4.32.ダンジョン⑨ 偽物との戦い
鏡は割れたが、鏡から出てきた偽物の俺と零漸、そしてアレナは鏡が割れたのにもかかわらずその場で俺たちに敵対しているようだった。
しかし、姿は映し出した姿をしているようで、偽物の俺は影大蛇を所持してはいなかった。
影大蛇はアレナが重加重で俺を止める前に出したものなので、鏡には映らなかったようだ。
しかしアレナと零漸はそのままのフル装備。
相手が魔道具袋の中身もコピーしているのであれば厄介なことこの上ないが、あれから行動を起こさないあたりそれは恐らくないだろう。
「応錬様! 俺たちの攻撃では零漸殿にダメージを与えることができません! 偽物のアレナと応錬様は俺たちで対処します!」
「それが最善か。分かった! お前ら頼むぞ!」
各々の役割が決まった。
敵が俺たちと同じ能力を使ってくるのだとしたらなんとも厄介だが……これでやるのが一番良いだろう。
まずは相手を引き離すところからしなければならないわけだが……。
相手は偽物の俺を守るように立っている。
動きをアレナが止めているが、偽物の俺はアレナの重加重を無視して多連水槍を打ち出すことができるようだ。
距離を詰めようと思っても詰めれない。
先ほど俺が天割で攻撃をして殆どの多連水槍を壊したのだが、残念ながらすぐに再生してしまっているため、すでに攻撃態勢は整っているようだ。
「俺が行きましょう」
「はやくぅう……! アレナ結構きつい!」
「ん? どういうこと?」
「すごく……抵抗してくる……!」
アレナが技能を使っていた時、そんなにしんどそうにしているところは見たことがなかったが、今回は随分と力んで技能を使用しているようだった。
重加重にも何か欠点があるようだ。
これは重要なことではあるが、今は気にしていられない。
事態を察知したウチカゲは剛瞬脚を使用して、一瞬で偽零漸の真横に出現したと同時に横に蹴り飛ばす。
がしかし、物凄い衝撃波を生み出したにもかかわらず、蹴り飛ばしたはずの零漸は微動だにしていなかった。
「なんと!」
「ウチカゲ! お、俺は衝撃っていう耐性を持ってるっす! 強すぎる衝撃じゃ飛ばないんすよぉ!」
「先に言ってほしかったですね!」
一時的に動かなくなったウチカゲを、偽零漸が見逃すはずもなく、即座にウチカゲに向かって技を打ち出す。
同じく蹴り技ではあったが、偽零漸の身のこなしは本物にも見劣らないほどに鋭く、ただの一秒空中にいたウチカゲは軽々と吹き飛ばされてしまった。
「ぐぅ!」
「ウチカゲ!? アレナ! 他のには重加重かけれないのか!?」
「んー! 無理ィ……!」
流石に無理なようだ。
アレナはMPもまだ少ないし、ここは早く勝負を決めないと攻め込まれてしまいそうだ。
偽物三人の陣形は、俺が後ろに一人立って他二人が前に出る逆三角形の布陣だ。
主軸は動きを止めれるアレナではなく、遠距離攻撃を使える俺らしい。
俺は零漸を相手しなければならないのだが、どう考えても接近で勝てる未来が見えてこない。
零漸は接近戦に長けているのに加えて防御力が阿保みたいに高い。
そのまま打ち合えばこちらの負けは確定するだろう。
こちらの零漸もウチカゲが吹き飛ばされたのを見て前に走り出す。
しかし、偽アレナが零漸に向かって重加重を使用したらしく、零漸の足が地面にめり込んでしまった。
「ぬぅ!? まじかぁああ!」
零漸にとっては辛くはないだろうが、それでも動けなくなる。
こうなってしまうのは、まぁ予想できたのだが……。
相手もダメージの通らない零漸から狙うとは……。
知性も残っているのだろうか。
「ちっ。しゃあないな、俺も出張るしかないか!」
「はやくぅ……!」
引き離す作戦はとりあえずやめにする。
ここからは俺も参戦してさっさと敵を始末しよう。
まず多連水槍を相手と同じく三十本作り出し、追加で連水糸槍も作り出す。
偽物の俺は連水糸槍は出していないため、手数で言えば俺の方が有利なのだが……俺の真似をして相手も連水糸槍を出してきた。
そのまま多連水槍と連水糸槍は打ち合いへと発展する。
連水糸槍の攻防がなんとも厄介で操りにくいが、それは相手も同じようで時々妙な動きをしていた。
「零漸! 動けないって言っても結界は張っとけよ!」
「勿論です! ウチカゲには身代わりをかけました! ウチカゲー! 殴られてももう大丈夫っすよ!」
「有難い!」
俺は槍との攻防をしてウチカゲに被害が行かないように全力で務める。
零漸は結界の維持、そしてアレナは偽物の俺を拘束してウチカゲが敵を討つ。
俺の技能がこんなにも厄介だとは思わなかったが、それは今更か。
