10.64.陸の獣
ユリーとパックが吹き飛んでいく。
パックの背中から投げ出されたユリーはすぐに体勢を立て直して綺麗に着地したが、攻撃をもろに喰らったパックは受け身を取ることなく地面を転がった。
何とか立ち上がろうとするが、胸部と足に激痛が走って中々起き上がれない。
暴れると痛むので、首だけを上げて動かずにいた。
陸の声は甲高い声を上げながらこちらを睨んでいる。
次はどいつを狙おうかと吟味しているようだ。
だが攻撃を加えてきた者を優先して狙おうとするらしく、今までで一番強烈な攻撃を繰り出したユリーに狙いを定めた。
再びぐっと足に力を入れる。
「! 『スローリー』!」
ダンッ!!!!
地面が隆起し、それが足場となって足に体重を乗せるのを手助けする。
物凄い速度で突撃したかに思われたが、カルナが攻撃する瞬間を見極めて技能を使ってくれた。
それによって見えない、から何とか見える速度にまで落ちた様だ。
急な攻撃に驚いたユリーだったが、そこは経験豊富なSランク冒険者。
跳躍して戦斧を垂直に立て、それに足を掛ける。
攻撃の勢いを逃すためだ。
ゴゥンッ!!
金属に体をぶつける陸の声。
速度は落ちても攻撃力は凄まじい。
ユリーはあえて耐えることはせず、そのまま後方に吹き飛んでいった。
空中で体勢を立て直し、戦斧を肩に担いで一息つく。
「これならばっ!!」
速度は落ちた。
これであればウチカゲの速度で対処できる。
一瞬で消え去って攻撃を仕掛けるが、やはり普通の熊手では有効打を与えられないようだ。
数十回の攻撃を繰り出したが、すべて黒い鱗に阻まれる。
唯一切断できたのは肘から伸びている鞭くらいだ。
さすがに鬱陶しかったのか、ウチカゲに向かって後ろ脚が蹴りだされる。
空を蹴る程の威力があるものであり、喰らってしまえばひとたまりもないだろう。
紙一重で回避したがその風圧で吹き飛ばされてしまった。
体勢を立て直すことができなかったが、受け身を取って転がる。
すぐに構えて前を見るが、既にそこに陸の声はいない。
そこでユリーの声が聞こえる。
「うわマズッ!!」
「キュェアアアア!!」
ユリーの足に鞭が絡みついていた。
体当たりでは分が悪いと感じたのか、違う攻撃方法で襲い掛かる。
鞭の力は随分と強いらしく、ユリーの体を軽々と持ち上げて地面へと叩きつけようとしているらしい。
「『クイックリー』!!」
すぐにカルナがユリーを救出し、その場を離脱する。
「『カッタートルネイド』」
ガンガンッ!!
二人が陸の声から離れた瞬間、ティックがホッチキスの針のような風を飛ばしてくる。
それ再生した鞭をその場にすべて固定した。
攻撃能力のない拘束に特化した技能だ。
グッと力を入れて抜け出そうとするが、どうあがいても抜け出せる気配はなかった。
陸の声の鞭は切断に弱いが、耐久性がある。
引き千切るということはできないのだ。
「『鬼人闇影』」
動けないのであれば、狙いが定まる。
すぐにウチカゲが技能を使用し、視界を奪う。
抜け出そうとしているので足を地面に叩きつける音が良く聞こえた。
熊手を構え、その方角に振り下ろす。
確かな手ごたえを感じ、技能を解除する。
そこには、三枚に下ろされた陸の声がいた。
「キュアアアアア!!」
「ま、まだ生きているのか!」
三枚に下ろされた状態で肉と肉が繋がり、真ん中の肉が変形して六足の獣になった。
赤黒い色へと変色し、肉が脈動している。
陸の声はその場で体を振るい血をまき散らす。
汚いと思って即座にその場を飛んで離れた。
「キュイイイイイ!!」
パパパパパパパパパァンッ!!
先ほどまき散らされた血液が破裂した。
地面に穴が空くほどの威力だ。
先ほどの爆発力はないものの、範囲攻撃となったその攻撃は厄介である。
血が一滴でも付着すれば危険だ。
「ユリー殿! カルナ殿は撤退!! ティック! ローズ殿!」
「「了解!」」
至近距離での攻撃は危険だと判断したウチカゲは、宙を飛んでいたティックと後ろで待機していたローズに指示を出す。
あの攻撃方法を見ているので遠距離攻撃でなければ被害が出るということはすぐにわかった。
早速、ティックが杖を構えて狙いを定め、ローズが水を出現させて技能を使用する。
「『スピアトルネイド』」
「『ウォータースラグ』」
上空から風の槍が、地上からは無数の水の弾丸が発射され、身動きが取れない陸の声を襲う。
ウチカゲによって三枚に下ろされ、肉が露出している部位を正確に狙い、撃ち込んだ。
あの黒い鱗がなければ、こちらの攻撃も通るというもの。
予想は当たっていたようで、スピアトルネイドが陸の声を貫通する。
ローズのウォータースラグも同様に肉を貫通して穴をあけた。
後方に血が撒き散らされる。
「キィィアエアアア!!」
次々と撃ち込まれる弾丸。
動こうとするたびに固定される鞭。
ただの的となり下がった陸の声は理性を飛ばしながら甲高い声を上げ続ける。
だが……陸の声もただ黙ってやられているわけではなかった。
「!! ユリー下がって!!」
「え!?」
少し離れたところにいたカルナがユリーに指示を出す。
その瞬間、地面から鞭が生えて二人を襲う。
すぐにカルナが二振りの剣で斬り捌いた。
「!? 数が少ない!!」
飛び出してきた鞭の数が、今までよりも少なかった。
ということは、他の場所にもこれが迫っている。
すぐに叫ぼうとしたが、少し遅かった。
「ぐ……」
ローズの周囲に展開していた水が、弾けて消える。
その理由は至極単純だ。
地面から生えてきた鞭が、ローズの体を貫通していた。
「くそっ!!」
ウチカゲがすぐに鞭を切ってローズを抱え、離脱する。
後ろからは嘲笑う様な甲高い鳴き声が聞こえてきた。
「ローズ殿!」
「痛い……」
「でしょうね! ってリゼ殿!?」
『任せて!』
後ろで待機していたリゼが、ローズに顔を近づける。
『『大治癒』』
淡い緑色の光がローズを包み、傷を癒した。
何が起こったのか一瞬理解できなかったが、傷の痛みが完全になくなり緑色の光がうっすらと消えていくのを見て、リゼが何をしてくれたのかが分かった。
「わぁ、リゼさんそんなこともできたんですね」
『ほとんど使ったことなかったけどね……』
「わー触り心地がいいですね」
『ちょっと!』
何をしているんだと思いながら、ウチカゲはローズを放る。
「あでっ」
「リゼ殿、魔力は?」
『いや、あんまりない……』
首を横に振った。
何を言っているのかはそれで分かる。
「では引き続き魔力の回復を。ヒーラーとして立ち回ってください」
『りょ、了解!』
ローズが回復したのを見て、陸の声は鬱陶しそうな甲高い声を上げた。
そこで、再び体が変形する。
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