6.20.戦況劣勢


 ガラクが踏み出した瞬間、俺たちは吹き飛ばされていた。

 ただの踏み込みだけで、広範囲に突風が巻き起こり、簡単に飛んでいってしまったのだ。


 何とか体勢を立て直そうとしても、再度踏み込みをされてまた転げ回ることになる。

 それがライキも鳳炎も同じで、どんどん姫様のいる場所から遠ざかってしまう。


「ぐううう! なんて奴だよ!」

「こっ、これでは飛ぶこともままならん! 私が飛ばされている内は、応錬が攻撃できると思ったのだが……!」

「妙案だな! 何とか飛べないか!?」

「無理である!」


 くそ、これだったら一度空圧結界を作り出して立て直したほうがよさそうだ!

 すぐに結界を張って突風から真逃れる。

 ライキは何処かに行ってしまった……。

 俺たちのいる場所からでは姿を見ることすらできない。


 空圧結界を張って突風を防いだのは良かったのだが、この結界すら揺れている。

 この距離だから耐えれているというくらいで、もう少し近ければ破壊されかねない。

 今のうちに何か策を立てなければ。


「鳳炎、何かあるか?」

「私は魔力総量が少ない。出し惜しみなしで行くのであれば、私はすぐに使い物にならなくなる」

「大丈夫だ、これを持っていけ」

「嘘だろお前」


 俺は魔道具袋から箱詰めされたマナポーションを取り出して、鳳炎の魔道具袋に突っ込んだ。

 全部で二箱ある内の一箱を渡しておく。

 これで鳳炎のMP不足は解決されるはずだ。

 俺も万が一無くなった時は、これをがぶ飲みするつもりなので気合を入れておかなければ。


 鳳炎は少し呆れている様だったが、まぁ仕方がないと言って地面に手を当てた。


「絶炎火柱を使う。足踏みしているおかげで地面は亀裂だらけ。でっかいのが打ち上るぞ」

「よし! 隙を作る!」


 連水糸槍を展開し、そのまま突撃させる。

 槍二本と糸は突風の影響をもろに受けることは無い。

 先程鳳炎の矢が全て吹き飛ばされたが、あれは軽すぎただけだ。

 こっちには重量が多少あるから、行けるかもしれない。


 当たっても当たらなくても、とにかく連水糸槍に注意を向けさせればいいのだ。

 ガラクがそれに目を向けて対処しようとした時、鳳炎の技能が火を噴いた。


「『絶炎火柱』!!」

「ぐぬ!?」


 炎が亀裂から吹き上がる。

 ガラクの所に行けば行くほど、その威力は高くなって最後には爆発した。

 あれだけ踏み込みをしていれば、地面も多少脆くなる。

 亀裂が入っていれば尚更だ。


 鳳炎のMPはまだ少しだけ余裕があるようで、突風が止んだ好きに飛び上がってファイヤーフェザーをどんどん撃ち込んでいく。

 延々と撃ち続けれる技能のなので、月明かりで青く見えた地面は赤く燃えて行った。


 連水糸槍は何度か物体を捉えて何かを斬っていったようだが、おそらくそれは石だ。

 ガラクではないだろう。


 ボウッ!!


「ぬおおおお!?」

「鳳炎!!」


 煙の中から空気の弾丸が飛んできた。

 煙を切り裂いて鳳炎に直撃し、また体勢を崩して地面に落下していく。


 それを確認した瞬間、俺にも爆風が襲って来た。

 空圧結界が壊れ、呆気なく吹き飛んでしまったのだ。

 そして、地面が大きく揺れた。


「『破壊神』」


 大地震が起きたかと思ったら、今度は地面が割れた。

 空を飛ぶ技能を持っていない俺は、あっけなくその中に落ちていく。


 やっべ!


「『連水糸槍』!」


 一本の槍を突き刺し、もう片方の槍を掴んでぶら下がる。

 早々に行動を起こしたので、壁に叩きつけられても然程ダメージは無い。


 あ、あ、あぶねぇ……。

 咄嗟な事だったから連水糸槍にしたけど、これだったら多連水槍を作り出した方が良かったかもしれないな。


 安定したところで、多連水槍に切り替え、ぶら下がって地上へと向かって行く。

 だが、その時地面が動き出した。


 ググググググ……。


 おい、待て待て待て!

 あいつ俺を挟み潰す気かよ!!


 それに気が付いて速度を上げ、ギリギリの所で地上に復帰した。

 後数秒遅かったら完全に潰されている所だ。


 しかし、鳳炎ともはぐれてしまった。

 ライキもいないし、そもそも敵の位置が遠すぎる。

 これじゃまともに狙うことも出来やしない……。


 ……なんであいつ、直接俺たちに攻撃をしないんだ?

 時間を稼いでいるのだろうか?

 俺たちがここで動けるのは三十分程度とか言ってたしな……。

 それを待っているのかもしれない。


 あいつのことを信用するわけではないが、もしそうだとすると、早々に決着をつけたほうがよさそうだ。

 だが……。


 近づけん!

 遠距離攻撃の方が良いとウチカゲから聞いてはいるが、こんな長距離から一体しかいない敵を狙うのは無理!

 ていうかこんだけ離れてるのに周囲にも影響がある。

 もう土が捲れあがったり亀裂が入ったりと滅茶苦茶だ。


 俺の遠距離攻撃はあまり通用しなさそうだし、これなら直接殴ったほうがよさそうだ。

 もしかしたら零漸同様、防御貫通が効くかもしれないし、波拳による攻撃で内臓を破壊できるかもしれない。

 まぁ近づけなきゃ意味ないんだけどな!!


 状況劣勢!

 どうする……!?

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