9.46.その理由


 ウチカゲは冷静だったが、アレナは少し殺意を鳳炎に向けた。

 しかしリゼがアレナの肩に触れ、落ち着くようにと宥めてくれる。


 彼女にとって、思い出したくない過去。

 それを掘り下げるような真似は控えたかったが、悪魔と関係があるとなれば話さないわけにはいかない。


 辛うじて記憶していることだ。

 ルリムコオスと会話をしている最中、自分の身に何かが起き始めた。

 抗っていた時、応錬がルリムコオスの発言に酷く怒ったのを覚えている。


「ごめんね。アレナの故郷とウチカゲの故郷……。それはどちらも、悪魔によって破壊された」

「……ルリムコオスの所で、それは俺も聞きました。奴隷商と結託していた悪魔が起こした事件……だったのですよね」

「うん。奴隷商だけで鬼の国、更にはガロット王国の領内であるバミル領を落とせるとは到底思えない。悪魔の力を借りたのが妥当な線だよ。で……これが奴らの復活を阻止する方法に繋がっていたはずなんだ」


 都市の破壊。

 これが悪魔がやろうとしていた事。

 これは彼らも公言していたことだし、何なら人を殺すことも辞さなかった。


 ではこの、裏を返そう。

 彼らの発言はとんでもなく遠まわしに言葉を作っている。

 本当は殺さなくてもいいはずなのだ。

 本当であれば、都市の破壊などしなくてもいいはずなのである。

 だがこのように言わなければ、呪いが発動してしまう。


「やろうとしていることは、多分当てられる。でもその理由が分からない」

「邪神復活の阻止では?」

「違う、そうじゃない。それは最終目的。分からないのは、その必要性。二人の故郷に一体何が仕込まれていたのかってこと」


 都市を破壊しなければ、人間を殺さなければ邪神が復活してしまう。

 ではその都市には一体何があるのか。

 悪魔は必要に人間の多い都市、もしくは領地……。

 とにかく人がいる場所を狙って攻撃をしてきている。

 今回もそうだ。

 大きな国を二つ、動かして死者を出そうとしていた。


 この理由が分かれば、悪魔と協力が比較的簡単にできるはずだ。

 被害も出ず、都市も壊さない方法がどこかにある。


「ま、それが分からないんだけどね……」

「悪魔も、破壊したくて破壊しているわけじゃないし、人を殺したくて殺しているわけではないってことね」

「うん。それはルリムコオスのところで聞いてるから正確な情報の筈。あ、因みにルリムコオスは魔神ね」

「まっ魔神!? いや気になってたけども!!」


 魔神とは、一般的には存在しないお伽噺の中での存在となっているらしい。

 その辺はどうでもいいことだったので、鳳炎はすぐに話を戻す。


「とりあえず今の話は、悪魔の目的が分かるかもしれないっていう重要な部分。深堀していけば何か見つかるかもしれないから、話をした。嫌な気分にさせたね、アレナ。ごめんよ」

「……いい。大丈夫……」

「ありがとう」


 だがまだ話は終わらない。

 今までの話は核心部分ではなく、最低限知っておいてもらわなければならないあらすじ部分だ。

 本題は、ここからである。


「整理するいい機会だから、今までのことも振り返るよ。次は……前鬼の里で起きたことだね。それと、日輪と鬼たちとの関係性」


 ここからが、自分たちが様々な疑問と謎を発見した場所である。

 サレッタナ王国での事件はこの場にいる大体の者が知っている。


 悪魔がサレッタナ王国国民を惑わせて誘導させ、大きな被害を出そうとした。

 応錬の天割を見た悪魔が態度を変えたこと。

 レクアムのことはあまり関係なさそうだったが、魔水晶のことを知っていたイルーザについては、また何処かでもう少し話をしなければならないだろう。

 だが今は分かることから潰していく。


「日輪は、悪魔と鬼と何かしらの関係があったはず。鬼たちに関しては言わなくても分かるけど、悪魔との関係は今まで分からなかった。だけど、今なら分かる」


 鳳炎は目の前で手を重ね、握り合わせた。


「日輪と悪魔の関係性は、邪神復活阻止の協力者」

「理由を教えてもらえるかしら?」

「まず悪魔は応錬の技を見て、生まれ変わりだと呼び始めた。ということは応錬の持っている技を見たことがあるということ。要するに、戦っているところを見たことがあるってことになるんだ。で、僕が協力者だと確信した理由はこれにある」


 そう言って、鳳炎は魔道具袋から本を取り出した。

 以前適当に寄った本屋で何か買わないのかと言われてしまい、適当に選んだ古い本を購入した時の物。

 零漸とウチカゲを待っている間に全部読んだのだ。


 意味なき戦争。

 大きな戦いがあったが、戦争をした理由を誰も知らないという奇妙なお話だ。

 悪魔以外の記憶を消した日輪たち。

 来る邪神復活阻止のためにわざと消さなかったのだ。

 そして今、彼らはその活動を実行していいる。


 日輪にとって、悪魔はそれだけ信用できる存在だったということになる。

 邪神復活の阻止を共に成した……戦友。


「それにこの内容……。悪魔が今やっていることと同じだ」

「っ! 確かに……!!」


 人間の国を次々に落とした、とここには記載されている。

 今はここに記されているように戦争を完全に行っているわけではないが、やっていることはほとんど同じだ。

 都市を破壊し、人間を殺す。

 もしかすると、日輪たちの時代ではそれ以外に方法がなかったのかもしれないが、その真意は分からない。


「日輪たちが奴らと対峙するのは、普通に考えたら当たり前のこと。鬼との関係が功を奏し、悪魔との協力までこぎつけ、何とか邪神の復活は阻止できたんだと思う」

「……じゃあ、その本に書いてあることと同じことをすれば、何とかなるってことっすか?」

「そういうこと。でもそれは本意じゃない」


 恐ろしい数の犠牲が出る。

 それだけは避けたい。


「一旦話を戻すよ。悪鬼について」

「こ、ここで悪鬼ですか? どうしてまた」

「僕は不思議に思っていたことがあるんだ。ごめんけどここは完全な憶測。でも聞いてほしい」


 真剣な表情をしている鳳炎を見ると、誰も口を出すことはできなかった。

 誰もが静かに言葉を待つ。

 その前に鳳炎は両手に炎を出現させた。

 一つは大きく、そしてもう一つは小さい。


「なんで悪鬼の住む場所は分けられているのかな?」

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