10.66.内部破壊


 大きく吹き飛ばされたユリーには、まだ血液が付着していた。

 それが何度も何度も破裂し、体を躍らせる。

 地面に叩きつけらてなお、破裂が止む様子は一切なかった。

 乾いた音が響き続ける。


「ユリー!!」

『私が行く!』


 足に力を入れ、物凄い速度でユリーに接近した。

 魔物の姿をとった時にだけ使えるこの俊敏は、ウチカゲにも劣らない程の速さを有する。

 近づいた時には破裂音が鳴りやんでいた。

 すぐに大治癒を施そうとするが、未だに一部血液が残っていることの気付く。


 パァンッ!!


『ぎゃっ!!』


 一際大きい破裂が起こり、リゼの顔に直撃する。

 すぐに回復して事なきを得た後、ユリーを治療した。

 体中がボロボロだったが、大治癒はそれもすべて治してしまう。

 しかし、気絶してしまっているようで目は覚まさなかった。


「こいつか!!」


 ウチカゲがストローの様な口を発見する。

 それを丁寧に細切れにして周囲に闇媒体を置き土産として設置して離脱した。

 鋭い棘が刺さって悲鳴を上げている。


 取り合えずこれで血液が破裂することはなくなったはずだ。

 とんでもない技能を持った魔物がいるものだと舌を打った。


「ローズ殿!! 援護を!!」

「くっ……了解!!」


 ユリーが心配で仕方なかったが、ここは戦いを優先させなければならない。

 すぐに魔法を使って攻撃を繰り返していく。

 すべての攻撃に貫通能力があるが、ゴム質の様な顔がそれを防いでいるらしい。

 だが顔自体にダメージは入るようで、個々の能力を一個一個消していく作業を繰り返した。


 ウチカゲも射線上に入らないようにして攻撃をしていく。

 持ち前の機動力を駆使して顔という顔を切り刻んでいくが、危ない場面も何度かあった。

 だがその辺は闇媒体で何とか凌いでいる。


「ええい!! キリがない!!」


 切っても切っても違う頭がこちらに向かって牙を向く。

 もうローズの攻撃は気にしていないようだ。

 一度体勢を立て直そうと頭を蹴って跳躍しようとした時……頭に口が生えた。


「なっ!!」


 二口の魔物。

 そんな都合のいいタイミングでそれを踏み抜くかと焦って足を引っ込め、反対の足で空気を蹴って離脱する。

 あとからガチンッと歯を合わせる音が聞こえてきた。

 闇媒体をそこに放り投げ、串刺しにしておく。


 地面に着地したあと再び武器を構えて突っ込む。

 だが、足が動かなかった。


「ぐぁ!?」

「ギュギュギュギュギュ……」


 地面からワームのような口がウチカゲの足を捕らえていた。

 鋭い牙が食い込み、激痛が走る。

 すぐに熊手でなんとか剥がそうとした瞬間、ぐわっと体が持ち上げられた。


「がっ!!?」

「グギュギュゥウ」


 ブチリッ。

 体重を支え切れなかった足が……泣き別れた。

 鋭い痛みから猛烈な熱さへと痛みが変化する。


「グゥウ!!?」


 そのまま地面に体を打ち付ける。

 足を食い千切られたらしい。

 だがウチカゲは未だに冷静で、すぐに止血をしようと足を思いっきり握った。


 膝から下がない。

 それを確認して歯をくいしばって耐える。

 すぐにこの場を離脱したいところだったが、片足では満足に地面を蹴って移動することもままならないだろう。


「ウチカゲ! 掴まって!」

「! た、助かるっ!!」


 待機していたカルナがウチカゲの元へとやってきて肩に担ぐ。

 その場を離脱してローズの後ろへと回り、止血を手伝った。


 冷静さは残しているので、すぐに先ほどのことを伝える。


「じ、地面に気をつけろ……! 地中からの攻撃だ……!」

「分かった……。痛むよ」

「ッヅゥ!!?」


 カルナが何かの液体をウチカゲの足に振りかけ、ローブに入っていた紐で足を思いっきり縛った。

 少し置いておけばこれで止血ができるらしい。


 応急措置を終えたカルナは、今の現状を見る。

 まともに戦えるのはカルナ、ローズ、リゼの三人だけとなった。

 ユリーとウチカゲがやられたのは痛手だ。

 更に火力の出る魔法を放つことができるティックは飲み込まれている。

 既に生死が分からない状況だ。

