4.14.ゴブリン討伐


 ジグルが何とか回復したので、俺達はゴブリンがいるという場所に向かって森の中を進んでいた。


 ジグルに飲ませたマナポーションだが、やはり効果があったようで、いつもより数時間早く活動できているらしい。

 ならば今度、マナポーションを買い溜めしておいた方がいいかもしれないな。


 飲むことにより違うダメージを喰らってしまうようだが、まぁこれには慣れてもらうしかない。

 慣れることでもしもの事態に備えることもできるだろうし、飲み慣れていて損はないはずだ。


「うぇ……」

「まだ残っているのか?」

「あんなの飲み物じゃないよ!」

「それはわかる」


 確かにあれは飲み物の味ではない。

 味を代償にそれなりの効力のついた魔力回復ポーションになっているのだから、まぁ性能としては良い物なのだろうが……。


 しかしどういう原理で魔力が回復するのだろうか。

 考え出せばきりがないし終わりが見えなさそうなので、こういうのは専門家に聞くことにしよう。

 

 さて、そろそろ目的地に着く頃だ。


「この辺りか?」

「うん。本当は巣を叩かなきゃいけないらしいんだけど、危ないから俺達は外に出ている奴を間引くことしかできないんだ。巣を叩いたとしても、またどこからともなく沸いて出るらしいんだけどね」

「へー」


 完全に森の中なので視界が悪い。

 とは言っても俺に視界はほとんど関係ないので、いつも通り半径数十メートルを索敵しているわけだが……めっちゃいる。


 相手もジグルもそれに気が付いていないようなので、まだ教えない。

 こういうのは気が付いてもらうのがいいだろうしな。

 今回の主役はジグルなのだから、出来るだけ手はかさない方がいいだろう。


 まぁ今回の数は……十匹程度か。

 これならもし気が付くのが遅れても問題なく対処はできるだろう。

 俺が動けばだが。


「ん?」


 ジグルがゴブリン達の居る方を向いて首を傾げている。

 どうやら気が付いたようだが、まだ確信は持てていないといった所だろうか。

 

「兄さん気が付いた?」

「とっくのとうに」

「何で教えてくれなかったのさー!」


 ジグル……そんなに声を出すと……。


「ギャギャッ!」

「ギャッギャッ!」

「おい……」

「……ごめん」


 ばれたね~……ばれたねぇ……。

 ジグル君。君は慎重なのか大胆なのかどっちなんだい。


 ゴブリン達が一目散にこちら目がけて走ってきた。

 ようやく姿が見えたが、なんとも粗末な武器と防具を身に着けている。

 これでよく戦おうと考えるなと思ったが、確かゴブリンといえば頭が悪いと聞くが……。


「じゃ、頑張れよ。俺は見とく」

「えー! 手伝ってよ!」

「これはお前が受けた依頼だ。俺は危なくなったら手伝うことにするよ」

「まぁいいけど……」


 少しムスッとしながらもジグルは背中にかけていたロングソードを抜いて構えを取る。


 ゴブリンの動きは早くとも遅くともいえない普通の速度なので、冷静に対処すれば何とでもなると思う。

 おまけに統率が取れていない。

 一早く敵を討ち取ろうと我先にと走ってくるが、走る速度が個々により違うため結果として縦長の陣形に伸びてしまっている。

 数を活かせない戦い方だと思いながら、ジグルの動きを注視する。


 ジグルは剣の長さを生かして突きの構えを取るが、何かを思い直したのか、すぐに構えを変えてフルスイング出来る様に剣を脇に構える。


 そして相手が走ってくるのを集中して待つ。

 一匹のゴブリンが間合いに入ったと同時に、その長いロングソードを思いっきり横に凪いだ。


 ゴブリンの持っている武器ではもっと深く懐に潜らなければならないため、ほぼ安全といえる位置でジグルはゴブリンの首をはねた。

 タイミングを完璧に見計らった一撃である。

 とはいえ走ってくる勢いは残したままなので、そのまま飛んでくる体と武器に注意しなければならないのだが、ゴブリンは非常に軽いのか、頭を吹き飛ばした方向に倒れたため、怪我の心配はなさそうだった。


