戻る可能性は十分にある。
「あ、でもサレッタナ王国の診療所って何処だ? 鳳炎、知らないか?」
「知ってはいるが……。無駄足だと思うぞ」
「お前が決めるんじゃない」
そっちが駄目でもイルーザの所に向かってみる予定だし、まぁ何とかなるだろう。
あいつも医学知識はちょっと持ってるのは知ってるしね。
呪いのことも知ってたんだよなぁ、そう言えば。
ま、その辺は会ってから聞いてみることにするかな。
ということで鳳炎の案内の下、診療所に行こうとした俺たちだったのだが、そこで見知った人物が歩いてきていることに気が付いた。
「あ! 応錬の兄ちゃん! アーレナー! ウチカゲさんと鳳炎さんも!」
「ジグルか」
パタパタと荷物を持って出て来たのは、雷弓に弟子入りをしているジグルだった。
武装はしていないようで身軽な格好をしているようだ。
持っていた荷物を置き、手を軽く払ってからこちらに近寄ってくる。
「帰ってきてたんだ!」
「ああ、久しぶりだな」
「久しぶり、ジグル。ローズさんとユリーさんは?」
「もうすぐ帰ってくるよ」
ほぉ、そうなのか。
じゃあもう少しここで待って、そいつらに鳳炎の記憶を取り戻せる知り合いがいないか聞いてみてもよさそうだな。
Sランクパーティーなんだから、そういった人脈もあるかもしれないしね。
「それより兄ちゃんたち大丈夫だったの? バミル領が悪魔に襲われたっていう話があったけど……。前鬼の里と近かったから大丈夫だったかなって」
「この通りだ」
「あ、そっか!」
俺は手を広げで無事だということをアピールする。
それに気が付いたジグルもその意味に気が付いたようで、勝手に納得してくれた。
「……何のはなしむぐ!?」
「ここでそのことはご内密に」
「?」
ウチカゲは手を鳳炎の手前に出して口を滑らせてしまいそうなのを止める。
鳳炎はその時の記憶がない。
なのでジグルの言っている意味がよく分からなかったのだろう。
何度か話はしたのだが……。
こんな感じで何度も何度も質問をしてくる。
これはまさか……消され続けているのか?
その可能性も捨てきれないな……。
俺が一人で考えていると、ジグルが一つの提案をしてくれた。
「あ、そうだ! 皆これからご飯食べに行かない?」
「お!? いいぞ! 行こうではないか!」
「めっちゃ食らいつくなこいつ……」
「そういえばお腹空いたなぁ」
「食べてからでも遅くはないでしょう。今のところ悪魔の動きはありませんし」
ここじゃない何処かで活動している可能性はあるが、それの情報は知らないから動けないし……。
まぁ食事しながらあの二人に鳳炎の助けになる人物を聞いてみることにするか。
久しぶりだな、こうして飯を喰いに行くのは。
少し楽しみだ。
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