10.65.奇形
既に気持ち悪いほどに変形している体が、更に変形する。
三枚に下ろされた六足の獣から一変。
陸の声は肉体を凝縮させて小さな一つの肉塊へとなった。
しかしそれだけで終わるはずもなく、今度はべしゃりと平べったくなって肥大化していく。
もごもごと蠢く肉の中に、一匹の獣の顔が出現した。
すると隣りに魔物の様な顔が出現する。
これがどんどんと繰り返されていき、最後には獣、魔物、奇妙な生物の顔だけで形成されている体が完成した。
すべてに意思があるようで一匹一匹が吠え、鳴き、唸る。
恐ろしく悍ましい存在が、その場に顕現したのだ。
『────!!!!』
言葉では表現できない叫び声が響き渡る。
それは一斉に飛び掛かってきた。
「きっしょーー!!」
「す、『スローリー』!!」
バチンッ!!
カルナの技能が弾かれた。
「え……!? 『スローリー』!」
また同じ様に弾かれる。
なぜだかは分からないが、あの存在には自分の技能は通じないらしい。
こんな事は今まで一度もなかったので混乱してしまう。
だが幸いにして動き自体は速くない。
あの速度であればこの場にいる誰もが対処できるだろう。
その時、上空からスピアトルネイドが陸の声に向けられて発射された。
的が大きいので簡単に当てることはできたが、柔らかそうな肉に簡単に跳ね返される。
「え!? 嘘だろおい!?」
『──!!』
「うぉおおおおおおお!!?」
爆風がティックに向かって放たれる。
それによって左手に持っていた杖を手放してしまった。
ティックの体が落下していく。
その先は……陸の声。
「やっべ!!」
『──!!』
「ティック殿!!」
異変に気付いたウチカゲがティックを助けようと前に出る。
だがそれを簡単に許してくれるわけがない。
すぐに様々な顔が牙を向き、水やら炎やらの魔法を発射させてウチカゲの進行を阻んだ。
「!? 遅い!?」
自分の移動速度が低下している。
今もなを鬼人瞬脚を使用しているのではあるが、明らかに遅くなっていた。
これも陸の声の能力だろう。
そのことに苦い顔をしつつ、今はティックを助けることに集中する。
攻撃を一つ一つ相手にしていては間に合わない。
少し無理を通して何とかするしかないかと、とにかく目の前に飛んできた魔法だけを回避し、獣の顔を踏み潰す。
それを足場として跳躍し、ティックが落ちそうな所へ向かって走り出した。
その間にも鞭やら魔法やらが飛んでくるが、それもすべて回避する。
ウチカゲでなければこの隙間を通り抜けることは不可能だっただろう。
なので、ティックを助けられるのもウチカゲしかいない。
ティックもウチカゲが来ていることに気付いて手を伸ばす。
落下間近だったが何とかその手を取り、一気に跳躍した。
だが……ティックが恐ろしく軽いことに気付く。
「!!」
ウチカゲの手には、確かにティックの腕が握られていた。
だがその腕に力はまったく入っていない。
ぶら下がる機械の左腕。
体は……なかった。
「ティック殿!!!!」
後ろを見てみると、今まさにゴクリと何かを飲み込んだ大きな魔物の顔があった。
伸縮性に優れた肉体を持っている個体のようで、首を伸ばしてまた獲物を探している。
「『鬼人闇影』!」
バチンッ。
闇が霧散し、技能が強制的に解除された。
何が起こったか一瞬分らなかったが、すぐに現状を理解して後退する。
大きく舌を打ってローズと合流した。
「クッソ!!」
「無事ですかね……」
「分かりません。テキルも魔物に飲み込まれることを想定した魔道具を渡しているかどうか……」
「とにかく腹をかっ捌きましょう」
「同意します。ですが技能が使えません」
「え?」
相手に何かしらの技能を使用すると弾かれてしまう。
遠距離攻撃、接近攻撃の技能であれば問題なく使えるだろうが、デバフ系技能はまったく効果がないようだ。
そこでユリーとカルナが戻ってきた。
「私の技能が効かない! 気をつけて!」
「やはりですか……」
「ユリー! パックはどうしたの!?」
「バトルホースが何とか連れて逃げてくれたわ! 優秀ねあの子!」
それにほっとするローズ。
竜種は総じて生命力が強いので死んでしまう心配はなかったが、やはり育ての親として心配してしまうのだ。
バトルホースがそんなに器用だとは知らなかったが、あの二匹は既に友達の様になっている。
見捨てることは絶対にしないのだろう。
「さぁ、では何とかあれの腹をかっ捌きましょうか。鱗はもうほとんどないようです。しかし頭それぞれに魔物特有の技能が備わっている可能性があります」
「……あ、私の技能が弾かれたのも……」
「はい。恐らくデバフ系技能を弾く技能を持っている頭があの中にあるのでしょう。厄介極まりないですが……遠距離攻撃と接近攻撃は効くようです。ですが向こうも魔法を使ってきます。気をつけてください」
「んじゃ、狙うのはあの辺でいいかな?」
ウチカゲの説明を聞き終わったユリーが指を指す。
そこは比較的頭が少ない横っ腹であった。
ティックを食べた頭とは真反対にあるが、狙いやすいのは確かにそこである。
まずは攻撃が通るかどうかを確認したいという意味も込めているのだろう。
確かに攻撃が通らない場合は他の策を考えなければならない。
そうなった場合は口が開いた瞬間に攻撃をぶち込むしかないだろう。
「ではそれで行きましょう」
「おっけい! んじゃ……行くわよー!」
「『クイックリー』」
カルナがユリーに技能を付与する。
体が軽くなり、予想とは違う速度で走れたことに驚いた。
「ありがたいけど言ってよね!!」
戦斧を脇構えにして運びながら、その速度を維持して突っ込む。
その隣にウチカゲがやってきた。
「今のところ一番武器的火力が出るのはユリー殿です。援護しますので、思いっきり叩き込んでください」
「言われなくてもそのつもりよ!」
二人に魔法が飛んできた。
ウチカゲが黒い塊を手の中に出現させ、それを放る。
「『闇媒体』」
バグバグッと魔法をすべて喰らい尽くす。
再び作り出し、今度は陸の声に向かって投げた。
弾丸の様にして飛んでいくそれは陸の声にめり込む。
『──!!』
すぐに多くの顔が闇媒体を喰らいつくそうと顔を向ける。
だがその瞬間闇媒体からウニの様な針が生え、近づいてきたすべての顔を串刺しにした。
「! 攻撃が通る!」
「そりゃ朗報! っしゃいくわよー!!」
陸の声に接近。
直後近くにあった顔が一斉に襲い掛かってくるが、ウチカゲがそれをすべて斬り捌いて隙を作る。
大きく足を踏み込み、持っていた戦斧を振り上げる。
速度に合わせて腕を振るい、手に力を込めた。
「『
戦斧の刃が陸の声の肉に触れる瞬間、衝撃が走る。
それによって加速した戦斧が肉を大きく切り捌いた。
ばしゃぁっと鮮血が飛び散り、ユリーにかかった。
「あっ」
「!!? なぜ走り抜けなかったんですか!!」
失念していた。
とにかく攻撃をする事に集中していて、血の能力をすっかり忘れていたのだ。
陸の声から生えているストローのような口が息を吸う。
「キュゥアアアアアア!!」
パパパパパァアンッ!!!!
噴き出した鮮血が、爆竹の様に弾けた。
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