9.3.料亭兼酒場
「ひっさしぶりだなこういうの」
「だねー!」
賑わう店の中で、一つの大きなテーブルを俺たちは囲んでいた。
ここ、羽休めは昼から晩まで開いているお店だ。
ここに来るのも久しぶりだなと懐かしみながら、俺たちは料理が来るのを待っていた。
「にしてもジグルが応錬を誘うなんてねぇ~」
「いいじゃないですか。ご飯は皆で食べたほうがおいしいですよ」
「そうよユリー」
「いやだとは言ってないじゃん!」
道中で雷弓の二人とも無事に合流している。
どうやら二人は依頼をこなしてきていたらしい。
サレッタナ王国の復興も問題なく進みつつあり、冒険者の仕事も増えてきたのだという。
少し時間がかかってしまったが、ギルドでは通常通りの活動ができているようだ。
冒険者の生命線であるギルドがしっかり機能したのは良いことだろう。
「それより応錬さん! 約束忘れてないですよね?」
「手合わせね。覚えているとも。長いことラック借りてたし、それくらいはな」
「じゃあ明日にでもどうですか?」
「構わないぞ」
そんなに長いこと時間は取られないだろうし、それくらいだったら問題はない。
ていうかしっかり覚えていたなこいつ……。
まぁ別にいいけど。
とりあえず全員いるし、鳳炎の助けになるかもしれない人を知っていないかどうかだけ聞いておくか。
「なぁ、二人とも。実は鳳炎がちょっと記憶喪失で、それを治せる奴とか知らないか?」
「え、その前に大丈夫なのそれ」
「問題だから聞いているんだ」
「ああ、そうよね。んー、ごめん。私はそういった人は知らないわ」
「私も知りませんね……。診療所でもそういった治療はしていませんし、行っても意味ないかもしれません」
「うぇ、そうなの?」
そう聞くと、ローズは勿論ユリーも頷いた。
ああー、鳳炎が意味ないって言ってたのはそれなのか。
治療方法がないのはなんとーく分かってたけど、まずここでは見てもらえすらしないのね。
そうか、ガロット王国ではジルニアが融通利かせてくれたおかげで話を聞いてもらうことはできたけど、ここではそうも言っていられないか。
話を聞きにいくだけ無駄かぁ……。
こりゃ詰まったな。
「だから私は大丈夫だと言っているのだ」
「「「大丈夫なのが問題なんだ」です」よ」
「……」
自覚がないって面倒くさい。
でも何とかして思い出してもらわないと、これから先進めそうにないんだよなぁ。
ぶっちゃけ、今は悪魔が次に襲う場所の情報もなければ、本当の敵の情報すらない状況だ。
唯一知っているのは記憶を失った鳳炎ただ一人……。
何とかしないといけないんだけどなぁ……。
望みはイルーザだけになったか。
ま、今は暗い話をしていたってしょうがないか。
折角の皆との食事だし、今だけは楽しむことにしよう。
「ありがとうな、二人とも。ところでジグル。お前は今ランクはそのままか?」
「Bランクだよ!」
「「Bランク!?」」
ジグルが堂々とそう言ったことに、アレナと俺は心底驚いてしまった。
追い抜かれた!?
こ、この二ヶ月で何があったというのだ!?
「実はイスライト家の娘、メリル様を助けたことで、イスライト家直々にジグルに褒美を与えたいって言いだしてね?」
「ああ……あのおてんば娘……」
「そうそ……何でメリル様がおてんば娘って知ってんの……?」
いや知ってるも何も、会ってますから……。
その性格もリゼのお陰でよく理解してますんで。
でも今はこっちに移動中の筈。
あと一週間くらいしないと帰ってこなかったはずだ。
リゼがいるのでもし魔物に襲われたとしても何とかなる……よな?
あいつ集団戦苦手っぽいしなぁ……。
「それで?」
「あ、えっとね。それでジグルが欲しかった褒美ってのがランクだったって訳」
「ジグル?」
「ちゃんと試験はしたからね!?」
「ならよし」
実力があるんだったらいいんじゃないかな。
無欲もいいところだけど。
「確かに、ジグル君は見ないうちに成長していますね……著しい程に……。あの時とは大違いだ」
「ああ、あの時な」
大声では言えない話だが、ジグルは元奴隷である。
実験に使われていたみたいだけど、その正体が呪いだと分かって俺はそれを解呪した。
結構あっさりできたことに皆驚いてたけどね。
どっちかっていうと俺の技能に。
そういえばウチカゲはジグルと会うの、本当に久しぶりなんじゃなかったかな?
話は聞いていただろうけど、ほとんど会っていなかった。
それこそ、イルーザの所で一度顔を合わせたくらいじゃなかったっけか。
「すげーなー……。あっさり超えられたわ」
「ジグル凄い」
「……こんな小さな子供だというのに、私の一つ下のランクだというのか……!」
「へへっ」
末恐ろしいな……。
成長したジグルの戦い方見てみたいわ。
明日ローズと模擬戦の予定だし、その時にでも見せてもらうとしましょうかねぇ。
これは馬鹿にしていたあの子供たちも反論できませんわ。
さすがSランクパーティーに弟子入りしているだけはある。
「これもやっぱり、魔術が関係してんのか?」
「そうですね。使えるか使えないかで全然違いますよ。私も水弾しか持っていませんしね」
「え!? 一個しか技能持ってないのローズさん!」
「そうですよ」
ローズの発言に俺たちは普通に驚いた。
あー、そういえば一度見せてもらった時に水弾の後になんか技名言ってたな。
水弾を魔術で変形させた技の名前なんだろうけど。
でも一つの技能だけしか持っていなくても、Sランク冒険者になれるのか。
それは凄いな……。
俺なんか技能に頼りっぱなしだぞ……。
というか改編のやり方とか分からん。
「今度アレナに教えてやってくれないか」
「構いませんよ。でも私が教えれるのはやり方だけですけど」
「……応錬。私の持ってる技能ってどうやって変形させるの……?」
「……それは先生に聞いて?」
「え?」
「え?」
すいません、重力を魔術として扱う場合どうすればいいか俺には分かりません。
適当言いました。
「お待たせしましたー!」
俺たちが会話をしていると、ようやく料理が運ばれてきた。
人気の店なので料理が来るのも少し時間がかかってしまうが、それでも味で挽回できる。
普通に良いんだよなこのお店。
料理が次々に机に並べられ、さぁ食べようといったところで……。
壁が爆発する。
「!!?」
爆破した壁付近にいた人は怪我をしてしまっている。
店の中は一気に慌ただしくなり、悲鳴や絶叫が聞こえて来た。
なんだと思って全員が身構えると、煙の中から数人の人影が現れたのだった。
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