4.13.依頼のお手伝い


 昼辺り、ギルドは若手冒険者が多いようで、依頼の達成報告をしたり、昼からの依頼を受けていたりと忙しそうにしていた。


 この中に俺も潜り込まなければいけないのかと思うと少しあれだが、依頼はジグルが受けてくれるので俺は待っているだけで良さそうだ。


 うーん……依頼を受けるときはほとんどの時間帯が混んでいるな。

 朝は混むのはわかるのだが……昼も混むのか……。


 高ランク帯の受付はほとんど混んでいないのだが、俺達はまだ低ランク帯だから混んでいる低ランク帯の受付に並ばなければならない。

 しかし朝に依頼を受けなければ依頼をこなす効率は下がるので、朝には必ず一つ受けておきたい。

 だったら混む前に受付に行けばいいではないかと思うかもしれないが、このギルドは開く時間が遅いのだ。


 時間帯で言えば八時くらいだろうか?

 小さい子供やお年寄りまでもが完全に起きて活動する時間帯だ。

 なのでほとんどの冒険者は起きてるし、なんなら全ての店が開店している。


 うん。依頼受けに行くのに早起きする意味はないね。


「兄さーん、受けて来たよー」

「おう。なにを受けて来たんだ?」

「ゴブリン討伐」


 よく聞く生命体の名前をやっと聞いた気がする。

 Eランクからは討伐依頼が受けれると聞いていたが……まさかそんな奴を討伐できるようになるとは思っていなかった。


 どうやらゴブリンは常時討伐依頼が出されているらしく、他にも二種類の生物が常時討伐対象として依頼書が常に貼り付けられているらしい。

 それも繁殖力の高い生物のようだ。


 一つはアシドドック。

 これは一度戦っているからよくわかるのだが、あの数は尋常ではない。

 俺達が戦ったのはあの半分ではあったが、全てのアシドドックと戦っていたらあの場で確実にMPが消えていたことだろう。


 そしてもう一つがラスカという鳥型の魔物らしい。

 見たことがないので何とも言えないが、やはり鳥という事なので飛ぶらしい。

 数は多いし、飛行速度は速いしで、なかなか討伐することが難しい魔物のようだ。

 ゴブリンを討伐している時でも出てくる事があるそうなので、運がよければ出会うことができるかもしれない。


 まぁ……とりあえず俺なら確実に全部仕留めれるだろう。


「じゃ、案内よろしくな」

「あれ? 兄さん知らないの?」

「なんせここに来たのはつい最近だ。何もわからん」

「わかった。じゃあ魔法陣の所に行こう」

「……ん?」


 なんだって?


「待てジグル。魔法陣とはなんだ」

「え? 教会が設置してるワープの魔法陣だよ。この国って森が遠いでしょ? だからそこで一気に飛んでいくの。帰りも配布される魔石を発動させれば帰ってこれるよ。利用料金は高いんだけど、俺一人なら問題なかったし」


