3.8.冒険者


「そうですねー……。じゃあランクの事から説明しましょうか」

「お、頼むぜ」


 ウチカゲは思い出すかの様に、顔を上に向けて言葉を選んでいく。


「冒険者には実績と貢献度でランクが昇格します。一番上からS、A、B、C、D+、D、D-、E+、E、E-、Fがあります」

「結構多いな!」


 想像以上にランクの数が多かった。

 昔は結構少なかったらしいが、若手が身に余る強敵に立ち向かうなどと言ったことが絶えなかった為、その対策としてどんどんランクの数が増えていったのだという。

 まともに魔物を狩れる様になるのはE+からなんだそうな。

 それ以下は薬草摘みや雑草抜きなどと言った雑用が多いらしい。

 まぁ大体そんなもんだよなぁ。


「でも応錬様であれば、今でもCランクほどの実力はあるのではないですか?」

「……もっとおだててくれると思ったけど意外と低めなんだな」

「戦っている姿を見たことがないもので……」

「あ、そうだったな」


 そりゃランクもつけにくいわ。

 この世界の住人は歩き方だけで相手の実力を測ることはできないと言っているしな……。

 なんかこう……わかるでしょ!


 あ、でもCランクってどれくらいの実力なのかわかってないな。

 てかまず魔物をそんなに知らないからなぁ。


 クッソ天の声め。

 魔物の紹介文にランクを入れておいてくれればいいものを……。

 でもウチカゲなら俺の倒した魔物のランク知ってるんじゃね?

 えーっとあいつなんだっけ。

 あのゴブリンの希少種みたいなやつ。


「じゃあ……なんだっけ。ゴブリンの希少種って知ってるか?」

「……ゴボックですか?」

「あーそんな名前だったな。そいつ倒したことあるんだけど、あれは何ランクだ? 今まで戦ってきたので一番強かったからさ」

「…………Bです」

「まじか」

「わぁ! 応錬すごい!」


 サテラが目を輝かせながら俺を見てくる。

 サテラは冒険者にでも憧れているのだろうか?


 でもあれだな。

 Bランクの魔物ってわかってたら速攻で逃げてたわ。

 てかあれでBなの? 割と余裕じゃない?

 いやまて、Bランクは普通に俺の罠技能を破ってくるって事か。


 足止めなどは効かないのかもしれないな……。

 でもあの時は俺も弱かった。

 けど今だったら負けないし……やっぱり余裕じゃない?


 んーでも過信は禁物か。

 あの個体がたまたま弱かっただけかもしれないしな。

 もしかしたら子供だったかも。

 でも頭は良かったなぁ……。

 俺の体も小さかったし、的が小さかったってのも勝てた理由にはなるのかもしれないけどね。

 ていうか死にかけたし……。

 あの時は危なかったわ。まじで。


「応錬の戦ってる所みたい!」

「ええ……でも魔物いないしなぁ。ていうかサテラは冒険者に興味があるのかい?」

「あるよ! 絶対楽しそうだもん!」

「そうかそうか。じゃあ今からウチカゲ先生が教えてくれる冒険者の心得は覚えておかないといけないぞ?」

「はーい」


 サテラはウチカゲの方を見ている。

 真剣に聞くつもりなのだろう。

 ウチカゲは苦笑いしながら俺の方を見ている。

 俺は軽く親指を立てて、「頑張れ先生」と心の中でエールを送っておく。

 ていうか俺も話聞いておかなきゃいけないんだけどな。


 ウチカゲは諦めるように、ため息を吐いてから説明を再開してくれた。


「……ランクはとても重要です。依頼難易度がB以上の場合、B未満の冒険者はその依頼を受けることはできません。それとは別にSランクの冒険者はD+以下の依頼を受けることはできません。Aランクの冒険者はD以下の依頼を受けれません。こういった風に順々に受けれる最低限のランクが決められています。何故かと言うと、若手の仕事を奪ってしまうことになるからです」