 リゼは魔力の回復が十分ではない。

 ユリーの回復にも相当な魔力を使ったので、まともに戦うことは今はできなかった。


「ローズ……どうする?」

「どうしましょうね……。足止めとしては一役買ったでしょうけど、ここまでの消耗は予想外です。まぁ声と戦うのだから覚悟の上ではありましたが……」

「逃げようにもこれじゃあ……」

「今度は耐えるしかないかもしれませんね」


 ローズの水魔法はあまり効いていない。

 カルナの技能は使っても意味がないので、敵の動きを遅くすることはできない。

 さてどうしようかと、耐える構えを取った時……。


 陸の声が膨らんだ。

 ぶくっぶくっと膨らんでいく陸の声を見て、また変形するのかと呆れてしまった。

 これ以上強くなられても困るのだ。

 ただでさえ戦力が消耗しているのだから。


 しかし、なんだか様子がおかしい。

 陸の声の内部から音が聞こえるのだ。


「……なに?」


 様々な顔で構成されている陸の声は戸惑った様にして暴れている。

 だが内部からの異常に対処できる術はないらしく、ただ体が膨らんでいくのを黙って見ているしかなかった。


 そこで、一部から空気が抜ける。

 更にそこが爆発して、傷口を大きく広げた。


「うべええええ!! きもちわりぁあああ!!」

「「ティック!!」さん!!」


 その傷口からティックが出てきて、ゴロンゴロンと転がっていく。

 すぐにカルナが首根っこを掴んで回収し、ローズとウチカゲの近くへと持ってくる。


「「「くっさ!!」」」

「仕方ないだろうがよぉ!!」

「『シャワー』」


 水をティックに流しかけ、体中についている粘液を洗い流す。

 ついでにカルナもその水で手を洗った。

 水で体を洗いながら、ティックが説明する。


「いやぁ、飲み込まれた時に収納を使って逃げたんだわ。んでテキルに腕直してもらって爆弾作ってもらっててさ。ちょっと時間かかっちまった! すまねぇ! ってウチカゲええええ!!? お前脚!! 脚!!」

「失敗しただけです」

「冷静だなぁおい!!」

「にしてもほんとによく生きてましたね。死んだかと思ってましたよ」

「てめぇは自分の心配しとけボケ!!」


 そこで、うめき声が聞こえてきた。


『──!! ──!!!!』


 陸の声がしぼんでいる。

 あれだけやっても生きているというのはなかなかの生命力だ。

 しかし、そろそろ限界が近いのかもしれない。

 それはこちらも同じことなので、できれば早急倒したいところではあるが……。


「こっちも使えないのが増えたからなぁ……」

「でもティックさんがいてくれるとありがたいです。私の攻撃ではどうにも威力が足りなくて……」

「んじゃこれ使え。僕の予備だ。やる」

「え?」


 ティックが手渡してきたのは、魔力増幅装置だった。


「それに魔力を籠めて使えよ?」

「あの、これは?」

「説明はなし! 使い方だけ! まぁそれ使えば僕と同じ威力の魔法が使えっから!」

「それはありがたいですね!」


 早速それを使ってみることにする。

 魔力をそれに流し、増幅した魔力で水弾を生成する。

 ただの水弾だというのに密度が高く、これだけでも物凄い威力の攻撃になるということが一瞬で理解できた。

 だがそれを魔術で変形させる。

 一番貫通力の出る……魔法。


「『ウォーターウィンチェスター』」


 一発一発しか作ることのできない魔法ではあるが、火力は折り紙付きである。

 それに魔力増幅装置によって籠められる魔力が増えた。

 形はいつも通り小さな弾丸だが、籠められている魔力が普通の数十倍だ。


 恐る恐る発射してみると、目に見えない速度で陸の声を貫通させる。

 大きな穴が空き、後方で地面が弾けた。


「わぁ」

「上々だね。んじゃ、僕とローズでこの場を持たせるぜ!」

「分かりました!!」


 二人は杖を構える。

 ティックは再びテキルに準備してもらった浮遊する魔道具を左手に持った。

 そして浮き上がる。


 さぁ正念場だ。

 心の中でそう叫んで技能を発動させる直前に、炎の槍が陸の声に突き刺さった。

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