7.36.Side-鳳炎-思案
「どう……しようか……」
一日が経っても尚ずっと悩んでいるのだが、これからどうすればいいか分からなくなってきた。
イルーザの場所に訪れる前にサレッタナ城の書庫には入ったが、結局何も得ることができず退散。
頼みの綱であったイルーザからも、目ぼしい情報は一切出なかった。
隠しているのか、本当に知らないのかは分からないが、あの様子だと本当に知らないという方が濃厚そうだ。
零漸が起きたらあいつを連れていくとしよう。
今は無理だろうけどな。
証言者が居れば、何か話してくれるかもわからないので、視野には入れておくとするか。
「はぁ~……しっかしなぁ……」
何も分からなかった、というのが一番痛い。
情報が手に入らなければ、次の行動に移ることができないからだ。
何処にいけばいいか、何をすればいいか……。
考えれば考える程頭が痛くなってくる。
今できると言えば、解決できていない問題リストを頭の中で制作することくらいだ。
どんなに整理したところで、今のところ解決できたものも解決できるものも見つからないわけだが。
「む。無意識にここに歩いてくるとはな……」
ふと顔を上げてみれば、ギルドに到着していた。
特段聞いても分かることもないというのに、ここに来てしまうとは……。
移動時間を含めてもあと一ヵ月はここで調査ができる。
準備をするのはそれからでもいいが、バミル領には使いの者を行かせて防衛の準備をしてもらっておいた方がいいかもしれない。
襲撃が来るということが分かっているのであれば、やりようはいくらでもあるだろうからな。
しかし、残念ながら私にそのような部下はいない。
いつも一人で依頼を受けていた、言うなればソロだったからな。
自分の技能が使いこなせるようになれば仲間を集めたいとは思っていたが、まさかその仲間が応錬たちになるとは思っていなかった。
気に入ってはいるがな。
同じ境遇で元日本人。
反りが合わないはずがないのだ。
最近はちょっと悪戯をしすぎてしまっているので反省はしている。
しかし後悔は一切していないからな。
やるからには楽しまなければ。
まぁ流石に人間の姿に戻ったら謝っておくとしよう。
殴られるよりはましだからな。
「ふむ。しかし報告だけはしておいた方がいいな」
誰かいないだろうか?
私が信頼している者は……んん……そもそも一人でずっとやって来たからあまりそういう人脈がない。
ソロでやって来て称賛されることが多かったからな……。
自然と冒険者は憧れの目を向けて来たものだ。
しかしそれがここになって響くかね!?
人生何が起こるか分からないっていうのは本当であるな!
「あ、鳳炎さん! お疲れ様です!」
「「お疲れ様です!」」
「うむ。……む? 装備を変えたか?」
「あ、分かりますか!?」
「そりゃ分かるとも。もっと良い装備を手にできるよう、精進するのだぞ」
「「「はい!」」」
うーむ、やはりこういうのは悪くない。
頑張ってやって来てよかったと思えるのが、こうして慕われていると実感できる時だ。
当初は飯食っただけで大泣きして、変人扱いされたからな!
だが美味かったのだ!
数ヵ月ぶりのまともな食事だったのだぞ!?
