9.4.襲撃者
急に爆発した壁の中から、三人のローブを着た人物が入ってくる。
顔にもマスクのような物をしているので、素顔を見ることはできなかった。
爆発によって周囲はめちゃくちゃだ。
木の壁は粉砕し、近くにあった椅子や机は完全に吹き飛んで、離れている客にまで被害が及んでいる。
なんとか逃げようとしている者もいるが、焦りから上手く足を動かせない者も多くいた。
「なんだ何が起こった!?」
「応錬様、鳳炎殿はお下がりください! 貴方様の技能はこの狭い空間では不向きでしょうから!」
「確かにな!」
「アレナ! お願いします!」
「分かった! 『重加重』!」
突然店を壊した奴らに手加減する通りはない。
異状事態だと判断したウチカゲはすぐに動きだし、指示を飛ばしてくれた。
そこでアレナの重加重が、三人に向けられる。
だが……。
「あれ!? どうして!?」
誰も膝をつかない。
アレナは確かに重加重が相手に付与されたことを感じ取ったが、どうしたことが効いている様子がまったくなかった。
すると二人のローブを着た人物が前に出てくる。
「雷弓、及び霊帝だな」
「……真昼間からお仕事かしら? ご苦労なことね」
「肯定と受け取る。では」
その瞬間、二人はローブの隙間から武器を取り出した。
一人は双剣、もう一人は杖だ。
後方にいる人物は全く動かないが……警戒はしておいた方がいいだろう。
だがまずは目の前の敵である。
どうやらこいつらは俺たちと雷弓の二人を狙っているらしい。
どういうことかは全く分からないが……簡単にやられるわけにはいかないのだ。
まず先手を切ったのはウチカゲ。
持ち前の速度で双剣を持っている人物と対峙する。
とはいってもウチカゲに狙われた時点で負けが確定しているようなものだ。
俺たちの出番はほとんどないと言ってもいいだろう。
シュッン、という音を立てて消えたウチカゲは、問答無用と言わんばかりに鉤爪を相手に向けた。
「『クイックリー』」
ウチカゲの攻撃が相手に到着するよりも前に、ローブを着た人物は技能を使った。
すると寸前でウチカゲの攻撃は回避される。
「!?」
「……」
相手は明らかにウチカゲに目線を向けていた。
こちらの動きが完全に見切られているらしい。
そのことに気付いてすぐに振り返り、もう一本の熊手に納められている鉤爪を展開する。
空気を蹴って急停止した。
相手の動きを見ると、既に敵はこちらへと向かってきていた。
だらんとぶら下げただけの二つの双剣が、下段よりウチカゲを捉えてくる。
それを片方の熊手で真横に弾いたのだが、相手はその威力を利用して回転し、回転しながら攻撃を繰り出してきた。
その動きはウチカゲの速度とほぼ同等。
ギャキキン!
金属が触れ合う音が何度も聞こえる。
その音から攻防が繰り広げられているということは俺たちでも理解できた。
「なんと……!」
「やるじゃん」
「部屋を破壊することになるが……! 『鬼人瞬脚』」
「『スローリィー』」
ガンッと地面を蹴って床の一部をひっくり返したウチカゲ。
その速度は先ほどとは全く違うものになる。
はずだった。
ギャリンッ!!
相手の双剣がウチカゲの攻撃を防いでいた。
鬼の力を持つウチカゲの攻撃力は相当なものなので、ただの力勝負だけであれば負けはしない。
なので相手は一気に後方へと押し出される。
しかしウチカゲは驚いていた。
今の攻撃を防げる人物など、居ないはずだと思っていたからだ。
オークの群れを二秒足らずで始末できるこの速度。
自身が持てる最速であり、切り札の一つであるこの速度が先ほど看破されて防がれてしまったのだ。
驚かないはずがない。
「どういうことだ……!」
アレナの重加重が効かず、ウチカゲの最速の攻撃が防がれた。
何者だと疑ってかかるのは普通だろう。
一方、杖を取りだした人物との戦闘も、真隣で繰り広げられていた。
遠距離には遠距離攻撃で。
なのでまずはローズが前に出て敵に攻撃を繰り出していく。
「『水弾』『ライフルウォーター』」
水弾の水を鋭利そうな姿に変え、それを目に見えない速度で敵に撃ち込んでいく。
この攻撃はローズが一番得意とする魔術であり、様々な方向へと追尾する機能を持っている。
相手からしたらたまったものではないだろうが、戦闘とはこういうものだ。
だが相手も黙っているわけではない。
「『スロット』」
相手が技能を唱えると、ローズの放った水弾魔術は見えない何かに吸収されてしまった。
一瞬の出来事であり、こちらからは魔術がかき消されたようにしか見えない。
「!? 『水弾』、『カッター』!」
もう一度水弾を展開し、今度はそれを横に薄く伸ばしていく。
十分に薄くなったところで、水弾魔術は敵へと向かって飛んでいった。
だがそれもかき消され、相手には一切のダメージが入っていない。
どういうことだと混乱するが、ローズはすぐに敵の観察を始める。
先ほどの技能の名前は聞こえていた。
スロット。
これが相手が使った技能ではあるが、これがどのような効果を示すものなのか完全には分からない。
だが魔術を使って分かったことといえば、魔術、もしくは遠距離技能が無効化されるというもの。
そういうことであれば接近戦で戦うのが一番好ましい。
ローズはすぐに杖で二回ほど地面を突く。
コンコンッという音を聞いたユリーが一気に跳躍し、相手へと向かって攻めこんだ。
「ローズ了解! 喰らえ!」
「っ!?」
戦斧を盾にして跳躍しているため、相手からの攻撃は防ぐことが可能。
相手から見れば、今ユリーの体は斧の陰に隠れているので見えない。
敵の能力が分からない今、斧での攻撃はリスクを伴う。
故に。
「らぁあ!!」
「ごっえ!?」
拳で普通に殴る。
いきなり飛んできた斧に驚いて避けようとするが、それを追尾するようにユリーの拳が相手の顔面を捉えた。
綺麗に入ったようで、ローブを着た人物は床を何度か跳ねて壁に激突する。
一度手放した戦斧を足で拾い上げたユリーはすぐに構えをとった。
「まず一匹!」
「ナイスタイミング! ユリー!」
「まっかせなさい! 何年の付き合いだと思ってんのー?」
一度の合図だけでタイミングを合わせて攻撃をしにいったユリー。
俺もああいうのやってみたい。
ガララッ……。
吹き飛ばしたローブを着た人物が、ゆっくりと立ち上がる。
「え?」
首を抑えながらではあるが、先ほどとほとんど変わらない動きをしていた。
まるで一切のダメージが入っていないような、そんな印象を受ける。
「「お前たちは何者だ!」」
ウチカゲとユリーは、同じタイミングで敵に言葉を投げかけた。
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