7.37.Side-鳳炎-レクアムの謎


 私が急に叫んだことに驚く三人。

 だが叫ばずにはいられない。

 ようやく手がかりが今一つ頭の中で作り上げられたのだから。


 レクアムは悪魔に体を乗っ取られていた。

 いや、憑依されていたのかもしれない。

 実際に対峙していないので、どのような姿だったのかは分からないが、応錬の話によると以前あった時と変わらないということだった。


 ということは、意識は乗っ取られていないかったかもしれない。

 そうなると一つの可能性が出てくる。


 レクアムは、悪魔と何かの協力関係にあったかもしれないということ。


 それが何かは明確に言うことはできないが、予測は立てることができる。

 魔水晶。

 それを撒いたのは洗脳されていた王子直属の執事、バスティ・ラックル。

 だが作ることは不可能だ。


 もしこの国の何処かで作っていたということであれば、あれだけの数があったのも納得が行く。

 勿論悪魔が事前に準備していた可能性もある。

 制作にどれだけの魔力と、時間を有するか分からない以上、レクアムが作ったという確証はない。


 だがレクアムに意識があったということであれば、魔水晶に関して何か知っていてもおかしくはないはずだ。

 昔は実験好きのレクアムと呼ばれていたのだ。

 見たこともない魔道具を見て調べないわけがない。


 それに、以前の事件についても覚えている。

 レクアムを雇っていた貴族、ラムリー家。

 その家の地下に牢獄が数個あり、その中に死んでいる奴隷が数十人発見されたという事件があった。

 それらは完全に人体実験を想定している実験施設であり、そのことを知った冒険者ギルドはすぐに指名手配書を配って回ったな。


 だが思い出すと、あの場所には拷問部屋と牢獄しか・・なかった。

 それは明らかにおかしいということに今ようやく気が付いた。


 普通実験場所にそれだけの物しか配置しないとは思えない。

 何処かに資料室などがあるはずだ。


 レクアムのことについて追って行けば、もしかしたら悪魔との関係性、更には魔水晶についての情報を得ることができるかもしれない。


「ど、どうしたの?」

「恩に着るぞユリー殿! お陰で一つ謎が解けそうだ!」

「え!? ど、どういたしまして?」


 ガッと手を握って少し乱暴に振り回す。

 ようやく見つけたぞ新しい手がかりを!

 早速調査に向かいたいが、さて何処から調べた物か……。


 ああ、だがまだバミル領への報告の準備もできていない……。

 もうこれは私が行って報告してきた方が早い気がしてきたな。

 とりあえず今はレクアムについて調べることにしよう。

 まだ時間はあるから問題はないはずだ。


 こっちは後で何とでもなるだろう。


「あ、あの!」

「む? どうしたのだ?」

「兄ちゃん、元気にしてますか? なんか急いで出ていったっきり会ってなかったので……」


 ああ、そういえば前鬼の里に急いで向かったな。

 そうか、ジグルはその時に応錬と会っていたのか。


 さて、今度はどう言い訳をしたものか。

 まさか魔物だとは言えるはずもないからな。


「今は私と同じく調査をしてもらっている。なに、そう遠くない内に帰ってくる」

「そうでしたか……」

「む? 浮かない顔であるな。どうしたのだ?」

「あ、いや! そういうわけでは……」


 何か話したい事でもあったのだろうか。

 応錬と合流した時にでも、教えてやってジグルの所に向かうように指示しておくことにしよう。


 そこで私はジグルをもう一度見る。

 何故だかしょぼくれているが、その理由は分からない。

 子供の考えていることは分からないことが多いからな。

 単純だが。


 ふむ、ここであったのも何かの縁だ。

 次いつ会えるかもわからないし、少しだけリゼの頼み事とやらを済ませておくとするか……。


「ジグルよ」

「え、あっはい。なんですか鳳炎さん」

「イスライト公爵について知っているか?」

「はい」

「メリル・イスライトがお前に会いたがっていた。暇な時にでも会いに行ってやるといい」

「えっ!?」


 こうしておけば、応錬が居なくても勝手に接触する事だろう。

 後は向こうにいるであろうリゼに任せる。

 機会を作ったのだから、それを無下にはしないだろう。


「では私はそろそろ行く」

「今度ご飯でもいこうね」

「気が向いたら、という事にしておこう」


 炎の翼を広げて、空を飛ぶ。

 目的地は既に決めているので、その方角へと直進したのだった。


 残されたユリーとローズは、鳳炎を見送った後ジグルを見る。

 固まったまま動いていない。


「ねぇ、ユリー」

「言わないでも分かってるわ」

「……え? な、なんですか二人とも」

「「メリルの所行く?」」

「いやいいです!」


 首を振り、両手を広げて否定はしているが、顔が赤くなっているところを見て全然素直じゃないなと心の中で笑った二人なのだった。

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