3.65.戻ってきましたサレッタナ王国
「はー、やっと見えたな」
「一度通った道って短く感じるんすけど……こう日を跨ぐとめちゃくちゃ長く感じるっすね」
馬車を走らせて十日が経っていた。
ようやくサレッタナ王国の城壁が見えるところまで来ることができたが、あと一時間は馬車に揺られていなければ辿り着くことはできないだろう。
ここまで城の外が開けているのは、敵の奇襲を防ぐためであるのだろうが、それにしても広すぎる気がするのは気のせいではないだろう。
これだけ広いと、依頼を達成しに行く冒険者は大変だろうなと思う。
もっとも、俺達もその仲間入りをするので他人事ではないのだが。
「応錬様ー、襲撃の気配はありませんか?」
「操り霞には引っ掛からんな。あん時の盗賊団が復活してると思ったんだがな……ウチカゲはどうだ?」
「俺も気配は感じませんね」
前回この道を通った時は、ヤグル山脈で盗賊の襲撃を受けたので少し警戒を強くしている。
あの時の盗賊が復活している時間は十分すぎるほどにあったため、ヤグル山脈から常に気を張っているのだが、結局サレッタナ王国が見えるまでの間襲撃はなかったので、少し拍子抜けしている。
だが出てこなかったと言って気を抜いているわけにはいかないので、夜は交代制にして見張りをし、移動の際は俺の索敵技能と、ウチカゲの索敵能力を使って常に周囲を警戒していたのが阿保らしくなってくる。
出てこないに越したことは無いが、これだけ準備をしているのだから出て来いよと大声を出したくなる。
魚釣りで浮きが少し沈むが、結局餌だけつついて逃げられてしまう時のあの気持だ。
だがまだサレッタナ王国には辿り着いていないので、油断は禁物だ。
どうせ出てこないだろうとは思っているが、それでもやることはやっておかないといけない。
発見が遅れて、先手をしかけられれば厄介だからだ。
「……っつてもこれだけ広ければ索敵もなんもないよなー」
「どこから来るか丸わかりですしね。気を付けるのは通り過ぎる馬車くらいなもんです」
「ああ、なるほど。こういう所だとそういう襲撃の仕方があるのか」
馬車の中に盗賊団が潜伏し、タイミングを見計らって飛び出して襲撃する。
確かにそれであれば、ほとんど気が付かれずに近づくことができるし、御車が合図すればいいので、顔を出すこともない。
それをこんな国の近くでやるのはどうかと思うが、それでもまだまだ距離はあるし、そう言った作戦も十分可能なのだろう。
「ま、それでも警戒はしておくか」
「はい」
結局サレッタナ王国に辿り着いても襲撃はなかったので、取り越し苦労となってしまったが、俺達はついにサレッタナ王国に入国することができたのだった。
◆
約二か月ぶりとなるサレッタナ王国は、前に来た時より人が少なく感じる程度でほとんど変わっていなかった。
初めて来た時は、ここに来る理由が理由だったのであまり観光はできなかったが、今回はここを拠点に暫く動き回る予定なのでこの国をゆっくりと観光できるだろう。
スターホースを前回と同じ場所に預け、ウチカゲの勧めで宿を取りに行った。
今回の宿は前回の場所とは違う場所にあった。どうして前回の場所と宿が違うのかをウチカゲに聞いたところ、冒険者ギルドがここから近い場所にあるからだそうだ。
大体宿に戻るときは、ギルドで依頼を終えてからになる。
それから歩くのも面倒なので、こうして冒険者ギルドに近い場所を好んで取ったという事らしい。
こういう場所は人気の宿になることが多いので、満員になっていることもざらにあるようなのだが、今回は空いていたようなので、すぐに宿をとることができた。
ユリーとローズも同じ宿に泊まることになり、チェックインを済ませているようだった。
「さて、応錬様はこれからどうしますか?」
「……ウチカゲはあの地下にもう一度侵入して状況を確かめてくれるか? 俺はイルーザの所に赴いてみることにする」
「承知いたしました」
今一番確認しておきたいことはあの奴隷達だ。
あの地下のことも気になるので、それはウチカゲに任せ、俺はイルーザから少し話を聞いてみたいと思う。