危険すぎて使えてない技能も結構あるし、こいつらが実験台になってくれるというのであれば是非そうしたいものだ。
普通であればこの攻防で少しは形勢が傾いても良いと思うのだが……相手の防衛陣に零漸がいる以上、それは簡単なことではない。
速度はウチカゲの方が上。
しかし、技術面では零漸のほうが上……それに硬い。
ウチカゲは偽零漸の攻撃を掻い潜りながら、偽物の俺かアレナに攻撃を仕掛けなければならないのだが……。
「ぐぅ!?」
一瞬で偽アレナに詰め寄ったウチカゲだったが、偽零漸が発動させていた空圧結界・剛に阻まれて弾き返される。
その隙を見て偽零漸が即座に動き、ウチカゲを殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりを繰り返していた。
ウチカゲにダメージはないのだが……それは相手も同じこと。
しかし、体力の消耗が激しいのはウチカゲであった。
「スー……フー……」
「こりゃいかんな……アレナ、偽零漸に重加重を使用できるか?」
「もう魔力がない……。出来ても少ししか使えないよ……?」
「いや、それで十分だ」
今回は完全に俺のミスだ。
始めから零漸に重加重をかけるようにしていれば、アレナのMPも温存できただろう。
無理させて偽物の俺ばかりに使わせるのではなかった。
しかし、やり直すことができるわけではない。
だからこの状況を何としてでもひっくり返す。
アレナが急に零漸へとターゲットを変えた場合、多少たりとも隙ができるはずだ。
偽物の俺が動くことができるようにはなるが、それも気が付くのに若干の時間がかかるだろう。
その瞬間。
アレナが重加重のターゲットを変えた瞬間に、俺が影大蛇で天割を発動させて偽物の俺を討つ。
その瞬間は俺が操る多連水槍が一時的に停止することになるが、問題はないだろう。
あいつは三十本以上の槍を防御に回したことでようやく俺の天割を防いだ。
だが今出現している多連水槍は、俺の多連水槍で動きを封じている。
俺の攻撃に気が付いて槍を防御に回そうとしても、俺がそんなことをさせるわけがない。
集まって精々五本程度だ。
それならば……奴の防御を突破して攻撃が入るはずである。
「頼むぞアレナ!」
「うん! 変……更!」
「『天割』突きバージョン!!」
アレナが偽零漸に重加重のターゲットを変更すると、偽零漸の動きがぴたりと止まって地面に落ちる。
それに気が付いたウチカゲは、剛瞬脚を使用して一気に偽アレナの所まで詰め寄った。
危なくはあるが、俺はウチカゲのすれすれを狙って影大蛇で天割を偽物の俺に打ち込んだ。
ウチカゲの隣を天割が通過した後、ガラスが砕け散るような音が数回聞こえた。
恐らく偽零漸が結界を展開していたのだろう。
しかし、それは全て打ち砕かれて、ようやく偽物の俺に攻撃が通った。
その時を同じくして、偽アレナに近づいたウチカゲが鉤爪を振るう。
魔力のある鏡から作り出された物ではあったが、物理攻撃は有効だったようで、偽物のアレナはガラスの如く砕け散った。
ガラスの砕け散る音は二か所から聞こえ、二体を撃破したという事がわかる。
一体をようやく仕留めたウチカゲはようやく握りこぶしを作って喜びを表現した。
「っし!」
「お! 解除されたっす!」
「……? 私の技能も解除された……?」
二人は喜んでいたが、アレナは不思議なことが起こったと首を傾げる。
しかし俺はアレナが不思議に思っている原因が分かっていた。
「あの野郎……身代わりかけてやがったか……」
操り霞を展開している俺は、砕け散った敵が二人だという事は理解していたが、俺が攻撃した偽物の俺が破壊されなかったのに疑問を感じていた。
が、天割を偽物の俺に打ち込んだ瞬間、偽零漸が砕け散ったのを操り霞を通して理解していたのだ。
アレナの技能が解除されたのは、重加重をかけていたターゲットが破壊されたからだろう。
俺の天割は零漸にも通用するということはわかったが……最後に残ったのは偽物の俺だった。
煙をかき分けてまた俺たちの前に姿を現した。
「偽物っつてもやっぱり俺はしぶといな!」
「でもあと一人っす! アレナ! 技能を……」
「魔力切れ……ごめん……」
「いやいや、よくやった方です。後は俺たちがやりましょう」
残るは一人。
だが一番面倒くさそうな俺。
まだ俺の技能を全て出し切っていないというのが少し怖いが、攻撃は通じるという事がわかった。
アレナの重加重がなくても問題なく勝てるだろう。
「おし、もう一踏ん張り! 行くぞ!」
「「はい!」」
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