 開いた口が塞がらないというのはこのことを言うのだろうか。

 まさかそんなものがあるとは……そんなものがあるのを知っていればすでに使っていた。


 この世界にとってワープの魔法陣というのはそんなに珍しい物ではないらしい。

 とは言っても、その設置には非常に時間がかかってしまうらしく、戦闘での実用性は皆無のようだ。


 緊急要請とかで常備させておけば良いとは思うのだが……魔石自体が非常に高価な物なので配って回ることは不可能らしい。


 一度の利用料金は銀銭五枚。

 一人分にしては確かに高く感じるが、その分動ける時間が多くなるので、薬草や素材をちゃんと回収していれば元は取れるのだという。


「便利な物があるなぁ……」

「とは言っても三か所にしか魔法陣は設置していないから、行ける範囲も少ないんだけどね」

「それでも馬車で行くよりかよっぽどいいな」


 ジグルに案内されて、俺達はワープの魔法陣があるという教会へと赴くことにした。



 ◆



 教会に辿り着いた俺は、その教会の大きさに圧倒されていた。


 大きさだけで言えば冒険者ギルドの三倍くらいありそうだ。

 それだけでこの教会が持つ権力を推し量ることができるのだが……王族とためを張っているのではないかと少し心配になってくる。

 もしそうだとすれば政権に大きくかかわってくると思うのだが、俺には関係のない事だったのでとりあえず忘れることにした。


 中に入るとすでに数人の冒険者が魔法陣に向かって歩いている姿が見て取れた。

 利用する際のお金を払い、帰還用の魔石を受け取って進んでいるようだ。


「あれか?」

「うん。あそこでお金を払って魔石を貰うんだよ」


 教会はこれでぼろ儲けをしているのだろうな。

 ま、とりあえず俺も利用してみるとするか。


 ジグルと一緒にお金を払って魔石を貰う。

 この魔石はここの魔法陣の座標を記録しているようで、その中にこの座標へワープするための魔法陣が施されているらしい。


 それを持ったまま魔法陣へと歩いていき、その中央にジグルと一緒に立つ。

 魔力を魔法陣に籠めれば勝手に発動するらしいが……魔力はどうやって流すのだろうか?


「ジグル、これどうやって発動させるんだ?」

「えーっと、足元に魔力を流すイメージを思い浮かべればすぐにできるよ」

「……こうか?」


 とりあえず集中するために目を瞑って、ジグルの言った通りにイメージを思い浮かべてみる。

 だがこれが意外と難しい。

 魔力なんて見たことすらなければ感じたことすらないのだ。


 俺がしばらく唸っていると、ジグルがツンツンと俺を突っついたので、目を開けてみたところ……全く知らない場所に俺は立っていた。


 周囲にはテントがいくつも張ってあり、周囲には様々な冒険者がたむろしていた。


「あれ?」

「兄さん? 着いたよ?」

「いつの間に……」

「魔力吸われた感じしたでしょ?」

「んー……」


 魔力が吸われているのであれば、ステータスが変動しているはずなので、ちょっと見てみることにする。


===============

 LⅤ :1/300

 HP :650/650

 MP :1230/1231

===============


 ええ…………。

 1しか減ってねぇ……。 


 そりゃ吸われた感じがしないわけですよ。

 てかそんな極小の魔力で発動するんだね、あの魔法陣。

 低コストも良い所だ。


 だがまぁ、低コストでいいというのならば、これから行動するとき魔力の回復を待つなんてことはしなくていいのだから、便利といえば便利ではあるが。


「ジグル、ここは何処なんだ?」

「王都から南に行った場所だよ。で、この場所は冒険者キャンプ。数日森に籠ったり、長期に渡る依頼は此処を利用するよ」

「中継地点といった所か。ま、こんなところで無駄な時間を過ごすこともない。行くか」

「え」


 妙な声を出したので、ジグルの方を見てみるとなんだか嫌そうにしていた。

 何かしたいことでもあるのだろうか……?


「む? どうしたジグル」

「いや、ちょっと休憩を……」

「必要なのか?」

「え、兄さん疲れてないの? 魔法陣使ったのに?」

「いや全く」

「俺、さっきので魔力半分持っていかれたんだ。ちょっと休憩させて……」


 あれで半分持っていかれた?

 俺は全くと言っていいほど魔力を消費しなかったわけだが……これは体格や年齢によって変動してしまうものなのだろうか。


 まぁ疲れてしまっているのであれば、無理に動かすのは可愛そうだ。

 今回はゴブリン討伐という討伐依頼なのだから、万全な状態で挑まなければ怪我をしてしまうだろう。


 しかし、休憩で時間を潰されてしまうのもなんだかあれだな。

 えーと……確かここに……。


「ジグル、ほれ」

「……ナニコレ」

「マナポーション」

「え、やだ、いらない」

「ほれ」

「え、ちょ」


 冒険者キャンプに小さな悲鳴が響いたが、こういうのは割とよくある事なのか、特に気にされることもなく事は終わった。


 だが逆にジグルがぐったりしてしまった。

 まぁあれだけ不味い物を飲めば仕方ないのかもしれないが……。


 ふむ、これは改善してみる方がよさそうだ。

 これに回復水とかを入れて少し甘くするとかできないのだろうか? 


 いやまずは匂い消しか。

 生姜……あるかな? ネギの青い部分とか? あるかなぁ……。

 今度薬局のタトムじいさんに聞いてみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る