「良し! 一匹!」

「油断するなよ」

「わかってるよ!」


 また一匹、また一匹と突進してくるゴブリンを冷静に対処しながら、ジグルは剣を振ってゴブリンを倒していく。


 とてもいい動きだ。

 ロングソードは重く、一撃の攻撃は高いが大振りをしてしまえば致命的な隙が生じてしまう。

 それにジグルの体はまだ小さく、その剣を完全使いこなせてはいないのだが、剣を振ったときの遠心力を利用して回転して二撃、三撃目へと派生していた。


 俺がやれば目が回ってしまいそうな方法だが、勢いを殺さない点でおいては良い動きだと思う。

 最も、数が多ければできない戦法ではあるのだが……。

 それに今回の敵は弱いゴブリンなので、こうした戦い方ができるというのもあるだろう。


「後二匹!」


 八匹のゴブリンを討伐したジグルは最後の二匹に剣を向ける。

 その二匹はほぼ同じタイミングでジグルに接近してきたので、二対一という戦いに持ち込まれるわけだが……その一匹が妙な行動を起こした。

 一匹はそのままジグルの方に向かって行ったのだが、もう一匹がジグルを無視して俺の方に突っ走ってきたのだ。


 それに気が付いたジグルは向かって来た一匹のゴブリンから目を離すことは無く、俺に注意を呼び掛けた。


「兄さん! 一匹そっち行った!」

「はいはい」


 ま、ジグルだけに任せるのもあれか。

 俺もこういう弱い敵と戦って見たかったしな。


 しかし、ジグルはよそ見しなかったな。

 俺の方に行くというのがわかったからか、それとも直感なのかはわからないが、よそ見はマジで危ないからな。


 さて、このゴブリンをどうして討伐しようか。

 技能を使ってもいいのだが……ここは刀を使ってみるとしようかな。


「影大蛇。頼んだぞ」


 俺は影大蛇を抜いて軽い構えでゴブリンに剣先を向ける。

 片手に棍棒を持っているゴブリンは、走ってくる勢いをそのままに棍棒を振り上げてタイミングよく俺に降り下ろしてくる。


 それを下段からの切り上げて棍棒を切り落とし、すぐに手首を返してゴブリンの首を刈り取った。

 ゴブリンはべしゃっと倒れてそのまま動かなくなる。


 蛇の姿……いや、魔物の姿であれば食べているのだが……何だろう……全然食べる気になれない。

 絶対美味しくないじゃんゴブリンって。

 ここは人間の姿でもらえる経験値だけで勘弁してもらいましょうかね。


【経験値を獲得できません】


 ワッツ。

 すまんな天の声。いや辞書よ。

 もう一度詳しく説明してくれると俺は非常に嬉しい。

 何故経験値を取得できないんだ?


【レベルの低すぎる魔物を倒した場合、経験値を獲得することはできません。これは魔物の姿である場合も同じです】


 おいおいおい……。

 おい! 今の俺でレベルの上がる魔物って何処に居るんだよ!

 まじか! マジかよ!?


 嘘だろ……そんなことってあるんですか……まじかぁ……。

 じゃ結局食べても意味ないってことなのね……だから食欲がわかなかったのかしら。

 えええぇ……へこむわぁ……。


 とりあえず血振るいをして影大蛇を納刀する。


「……フーー……こりゃ龍の道が遠のいたな……」

「兄さん大丈夫……だよね!」

「当たり前だ。ジグル、とりあえず今回の動きは良かったぞ。だが回転してしまう癖は直したほうが良いな」

「でぇ!? なんで!?」

「一瞬でも敵の位置がわからなくなるってのは良くないことだからだ」

「ぐぬぬ……頑張る……」


 癖になると抜けにくいからな。

 はじめっからちゃんとしておいた方がいいに決まっている。


 俺はロングソードとか西洋の武器による戦闘方法なんて知らないから、これくらいしか言えないのだが、まぁ後はユリーが何とかしてくれるだろう。

 まだ約束はおろか話すらしていないが。


 と、言うことで後始末だ。

 ゴブリンを討伐した証拠に右耳を切り取って持っていく。

 これがないと討伐したということにならないらしく、持っていかなければ報酬金がもらえないらしい。


 生憎俺は小型ナイフを持っていなかったので、鋭水流剣をナイフの形にして剥ぎ取りを手伝った。

 どんな形にもできるこの技能、とても便利である。


 後は遺体を燃やしておかなければならないのだが……それはジグルがやってくれた。

 ちゃんとこういった物も準備しているのには感心したが、逆に俺は持ってなさすぎだ。

 帰ったら色々準備しておくことにしよう。


 剥ぎ取った素材はジグルに渡すことにした。

 今回はジグルの依頼の手伝いとして来ているわけだし、報酬金は全てジグルの物でも問題ない。

 実際に俺はほとんど何もやっていないし、なんなら今日売った薬草だけで十分に稼いでいるため、必要はないだろう。


 だがジグルはどうしてもそれは駄目だというので、せめて依頼を一緒にこなしたという申請でギルドにもう一度行くことになった。

 これはあながち間違ってはいないし……俺も早くランクは上げて来たかったので、それだけを了承することにしたのだ。


「全く、強情な……」

「逆に兄さん無欲過ぎない?」

「んなことはないが……十分に持ちすぎてるってのはあるか」

「とにかく、ギルドには引っ張っていくからね」

「ああ、はいはい」


 ジグルは懐から魔法石を取り出してそれを握る。

 俺も同じようにそれを取り出して手に握って魔力を込め、あの教会へと戻ることにする。


 今回もいつの間にか戻っていたので、また少々驚いてしまったが、違和感はほとんどないため普通に歩ける。

 ジグルはまた疲れてしまっているようだったので、マナポーションを飲ませようとしたのだが、それを見せると急に元気になってギルドに行こうと騒いだ。


 元気そうならまぁいいかという事で、俺達は依頼の達成報告をしに行く為、冒険者ギルドに向かったのだった。

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