「おお、結構考えられているんだな」

「他にもいろいろ規定はありますが、それはランクが上がるごとに覚えていけばいいかと。あと飛び級もありますが、これは滅多にないですね……。ここは素直に数をこなすのが無難でしょう。信頼を得たいのであれば、これが一番いいですね。それと依頼に失敗した人は違約金を払わなければいけません。これはランクが上がるごとに高くなっていくので、注意したほうが良いです」


 信頼と違約金ね。

 確かに信頼は必要だ。

 極秘の依頼とか失敗の許されない依頼は必ずあるはずだからな。

 それを信頼のないものに任せるなんてことは、ギルドも絶対にしないだろう。

 じゃあ俺も雑草むしりか薬草集めから始めることになるのかな。


 だがそれは冒険者にとって大切なことだ。

 若手の冒険者が薬草を取ってきてくれるおかげで、高ランクの冒険者が薬を買って難易度の高い依頼を受けることができるのだ。

 これは高ランクの冒険者も通った道だ。

 ここでさぼっていては高ランクの冒険者には成れないだろう。


 それに……いざという時に薬草知識とかがあれば役立つだろうしな。

 俺が回復技能が使えるからと言って、知識を疎かにしていれば回復技能に頼らなければならなくなる。

 それは駄目だろう。

 ただでさえ隠せって言われているんだしなぁ……。


 違約金に関しては、失敗した後次の冒険者に渡す報酬の増額や、雇う冒険者を増やしたりすることに使われるものだろうな。

 あとはギルドにも少し金が入るのかな?

 金の回り方などはよく知らない。


「昇格試験に合格すればランクは上がります。あと……冒険者には一ヵ月に一度税金を納める義務があります。これもランクによって金額が変わりますね。これが払えない者はまだそのランクで動くことはできないと判断されて降格されます」

「ちゃんと依頼受けて、依頼を成功させていれば、税金を払えないという事はないからか?」

「そうです。それに税金として払う額は、そのランク帯ではとっても安いんです」


 これも安全のために配慮された仕組みらしい。

 失敗ばかりしていては破産するし、それを何とかしようとして身の丈に合わない依頼を受ければ致死率も跳ね上がる。

 そういった人物には身に余るランクとして降格されることがあるそうだ。


 割と日常的にそういうことが起こっているらしいが……それ大丈夫なのか?

 もうちょっと試験内容とか変えたほうがいいんじゃないの?