イルーザが奴隷達のことを知っているかはわからないが、イルーザにはあの地下のことを説明したので、もしかすればなにか知っているかもしれない。
零漸とアレナはどうしようかと思ったのだが、どうにもついてきそうな雰囲気ではなかった。
二人は目をキラキラさせながら周囲を忙しなく見渡しており、サレッタナ王国の街並みを興味津々に見ていた。
長旅で疲れていると思ったのだが……そんなことは無いようだ。
しかし、この二人だけだと何をしでかすかわからない。主に零漸が。
とは言ってもアレナを一人で行かせるわけにもいかないので、どうしたもんかと思っていたところに、チェックインを済ませたSランク冒険者の二人が帰ってきた。
「うん。ローズ、零漸とアレナを頼めるか?」
「え? た、頼むってどういうことですか?」
「街を案内してやってくれ。この二人だけだとちょっと心配でな……」
「なるほど。わかりました。じゃ、ユリーは依頼達成報告と素材の換金をしてきてくれる?」
「わかったわ。ローズの魔道具袋借りるわよ」
二人は短い会話でやることを分担し、ユリーはすぐに宿から出て行ってしまった。
ユリーが零漸と一緒に居たくないという事はローズも知っているので、咄嗟に別の用件を作って引き離したのは良い判断だと思う。
「じゃ、ローズ、ウチカゲ、頼んだ」
「はーい」
「お任せを」
ウチカゲは一瞬で消え、ローズはとてとてと零漸とアレナに近づいて、街の案内役を買って出てくれていた。
二人はローズの申し出を承諾し、案内をしてもらうことになった。
アレナはすぐにローズの手を引っ張って外に連れていく。
「よし、俺も出るか」
俺はその後ろ姿を見届けた後、軽く伸びをして行先を確認し、そう一つ呟いた。
◆
懐かしい道をひたすら真っすぐ歩き続け、ようやくイルーザ魔道具店に辿り着くことができた。
数える程度しか通っていない道なので、時々迷ってしまったかと勘違いをしてしまったが、それでもなんとか見覚えのある家や店を見つけては、この道で間違いないと確信することができた。
しかし、イルーザ魔道具店に辿り着いたというのに、何故かここが目的地であるとは思えなかった。
俺の記憶しているイルーザ魔道具店は、殆ど人が出入りしないような場所であり、見る人が見ればその家は魔女の家なのではないだろうかと口にしてしまうような雰囲気を醸し出していたはずである。
だがしかし、今俺の前にあるイルーザ魔道具店はにそのような雰囲気はなく、活気に満ち溢れており、店の前には行列ができている。
人が出ては入ってを繰り返し、出ていく人達の手には一抱えほどの袋が握られているようで、客もいい買い物をしたと言わんばかりの笑顔である。
「……何がどうなってんだ」
その真相を確かめるべく、とりあえず行列の一番後ろに並ぶことにした。
この国では随分と目立つ格好をしているためか、目線が少し痛いがそれも少しの間だし、なんなら道中も同じような目線を向けられていたのでもう気にしない。
しかし……やはりなぜこんなに繁盛しているのかがわからない。
この二か月の間に一体何があったのだろうか。
「なあ、ちょっといいか?」
「なんだい?」
「この店、ちょっと前まではそんなに繁盛していないようだったはずだが、一体どうしてこんな繁盛するようになったんだ?」
「あんた知らないのかい? ここで子供が働くようになってから店の雰囲気がガラッと変わってね? そしたら人の出入りが多くなったんだけど、その人達が言うにここの店主の人があのイルーザさんって言うじゃない。イルーザさんは魔道具界のスペシャリストだからね。買わなきゃ損だよ?」
どうやら半分以上が俺のせいのようだ。
子供が働くようになってって所から嫌な予感はしていたのだが……。
いやしかし……何故あの子達がここで働きだしてから繁盛し始めたんだ?
このばあさんの話を聞く限り、イルーザはそれなりに有名な人物だという事がわかるが、有名であれば子供達がいなくても繁盛していたはずである。
「……考えても仕方ないか。本人から話を聞こう」
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