9.44.詳しい説明
騎竜二匹とバトルホースがまだかまだかと足を踏み鳴らす。
やる気十分なのは結構だが、ここで暴れないでもらいたいと鳳炎は頭を掻いた。
こいつらを手名付けているのは応錬。
だが今は寝ている為、この三匹を静かにさせることができないでいた。
追っても来ていないようだし問題はないのかもしれないが、やはり夜なので音には少し敏感になる。
できれば控えてもらいたいものだ。
「アレナ、大丈夫?」
「……」
バトルホースが引く馬車の中の隅っこで、アレナが膝を抱えて小さくなっていた。
その隣にはリゼが座っており、応錬が近くで寝かされている。
鳳炎は自分が離れた後にそんなことがあったとは知らなかったとはいえ、さすがに一人にしたことを反省していた。
悪魔の最後は、恐らくアトラックと同じような死に方。
それをアレナが見たというのであれば、こうして怖がってしまうのも無理はない。
泣きながら戻ってきた時は驚いたし、鳳炎に技能を使ったことにも驚いたが……よく知らせてくれたとここは褒めてあげなければならないだろう。
「……クソウ……迂闊だった……」
『その名を口にしてはならない』。
深い意味はまだよく分からないが、言っていることは理解できる。
声のことを、口にしてはならない。
なぜ、と言われると答えられないのではあるが、これは応錬や零漸が集まった時に話し合うことにする。
だが自分には今日一日しか時間がないかもしれないので、ウチカゲと話をしておく必要はありそうだ。
自分の考えと、ウチカゲの考えをまとめる。
それを応錬に引き継いでもらい、自分が再び記憶を失っても問題がないようにしなければならなかった。
だが……。
「まだ帰ってこないの? あの二人は……」
「何をしているのかしら」
「さぁ……僕には分からない。面倒ごとじゃなかったらいいんだけど……」
「確実に面倒ごとだから安心しなさい」
鳳炎はため息をつく。
今のところ時間はあるが、余裕はない。
面倒なことになっていなければいいがと思いながら、再びため息をついた。
「鳳炎君」
「なに?」
「さっきの話、もっと詳しく教えて頂戴。貴方たち……魔物である貴方たちは一体何を探っているの?」
「ああ、そういえばマリアギルドマスターは知ってたね。僕たちのこと」
「不本意ながらね……」
あれはいつだったか。
確か応錬とギルドマスターの部屋で再会した時だったはずだ。
零漸もいたと記憶している。
なぜマリアには話したのかあまり覚えてはいないが、どうせそれなりの地位にいる人間に話をしておけば後々楽になるかもしれないという軽い気持ちだったのだろう。
それが今、簡略化して話を進められるので正解だったのかもしれないが。
「あとでいい? ウチカゲと零漸にも一緒に話に参加してもらいたいから」
「そう。分かったわ」
意外とあっさり引き下がったことに少し驚いた。
まぁサレッタナ王国に帰るまで時間を要するし、それまでに話をしてくれればいいということなのかもしれない。
今日話さなければならないことではあるが。
「! やっと来た!」
「とんでもないの連れて帰ってきてるけどね」
「嘘じゃん……」
遠くからこちらに向かってくる足音を聞いた鳳炎とマリアはそちらを見るが、そこには零漸とウチカゲの他に、先ほど戦った敵が紛れ込んでいた。
面倒ごとを持って帰ってくるなよと、鳳炎は頭を掻く。
ウチカゲはどうしてそれに賛成したのだろうか。
また大きくため息を吐いて、彼らの前で武器を構えた。
「零漸、ウチカゲ。どういうことか説明して」
「俺がするっす。まずはもう敵じゃないから武器を下して欲しいっす」
「そのようだけど……どうして連れて帰る必要があるの? 元は敵だよ?」
「昨日の敵は今日の友っすよ、鳳炎。皆優秀っす。人質を取られて従っていただけっすから、俺と似たようなもんっすよ。先のことも考えて、いい人材は確保しておかないとって思って!」
「……君の説明じゃ納得はできないかなぁ……」
「なんでっすか!?」
零漸と仲違いをする気は一切ないが、こんなにも早く敵を味方に付けるとなると信用が圧倒的に足りない。
何時寝首を掻かれてもおかしくはないのだ。
警戒するに越したことはない。
鳳炎はウチカゲを見る。
どう説明したものかと悩んでいたようだが、とりあえずは零漸の味方をするつもりのようだ。
しかし鳳炎たちが納得できる説明はできないかもしれない。
少し考えたあと導き出した答えは……。
「人質、人材云々を抜きにするなら、これは零漸殿の善意です。責任は彼が持つでしょうし、あとは応錬様次第だと思っています。俺たちのリーダーは、応錬様なので」
「……はぁ、ウチカゲがそれを言うのか……。間違ってないけど、投げすぎじゃない?」
「かもしれませんね。ですが、人材としては目を見張るものがあります」
ウチカゲは連れてきた三人を見る。
自分の速度に技能を使用してなら互角に戦えるカルナ。
街を破壊するほどに強力な魔法を放つことができるティック。
様々な魔道具を時間をかけずに作り上げるテキル。
「声との戦い。悪魔との協力。果たして我々だけで事足りますかね」
「……その通りだね。はぁー、分かったよ。でも最終決定は応錬に任せるからね」
「構いません」
「さっすが鳳炎! 話が分かるっす!」
「君は黙ってて」
話はまとまった。
既に応錬が賛成派であることは今は黙っておく。
が、やはりそこでマリアが口を出す。
「鳳炎君、いいの?」
「……僕もここで敵だった奴を仲間にするほどお人よしじゃないよ。でもウチカゲの言った通り……僕たちには味方が少なすぎるんだ」
「ギルドになら沢山人材はいるけど?」
「内容を知っている人じゃないとだめだよ。それに、あの名前はそう簡単に口にしてはならないらしいし……」
「ま、その辺は任せるわ。何かあったらすぐに信頼できる人材を確保するわよ」
「じゃあその時はお願いね」
マリアはそれに頷いて休憩していたユリーとローズに今のことを知らせにいく。
大声が響いたが、今は気にしない。
とりあえずこれから詳しい説明を皆にしなければならない。
鳳炎とウチカゲ、マリア、リゼ、アレナにはバトルホースが引く馬車に乗ってもらう。
あの三人は一人は寝ているし、一人は子供でもう一人は怪我人だ。
今のユリーであれば簡単に止められると思うので、申し訳ないがそちらに乗ってもらうことにした。
シャドーアイの三人も乗るので問題はないだろう。
それを知らせると物凄い形相で睨まれたが、彼らに敵意がないことを察したあとは渋々といった様子で了承してくれた。
何もなければいいがと思いつつ、ようやく馬車が動き出してサレッタナ王国への帰路についたのだった。
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