 と思ったが、それはパーティーが解散した時によく起きる事らしい。

 三人でCランク帯の冒険者パーティーは、全員の力を合わせてランクがCなのだ。

 何らかの理由で解散すると、ソロで受けれる依頼はなくなるので降格が余儀なくされるらしい。


 しかし、こういう降格には違約金などは払わなくていいらしい。

 来月から一個下の依頼しか受けられなくなる程度なのだとか。

 冒険者もそうだがその情報を全て抱えているギルドもすごいなと思う。

 どれだけの人員がいるのだろうか。


 勿論降格されることのない事例もある。

 例えば冒険者を引退するときだ。

 申請すればもう依頼を受ける事はできなくなるが、ランクはそのままだし税金も払う必要はなくなるのだ。

 他にも長期の休暇を取ったり、子供を育てたりと言った事にも対応してくれているらしい。

 何とも優しいギルド制度。


 因みにその税金の金額だが、Sランクは一ヵ月に金貨一枚。

 Aランクも同様。

 Bランクは金銭五枚、Cランクは金銭一枚。

 D+が銀貨五枚、Dが銀貨一枚、D-が銀銭五枚。

 E+が銀銭五枚、Eが銅貨五枚、E-が銅貨一枚。

 Fが銅銭五枚らしい。


 SランクやAランクになると、金貨一枚なんてはした金になるのだとか……。

 なんせ国や町からの依頼がほとんどだ。

 そりゃ一つの依頼にかかっている金額も高いはずだよ。

 一ヵ月に一つ仕事するだけで二ヵ月は遊んで暮らせるそうだからな。

 羨ましい限りだぜ。


 あと税金はどの国で払ってもいいらしい。

 本当は登録した場所で払うのが一番いいのだが、旅をしていてはそういうわけにもいかない。

 別のギルドで払った場合は登録したギルドの場所を書かなければいけないらしい。

 だがそれだけだ。

 あとはギルドが、この人はここでちゃんと税金を払いましたよーと言う手紙を送るのだとか。

 結構しっかりしてる。


 ウチカゲの話をまとめてみるとこのようになった。


 ランクS 金貨一枚 受けれる依頼 S~D+

 ランクA 金貨一枚 受けれる依頼 A~D

 ランクB 金銭五枚 受けれる依頼 B~D-

 ランクC 金銭一枚 受けれる依頼 C~E+

 ランクD+ 銀貨五枚 受けれる依頼 D+~E

 ランクD 銀貨一枚 受けれる依頼 D~E-

 ランクD- 銀銭五枚 受けれる依頼 D以下

 ランクE+ 銀銭一枚 受けれる依頼 E+以下

 ランクE 銅貨五枚 受けれる依頼 E以下

 ランクE- 銅貨一枚 受けれる依頼 E~F

 ランクF 銅銭五枚 受けれる依頼 E~F


 E~Fランクはその間であれば、好きな依頼を受けることができるらしい。

 後は先ほどウチカゲが言っていた通りのことだ。


「そういえばSランクって何人くらいいるんだ?」

「俺の知っている限りではそんなにいないはずです。大体はAランク止まりですね」

「……ウチカゲは何ランクなの?」

「ああ、俺も気になる」


 ウチカゲは一気に固まった。

 それに俺とサテラはそんなウチカゲを見て首を傾げる。

 ギルドに入っていないのであればそうやって言えばいいし、別に隠すような事じゃない。

 しかしギルドのことに結構詳しかったので、俺はウチカゲはが冒険者としてのライセンスを持っていると踏んでいるのだが……。

 どうしたんだ?


「ウチカゲ?」

「え、えーっと…………Fです……」

「どうして?」


 おうふ。

 サテラ。

 もうちょっと言葉選ぼうな?

 ドストレートすぎるよ?

 いやだがしかし、ウチカゲがFだとは思わなかった。

 普通に強いもんこいつ。

 なんでF止まりなんだ?


「い、いや……こんな格好してますし、鬼ですから尚更目立つんです。その……恥ずかしくて」

「恥ずかし……? え?」

「ギルド行っても目立ってよく見られるし薬草集めてても目立つし見られるで……目線が痛くて……」

「ブッ」


 それを聞いて俺は大爆笑してしまった。

 サテラは何で笑っているのかわかっていない様だ。


 だが想像してほしい。

 この一見クールな鬼が恥ずかしがって薬草を集めている姿を。

 恥ずかしながらギルドカウンターに行く姿を。

 俺はそれにツボってしまった。

 無理お腹痛い。


「はははははははははは!!」

「ちょっと応錬様ぁ!? 笑いすぎですよ!?」

「お前も! はははは! そいう、そういう所もあるんだなぁはははは!」

「そりゃありますよ! でもそれから依頼行くのもあれだし、もうこんな年だし今から薬草集めからってちょっと……」

「はははは……はぁ。おかし。でもそれはわかるなぁ」

「? 私よくわかんない」

「大人にはな。プライドってのがあるんだよ」

「ふーん」


 よくわかっていなさそうだが、とりあえず頭をなでくり回してやる。

 目を細めてくすぐったそうにしているが抵抗はしない。

 やはり子供は可愛らしいなぁ。


「ま、俺が冒険者になる時はお前もついて来いよ。一緒に高ランクになろうぜ」

「え、いやでも今更……」

「旅は道連れ世は情け。一緒にやってれば恥ずかしいことなんてないさ。一人だから恥ずかしいってこともあるからな」

「……わかりました。その時はお願いしますね」

「おっしゃ! 言質取ったからな!」

「!? 狙ってたんですか!?」

「ったりめぇじゃねぇか! 俺だってこの見た目で薬草集め一人でするとかごめんだわ!!」

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