10.34.土地神殺し


 ズンッ。

 地面が傾いた。


「は?」


 半径五十メートルの大地が凹んだ。

 足場がどんどん崩されていき、最終的にはぽっかりと口を開けた大穴が出現する。


 俺はすぐにその場を離脱するため、多連水槍を使って空を飛んだ。

 ダチアが零漸を掴んで空を飛び、同じ場所に集まってくる。


「ダチア! これは……!?」

「俺が戦ったのは強化された陸の声だけだ! こいつは知らん!」

「初見技って見破れるっすかね!?」


 それは難しいかもしれないが、大地の主を初見で何とかしたのだ。

 見切らなければやられるだけ。


 警戒していると、横腹に強い衝撃が走った。


「んぐぅ!!?」

「兄貴!!」


 何も見えなかった。

 少し太い鞭のような何かがぶつかってきたということだけは分かったが、それだけだ。

 それ以外は何も分からなかった。


 攻撃は強力で、俺は簡単に吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 回復して立ち上がって周囲を見てみるが、何もいない。

 だが、操り霞であれば……その姿を把握することができた。


 巨大な透明の木。 

 それがあの黒い穴から生えており、数百本の根っこが地面から生えてうねうねと動き回っていた。

 根っこが地面に叩きつけられると、ズダンッという音がして地面が抉れる。


「なんだあれは……透明ってありかよ……」


 あれが本当に樹木なのかどうかも分からない。

 土で作った精巧な樹木なのかもしれないし、見えないということは空気で作られた樹木なのかもしれない。


 今の自分で切る事ができるだろうか?

 あれだけ太い幹を切り飛ばすのは至難の業だろう。

 そもそも近づけるかどうかも怪しい。


 ズズズズ……ズガガガガッ。

 透明な樹木が、移動をしている。

 根っこで地面を掘り……前鬼の里の方へと前進していた。


「……嘘だろ?」


 土地神殺し。

 巨大な透明の生きた樹木を出現させ、土地そのものを壊しつくす。

 召喚技能の一種だ。


 土地精霊、土地神、大地の主はそもそも土がなければ使うことができない。

 それはあたりまえのことだ。

 しかし基本的にはどこにいっても土というものは存在する。

 それを破壊するのが、この土地神殺しだ。


 破壊された土地は、土系技能を使えなくなる。

 厄介極まりない存在が……今闊歩し始めた。


「これでいいか」

「ああ……げほ……」

「お前もう限界だな。ま、あとはこいつに任せよう。逃げるぞ」

「頼む……」


 地の声の肩を借りている天の声が、力なく頷いた。

 すぐに呪文を唱え始め、詠唱が完了する。

 ブンッと姿が消えた瞬間、ダチアの長剣がその場に刺さる。


「くそおおおおおおおお!!!!」

「おお、落ちるっす!! ちょちょ! ダチア!!」

「逃げられた……逃げられた!! くそ!! くそ!! っ!!」


 ゴウッという音を聞いたダチアは、すぐにその場を離脱する。

 先ほどまで自分たちがいた場所に透明の根が通り過ぎた。


 見えない存在。

 だが深い穴は次第に移動し始めていた。

 こいつは何とかしなければならないと、ダチアは難しい顔をして睨む。


「……どうする……!」

「とりあえず応錬の兄貴の所に行くっすよ! 操り霞って技能で何でも見れるっすから!」

「そうか! 分かった!!」


 見えるのであれば、対処の使用はある。

 ダチアはすぐに翼を広げ、風を捉えて応錬の所に向かった。


 吹き飛ばされた方向に向かって飛んでいると、すぐに見つけることができた。

 俺の前に着陸し、とりあえず一息つく。


「……なぁ……声は……」

「逃げられた。とんでもない置き土産を残してな」

「……!」


 歯を食いしばって拳に力を籠める。

 白龍前がガチガチと小刻みに揺れて音を鳴らしていた。

 それだけ悔しかった。

 天打があそこまで追いつめてくれたのに、止めを刺せなかったのだ。


 あと少しだった……とは言えないだろう。

 地の声を三人で相手にして、あれだけしか戦えなかったのだ。

 有効な攻撃手段はあれど、それを遥かに凌ぐ技能を持って対処してきた。

 どう頑張ってもあれ以上の戦果は見込めない。


 だが絶対に諦めはしない。

 何としてでもあの声たちは倒して見せる。


 天打の死を絶対に無駄にしないために、弱ったあいつは絶対に自分が倒す。

 恨みと憎みでどうにかなりそうだったが、力を入れ続ける拳の痛みが、何とか理性を保たせてくれた。

 ここまで暴れたあいつらには絶対に制裁を加える。

 悪魔を散々苦しめ、ガロット王国国民の帰る所を奪ったあいつらは、絶対に許さない。


 だがまずは……あれをどうにかしなければならなかった。

 このままでは前鬼の里が破壊されてしまう。


「応錬、あいつの姿を教えてくれ」

「デカい樹木だ。根っこが数えきれないくらいあって、それが鞭みたいにしなって周囲を囲っている」

「厄介だな……近づけないではないか」

「木なら……燃やせばいいんじゃないっすか?」

「木だったらな。透明だからどういう素材で作られているのか分からないんだ。土かもしれないし、空気かもしれない。まぁ、なんにせよそれを確認するところからだな」

「応錬に賛成だ。あいつ殺してさっさとあのくそ共探すぞ」

「おう……!」

「うっす!!」


 こいつを放置して探しに行くわけにもいかないし、あれが倒せなかったらあいつらなんかに勝てるはずがない。

 さっさと伐採して、ダチアの言う通りあいつらを探しに行く。

 天打の仇は絶対にうつからな。

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