9.45.長い話
馬車の中で集められた人たちが輪を作っていた。
これから話すことはとても重要なことだ。
今後の方針にも関わってくる。
鳳炎がその場を取り仕切り、全員が話に集中していることを確認した。
馬車が走っているので少し声を張り上げなければならないが、これくらいは大したことではない。
御者を担当してくれているウチカゲにも聞こえる声で、まずは咳払いをした。
「……とりあえず再確認。僕、応錬、零漸、リゼは魔物であること。悪魔は声の復活を阻止しようとしていること。その阻止方法は今現在では分からないこと」
「俺がいない間に何があったんすか……」
「事の始まりは……前鬼の里の姫様、ヒスイを悪鬼から助けたところからだったかな。悪鬼が住む場所に潜入し、何とか助け出すことができた。その時先代白蛇……日輪を知る鬼、ヒナタに出会った。で、ヒナタはこう言った。『『ヒナタ。何年後になるか分からないが……。その時は、
掘り返して繋げてみると、驚くほど腑に落ちる話の内容だった。
鳳炎成りに簡単にまとめてくれているようだが、もう少し詳しく話を理解したい。
リゼと零漸はほとんどの場に立ち会ってはいなかったのだ。
それはマリアも同じである。
一つ一つ噛み砕いてもらった方が、今後自分たちでも考えられることが増える。
マリアがそう鳳炎に提案し、更なる詳しい説明を求めた。
「長くなるよ?」
「元より承知の上よ。ここまできたなら、もう全部話して」
「……分かった。零漸、リゼ。君たちが元日本人だということも話すね」
「ニホン……?」
この話を全て理解するためには、そこから話さなければならない。
鳳炎の記憶の維持が一日しかないというのであれば、できるだけのことは全員に共有したかった。
二人は鳳炎の言葉に力強く頷く。
隠したってもう何にもならないし、ここにいる者たちであれば知られたとしても問題はなかった。
了承を得た鳳炎が再び説明をする。
「僕たちは転生者。前世の記憶を持つ……ね」
「鳳炎殿。日輪という人物ももしや……」
「その可能性しかないと思う。僕たちは奴らに転生させられた。魔物の姿で。それは日輪も同じはずだよ。先代白蛇なんだもん」
十中八九、彼らは転生者だ。
どの時代から来た人間かは分からないが、日本刀、防具……。
日輪が残した知識だけを見ても、彼らが日本人であるということは明白だ。
「前世の記憶を持ったまま……魔物の体に? 魂の憑依? 死霊術とかそんな感じなのかしら?」
「根本から違うと思うよ。なんせ相手は腐っても神だからね。説明はできないけど、輪廻転生から無理矢理魂を引っこ抜いてこっちの世界に放り込んだ。まぁ僕らは生きている状態で魂を引っこ抜かれたっぽいけどね。死んだ記憶ないもん。で、右も左も分からない状況の僕たちを、奴らは手助けしてお助けキャラとしての位置を確定させた。普通、そいつがラスボスになるなんて考えないだろうからね」
「一つ疑問なんっすけど、それが本当だとしてどうして俺らが選ばれたんすかね?」
「簡単なことだよ」
鳳炎の言葉に誰もが耳を傾ける。
「誰でもよかったんだ」
「……は?」
どういう意味かまったく分からず、零漸はきょとんとしてしまう。
そんな適当な理由があるのだろうか。
いや、あるのだ。
鳳炎は再び説明する。
「奴らの目的は復活すること。この世界の人間でなければ、何も問題はなかったんだ。馬鹿そうな人間を連れてくれば、無暗に詮索されなくても済む。その点で言えば零漸は完璧だったんだろうね。だけど魂だけでは僕たちの性格までは分からなかったはずだ。だから僕や応錬、リゼたちがここに居る。そして……応錬とリゼは記憶を抜かれていた」
「あ、そういえば……。でもそれが何になるっていうの?」
「リゼ、君はこの世界の文字を自分で読解してしまった。それだけ地頭がいいんだ。そんな頭のいい人間の記憶を残したままこの世界に転生させると、奴らの目的に気付いてしまう恐れがあったんだと思う。だから、消したんだよ」
「とはいっても自分のことだけよ? まるっきり空っぽっていうわけじゃないわ」
「魂を弄るのにも限度があるんだと思うよ。でも少しでも記憶を抜かれれば、そっちに意識が集中するのも事実」
「応錬も……?」
「変なところで頭が切れるからね。日輪のことに気付いたのも応錬だった。これがなかったらここまでたどり着けなかっただろうね。多分記憶力がいいんだと思う。知らないけど」
この辺はよく分からないので憶測だ。
なので魔法の言葉で保険をかけておく。
「じゃあ何で鳳炎は記憶を消されていないの?」
「精神崩壊を狙ったんじゃないかな」
「せ、精神崩壊?」
「前世の記憶を持ったまま……虫を食べる。まぁ理性が吹き飛ぶよね」
「ああ……」
鳳炎の転生先は小さな鳥だった。
それも子供。
だから親鳥が虫を何度も持って帰ってきた無理矢理口に突っ込んできた。
力が弱く抵抗することができなかった鳳炎は、虫を胃袋の中に何度も落とし込んだのだ。
普通ならそれだけで発狂する。
記憶を消す候補ではあったのだろうが、記憶を残しておいた方がしっかりと発狂してくれるだろうと思ったのだろう。
「まぁこれも憶測だけどね。はい、僕たちの話はここまで。大体分かったかな?」
「皆さんを転生させるだけで、酷い悪意を感じましたが……」
「確かにね。でも僕が発狂せずにここまでこれたのは想定外だった筈。だから、突破口は絶対にある。神でも手の届かない阻止の方法がね」
鳳炎は魔道具袋から取り出したカンテラに灯をつける。
それを中央に置いた。
「……次の話。ウチカゲ、アレナ。申し訳ないけどこれを話さないわけにはいかない。許して欲しい」
「……なにを?」
「なにをでしょうか?」
鳳炎は軽く俯いた後、再び顔を上げる。
「君たちの故郷が襲われた理由」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます