3.7.路銀
ガロット王国を出発して数時間。
俺たちは馬車の前に座って外を眺めている。
出たばかりの頃は道も整備されていて走りやすく、人の通りも多かった。
装備からしてめちゃくちゃ強そうな人もいっぱいいたけど、誰も彼もが荷馬車に魔物や薬草などをたんまりと乗せていたように思う。
あれは冒険者だったのだろう。
若い人もいれば年老いた人もいたような気がする。
年齢に縛られない職業ってのは良いものだな。
もっとも冒険者やっていると普通の仕事ができなくなりそうだが。
暫く進んでいると、村くらいしか見えてこなくなり、森や雑草が増えてきたかのように思った。
大きな畑もだんだんとなくなって寂しくなっていく。
ついには小屋すらも見えなくなっていった。
国から少し離れるだけでこれ程にも寂れていくとは思わなかった。
だが森が近いおかげで、冒険者の仕事がやりやすいのかもなーと考えたりしてしまう。
俺も冒険者として動いてこの世界を学んでいきたいものだ。
貴族にはなれそうにないしな。
てかなりたくない面倒くさそう。
ここに来るまでにウチカゲとサテラは随分と仲良くなった。
ウチカゲは俺に対して敬語は崩さないが冗談が言えるようになってきている。
この変化は、俺が昨晩気楽に接してくれと言ってからだ。
どうやら気にしてくれていたようだ。
俺としては、こういう軽く接してくれる方がいいのでありがたい。
この調子で他の鬼たちもウチカゲのように接してほしいな。
「随分と寂れてきたな~」
「そうですね。道が整備されていないのでガタガタしてますけど、応錬様とサテラは酔ったりしていませんか?」
「だいじょうぶ!」
「俺もだ」
ガタン! とまた揺れた。
石を踏んづけたのだろう。口を閉じた瞬間でよかったぜ。
俺はおもむろに少しだけ預かった財布を開いてみる。
その中にはまた袋が三つあり、銅貨、銀貨、金貨が入っていた。
やはり結構重い……。
銅貨や金貨には小さな文字が書かれており、中央に書かれているものは一見魔法陣のようにも見える。
簡単に複製されない様に、こうして難しい加工を施しているのだろう。
改めて金を持ってわかったが、これで何が購入出来るのとかは全く分かっていない。
金銭感覚がゼロなのだ。
これからこの世界で生きていくのに、金銭感覚がないのは不味いだろう。
ウチカゲは知っているようだし聞いておいた方がいいな。
「ウチカゲ」
「何ですか?」
「この金ってどれくらいの価値があるんだ? 相場が全く分からなくてな」
「じゃあ一から教えていきましょうか。まず貨幣は七つあります。一番価値の低い順から言うと銅銭、銅貨、銀銭、銀貨、金銭、金貨、そして白色金貨があります。銅銭十枚で銅貨一枚になります。これが金貨まで続いていくのですが、白色金貨だけは金貨が百枚集まらないと白色金貨一枚にはなりませんね」
金貨の上があったのか。
だが随分高価だな。
一体そんなもの何に使うんだ……。
まぁ価値はわかった。
今度は何が何円で買えるかを聞いておこう。
「じゃあ銅銭では何が買えるんだ?」
「銅銭では食料を買うのが関の山ですね。食料や日用品などは銅銭~銀銭までで買うことができます。宿に泊まる、道具……例えば加工が難しい物、鉄を使っているものを買うなら銀銭~銀貨が妥当で、武具やポーションを買ったりするのは銀貨以上の金額が必要になります。交易とかは金貨以上でなければ話にならないのですが、俺たちには必要のないものですね」
「ほぅ。意外とわかりやすいんだな」
「はははは。俺としては魔物である応錬様が、すぐに金銭感覚を理解できるのが不思議で敵いませんが……」
「へ、蛇の間にいろんな所に行ってたからな。いろいろ勉強してたんだ」
「……本当ですか?」
「お、疑うのか?」
「じゃあそう言うことにしておきましょう」
ウチカゲも言うようになった。
今までなら疑うだなんてことしなかっただろうしな。
そうそう、こういう感じの関係が丁度いい。
ていうかウチカゲ説明上手いよな。
めっちゃわかりやすかったし、すぐにでも一人で使えそうだ。
だが金銭の感覚がわかったことで、アスレがどれだけの大金を押し付けてきたかがわかった。
なんて金額押し付けてくるんだマジで。
「おうれんー。応錬はなんで蛇なの?」
「うぇ? ああーなんでだろう。考えたことなかったなぁはっはっは」
なんでと言われても答えようがなさすぎる。
俺はこれから龍になっていくんだぞ。
今は蛇でも近いうちに、龍の子供くらいにはなるかもしれないからな。
ウェイブスネークの次は何だろうか……。
「そういえば応錬様は時々姿を変えられますよね。あれは何ですか?」
「あれは進化だよ。俺たち限定だろうけどな。進化すると技能を貰えたりするんだよ」
「なんと便利な……って俺たち? 応錬様以外にもおられるのですか?」
「ああ。一人だけな。名前を零漸っていうんだ。お互い生まれたばかりで名前がなかったから付けてもらったのさ。俺も零漸という名前をあげたがな」
今頃アイツは何をしているのだろうか……。
最後はまだ俺が魚だった頃だったからなぁ。
最初の頃はあの川の近くにいたけど、いろいろあって随分と遠くに来てしまった。
出会うことができるのは随分と先になってしまうだろう。
あいつが人間になれるかもわからないしな。
だが俺がなれたんだ。
あいつもきっと大丈夫だ……。ん?
待って? そういえば善行とか文字とか読めるようにならないとなれないんだよな?
あれ? 絶望的じゃね?
いやでも……うん、あいつバカだったからなぁ……。
頑張れよ零漸……俺は待っているからな。
ふとウチカゲの方を見てみると、感心したように頷いていた。
「零漸殿……ですか。流石応錬様に名前を付けるだけのセンスをお持ちだ。一度会ってみたいものです」
「ああ、あいつ結構馬鹿だぞ? めちゃくちゃ硬いがな」
「硬い……ですか?」
「防御力が桁違いなんだ。多分今ならウチカゲの攻撃力と同じくらいの防御力持っているかもな」
「なんと……。俺でも打ち破れそうにないですね……」
「俺はまだ一つも四桁いってないぜ……」
ただ数字がでかいだけでは駄目だとは思うが、それでも四桁は欲しい。
なんだか俺のステータスは随分と平均的だからな。
弱点が無くなるので良いとは思うのだが、如何せん伸びが悪い。
まだ魔物を倒しての経験値も検証していないからなぁ……。
いろいろ試しておかなければ。
「そういえばステータスの平均とかあるのか?」
「ああー……鬼たちは攻撃力が高くなる傾向にありますね。人間はステータス300が良い所だと思います。ただ職業によって変わってくるとは思いますが、1000を超える程のステータスは人間ではいませんね」
「ああ、そんなもんなのか。てことは俺は既に平均値を凌駕しているのね」
ちょっと安心した。
あれだけ進化して人間のステータス以下とか言われたらすごく悲しくなる。
だがウチカゲ曰く、人間はステータスは獣人や鬼たちより圧倒的に低いけど、技能や魔法はめっぽう強いとのことだ。
油断はしない方がいいかもしれないな。
勿論才能などにも左右されるそうだが、冒険者のSランクともなると、そもそも格が違って勝てないのだとか。
ウチカゲを倒すほどの実力者とか俺も会いたくねぇ。
だが気になる言葉が出てきたぞ?
「冒険者Sランクか……。冒険者って何してるんだ? ランクとかもあるんだろ?」
「気になりますか?」
「俺もこの騒動が終わったら冒険者になってこの世界を歩き回りたいからな」
「……姫様が悲しみますよ?」
「てなると、お前は俺を引き止められなくて怒られるな!」
「ちょ、ちょっと!? 俺の評価をいくら下げれば気が済むんですか応錬様!」
その反応に俺とサテラは笑った。
ウチカゲは頭を抱えているが、顔は笑っている。
まぁウチカゲなら何とかしてくれるだろう。
だが冒険はしてみたい。
一生を鬼たちと暮らしたくはないしな。
世界を旅してみたいし何より強くなりたい。
まぁ進化するのが目的だが、こんなに面白そうな世界を探索しないなんて勿体なさ過ぎる。
それに一生会えないってわけではないしな。
時々帰ってきてやるさ。
日本刀とか、鬼たちじゃないと打てそうにないもん。
ひとしきり笑った後、話を戻すことにした。
冒険者についてだ。
ギルドの事とかもこの際聞いておきたいからな。
だがウチカゲは何から話すべきか悩んでいるようだった。
そんなに悩むことがあるのだろうか?
「そうですねー……。じゃあランクの事から説明しましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます