10.33.壊れた勾玉
応錬、零漸、ダチアが地面にめり込んでいる。
動く気配はなく、息をしているかどうかも怪しいところだ。
確認するまでもない。
踵を返して地面から天の声を吐き出させる。
べしゃっと乱暴に吐き出されたので受け身を取ることができず、地味に痛い思いをした。
「……痛い」
「それだけ言えれば十分だ。逃げるぞ」
もう一度天の声を肩に担ぎ、歩こうとした。
だが、歩けなかった。
聞こえてしまったからだ。
めり込んだ地面から、体を起き上がらせる音を。
「が……ぐぉ……いでぇ……!!」
「だ、大丈夫っすか兄貴!」
「さっすが高防御力だな……。それに比べて俺は……お前の、身代わりを受けてもこれだ……えぐい……『大治癒』……」
何とか体を癒し、立ち上がる。
白龍前と影大蛇が壊れてしまった。
だが刀身は折れていない……。
鍔と鞘はもう使い物にならなさそうだが……ここで武器を捨てるわけにはいかない。
鍔の壊れた白龍前を軽く振ってみる。
攻撃することは問題なさそうだ。
影大蛇は危ないので、魔道具袋に仕舞っておく。
「……兄貴? 俺……咄嗟のことだったんで身代わりは使ってないっすよ……?」
「え!? まじで? じゃあ何で俺……」
あの攻撃は一度受けたら確実に殺されるようなものだった。
今の防御力でも、零漸に手伝ってもらわなければ致命傷は避けられないだろう。
だが技能は使っていないという。
パンッ。
そこで、首にぶら下げていた勾玉が弾け飛んだ。
ぱらぱらと地面に落ちる。
「……こいつか」
イルーザから貰った物だ。
どういう魔道具なのか聞いてみたが何も教えてくれなかった。
教えられなかったというのが正解かもしれないが……。
なんにせよ、助けられたらしい。
ガラララ……。
後方でダチアが立ち上がる。
首をバキバキと鳴らしたあと、肩も鳴らした。
持っていた長剣がひしゃげているが……使えなくはなさそうだ。
「ダチア! 無事だったっすね!!」
「咄嗟に防御力を高めた。出目は『10』だとさ。十面ダイスでよかったよ」
身体能力にかかわるステータスは、出目が高いほど効果を発揮する。
完全に賭けだったが、こういう時にダイスは答えてくれるものだ。
振り出しだ。
俺たちは地の声を睨み、すぐに技能を使用した。
「『多連水槍』、『水龍』、『雷龍』、『火龍』、『土龍』、『風龍』」
「『土地神』、『魔力吸収』、『とらばさみ』」
「『ダイス』、『瞬翼』、『魔剣修繕』」
無数の水の槍が出現し、五属性の龍が出現する。
地面が動き、そのすべての罠が設置され、敵から魔力を吸収しようと試みる。
ダイスを投げると出目は2。
二十面ダイスにしてはいい出目だと満足げに頷いた瞬間、長剣が元通りになり、銀の翼が輝いた。
「ああー、面倒くさい……。『大地の主』」
後ろにあった腕が動き出し、八つの柱が狙いを定める。
大きく横に振り被った巨大な腕は、すべてを薙ぎ払うようにして土の金城棒を振った。
だがその金城棒は遠くへと飛んでいく。
ダチアが手持ちの部分を長剣で斬り飛ばしたのだ。
太い柄だったが、事もなげにしているダチアはそのまま警戒をし、周囲の柱に気を配る。
腕をどうにかしなければならないと考えた零漸は、土地神で腕を作って連続で殴りにかかった。
一つ一つにとらばさみという罠技能を使っている為、拳が当たると同時に腕に喰らいつくようにして鋭い歯を持ったとらばさみが噛みつく。
威力も申し分ないようで、地の声が作り出した大地の主の腕は次第に削られていった。
腕と柱はダチアと零漸が何とかしてくれている。
であれば俺は、数十本の多連水操と五属性の龍で声二人を仕留める。
白龍前で龍を操り、もう一方の片手で槍を操る。
今の自分が完璧に操れる槍の数は三十本。
だが今回は五十本作り出している。
こちらは陽動で、本命は龍……。
大量の槍が声に向かって降り注ぐ。
一本の柱でそれをすべて弾かれてしまったが、すぐに軌道を修正して何度も向かわせた。
「『爆拳』」
地の声が柱に向けて爆拳を使用する。
轟音と爆風が襲い掛かってきたが、それで壊れたのは槍だけだ。
水龍が地面を滑りながら地の声に牙を向けた。
あと一歩で食らいつける。
といったところで、水龍は破裂して周囲に大量の水をまき散らす。
天の声が持っていた空圧の剣が投げられ、弾けたのだ。
一度爆拳で破壊されているところを見ていたので、これでも何とかなると気付いていたらしい。
だが、それでいい。
びしょ濡れになった地面に、雷龍が突っ込んだ。
バヂヂヂヂヂヂヂヂ!!!!
雷が水を伝って走り抜け、声二人に襲い掛かった。
「ぐぐっ!!?」
「あっぶ!!」
地の声は感電したが、天の声は辛うじて浮遊して回避したようだ。
地の声を封じることができたのは大きい。
すぐに倒すことのできる天の声よりも、こいつの体力を削る方が大切だ。
次に風龍と火龍が合体し、炎の勢いを上げて突撃した。
炎の竜巻の様になって声二人を飲み込んだが、姿が見えなくなったので攻撃が当たっているかどうかは分からない。
広範囲攻撃となっているので当たっているとは思うのだが、当たっていたとしても回復するのがあいつらだ。
まだまだ油断できない状況が続く。
ボウッ!!
炎が爆拳によってかき消され、無傷の二人が燃え盛る地面から出てきた。
やはり一筋縄ではいかなさそうだ。
「最後にもう一匹」
「フッ!」
ガンッ!!!!
天の声を喰らおうとした土龍が口を開けて襲い掛かったが、土系の技能を多く持っている地の声には相性が悪かったらしい。
一度殴られただけで破壊され、土くれに戻る。
「『破壊は』……いや、これは意味ないな」
「天。もういいよな?」
「逃げる体力だけは残しておいてくれよ」
「勿論」
不敵な笑みを浮かべた地の声は、楽しそうな声で一つの技能を口にした。
「『土地神殺し』」
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