もう胃袋の中に動くものを入れたくはない。
「こんにちは!」
「おや? 少年、もしや新顔かね?」
「はい! 鳳炎さんに挨拶してきなって、ギルドのお姉さんが!」
「そうであったか。依頼は一つずつしっかりとこなすのだぞ?」
「分かりました!」
もう私がここに来たことがバレているのか。
まぁ目立つから仕方がないと言えば仕方がないことではあるがな。
……ここまで話しかけられると、流石に情報が整理できない。
やはりここは離れて別の場所で……。
「あら? 鳳炎さんじゃない」
「む……」
もっと早く離れるべきだったか……。
まぁ無視するのは申し訳ないので、少しだけ話をしてから行くとしよう。
「誰かと思えば、まさか雷弓の二人に声をかけて頂けるとはな」
そこに居たのは、Sランク冒険者のユリーとローズであった。
相変わらず綺麗な見た目をしているが、私は無性なので興味は一切ない。
しかし、それでも興味を引くものがあった。
ユリーとローズの後ろに、ロングソードを背中に背負っている少年がいたのだ。
腰にはファイティングソードと思われる武器もあるな。
「……その少年は? 以前見た時はいなかったように思えるが」
「貴方とこうして話すのは久しぶりですね」
「うむ。魔物襲撃の時はバタバタしていて挨拶もできなんだし、まともに話をしたのは私がCランクの時だった気がするぞ?」
「それはちょっと盛りすぎよ。ていうかローズの飛竜借りた時に一回顔合わせたじゃない」
「それもそうだがまともな会話はできなかったがな。なんにしても久しぶりであるな。で、その少年は?」
「弟子よ。でーし」
そう言って、ユリーは少年の肩を掴んでずいっと前に出してくる。
はて、この少年何処かで見たことがあっただろうか?
よく覚えていないな。
しかし弟子入りを断り続けたユリーが、こんな少年を弟子に持ったとは驚きだ。
まぁ弟子入りを申し出た奴らに碌な奴が居なかったのは事実ではあるが。
「少年、名前は?」
「ジグルって言います!」
「……ジグル?」
ああ、この少年がジグルであるか。
適当に応錬の話に合わせてリゼからの頼みはうやむやにしようとしていたが……まさかここで出会うことができるとはな。
……見たところ、結構な実力者であるっぽいな。
背丈に似合わないロングソードを持っているのが気になるが……それ以外は普通だ。
「あ、あの……何か?」
「ああ、すまんすまん。応錬の言っていた君が少し物珍しくてな」
「兄さんが!? なんて言ってましたか!?」
「むっ、なにを……であるか」
しまった、そういうつもりで言ったのではなかったのだがな。
まぁここは当たり障りがないように濁しておくことにしよう。
「雷弓の所でよく頑張っているなと、褒めていたぞ」
「「「うっそだぁ」」」
「む!?」
三人からこう言われるって、あいつはこいつらとどんな関係にあるのだ!?
こ、これ以上この話を続けるとボロが出そうだ。
既に出ているがこれ以上出さないようにする為、話題を変えよう。
「そ、それより……。どういった風の吹き回しだ? ユリー殿が弟子を取るとは」
「いろいろ、いろいろあったのよ!」
「であるか。では聞かないことにしよう」
まぁ弟子を取ってくれただけでもいいのだ。
これを機にもっと育成に力を入れて欲しいものではあるのだがな。
「で、鳳炎さんはなにしてるの?」
「調べ物をしているのだ。少々手詰まりではあるがな」
「私たちに手伝えることはありますか?」
「む? いやいや、気にしないでも大丈夫である。修行の邪魔をしてもいかないからな」
「お、俺は大丈夫ですよ?」
「私が気にするのだ」
流石に今の状況をこの二人に伝えるわけにもいくまい。
私たちの問題なのだ。
できるだけ巻き込む者は少ない方が良いからな。
まぁ、いざとなれば協力をしてもらわなければならないときが来るかもしれないが。
まだ私たちだけで何とかなる。
バミル領はガロット王国の領地であるし、応錬がガロット王国の国王と知り合いらしい。
今回の協力は向こう側にしてもらうとする。
雷弓の二人はサレッタナ王国で数えるくらいしかいないSランク冒険者だ。
私たちの事情に首を突っ込ませて引き抜くのは良くないだろう。
「そういうところ変わっていませんね。皆さんを鼓舞するところも見てましたよ」
「はははは、そう言われると恥ずかしいな」
「でも大変だったわねー。国の中にムカデが入って来た時は大変だったわ」
「そうね。でも弱かったじゃない」
「まーね~」
…………確かに、弱かったな。
「そうだ鳳炎さん。レクアム覚えてます?」
「ああ、あの犯罪者であるな」
「あれの死体が運ばれて来た時は驚いたわ。何か知らないかしら?」
「知っているがここで話すような案件で──」
あっ。
「そ、そうか!! レクアムか!!」
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