2.22.脱出!


 体に激痛が走る。

 だがいつものような体の中の骨が掻き回されているような痛みではない。

 体の中で何かが溶けているような痛みだ。

 硬い骨がなくなっていく感覚が手に取るようにわかる。


 気持ち悪い。

 体はどんどん大きくなっていく。

 すぐに檻一杯の大きさになったがそれでもまだ巨大化は止まらない。

 肉が檻に食い込んでいく。


 メキメキキ…………。

 え、ちょ。


 ギギギギギギギギッギギギギ……。

 いた! 痛い痛い! いだだだだだ! 


 ギギギギギギギギギ……。

 ぎゃあああああああああああああああ!


 バギャン!


 ついにキャパがオーバーしてしまい、檻が破壊された。

 鉄の檻が壊れる程巨大化するってどういうことだよ。

 破片がいろんなところに刺さってんぞ。

 動物たちは奇跡的に無事だな……アレナも大丈夫そうだ。


「ほ、本当に大きくなっ──」


 アレナは俺の姿を見た瞬間息を大きく吸って固まってしまった。

 そして静かに体を横に倒して寝てしまう。


 …………え?

 アレナこれ気絶してない!?

 ちょっと!?

 待って俺どんな体になってんの!?

 『無限水操』! 俺の姿を映し出せ!


 姿を映し出してみるとクソでかいミミズがいた。

 体の太さは木の太さほどあり、長さは十メートルくらいにまで伸びている。

 やはり色は白い。

 だが皮膚は厚いようで日本にいたミミズとは全く異なる体表をしているようだ。

 そして口は丸い。

 ワームの口だ……周囲に牙が規則正しく並んでいる。

 額には…………一つの目があった。


 いやああああああああああああああ!!!!

 俺の! 俺のボディが!

 顔があああああ!!!!

 ちょい待てや! おい天の声こらぁ!!

 もう一度こいつの説明出してくれ!


===============

―ダトワーム―


 巨大なミミズ。ダトワームが通った土地は痩せた大地すらも栄養度の高い大地に回復させるという。

 しかし恐ろしい所もあり、間違えて地上に出てしまった場合は暴れ狂い、村を崩壊させるまでに狂暴になるらしい。

 そんなダトワームはつぶらな瞳が特徴的。

===============


 つぶらな瞳が一つ目ってどういうことだよ!

 おかしいだろうがよ!


 てかきっも! 俺きっも!!

 そりゃあアレナも気絶するわ!

 次合う時支障ないよな!? 大丈夫だよな!?


 いやだぜ俺この姿のままもう一度会うの。

 いやああああああ!

 見れば見るほどきもい!

 生理的に無理!

 天の声ぇ! いつか絶対にぶっ飛ばす!

 クソオオオオォ!


 バギッ。


 ……おん? 何今の音。俺の足元から聞こえたけど……。


 足元を見てみると、床が抜けかけていた。

 それに気が付いて抜け出そうとするが、そのせいでさらに床が裂けていく。

 そしてついに床が抜けて馬車から落ちてしまった。

 体が想像以上に巨大化したのだから、重量も相当重いはずだ。


 バギバキと音を立てながら馬車は完全に壊れてしまい、どんどん崩れていく。

 動物の入った籠が周囲に転がって行ってしまった。

 中にはけがをしている動物もいるようだ。

 アレナが心配だったが、檻がアレナを守ってくれたようで大したけがはしていないようだった。

 檻が大きかったのであまり振り回されることがなかったのだろう。

 良かった。


 しかし、そんな音を聞いた男たちはすぐに駆け寄ってきてしまった。


「おい! なんだ! 何が起こった!」

「な、な!? なんだあいつは!」


 あ、やっべ見つかった。

 てか地上にいるけど破壊衝動とかには駆られないな。

 てかこの感じだと俺は地中に逃げなきゃいけないのか?

 多分逃げられるんだろうけどさ!


 でも逃げ方わかんねぇ!

 天の声! 急いでステータスを表示してくれ!


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:ダトワーム


 LⅤ :1/40

 HP :1232/1232

 MP :170/170

 攻撃力:324

 防御力:654

 魔法力:195

 俊敏 :20


 ―特殊技能―

 『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『剛牙顎』『追跡』『猛毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『大水流剣』『狂酸唾液』

 魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊土砂流』『破岩流』『影傘』

 防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』

 回復:『回復』『体内大治癒』『回復』『治癒』『範囲治癒』

 罠術:『水捕縛』『偽装沼』

 特異:『発光』『土壌浄化』『土壌創造』『土壌改変』『清め純化』

 自動:『悪天硬』『水泳』


 ―耐性―

 『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』『呪い』『汚染』『感染』『病魔』『腐敗』『不浄』

===============



 な、なん……なにぃ!?

 体力が千を越えただと!?

 くっ……気になることばかりだが後だ!

 どれか地面に潜れる技能は……。


 これか! 『狂酸唾液』!

 あと使えそうなのは『土壌改変』?

 クソ! 説明見てる時間ないな!


 まだ男たちは俺の姿に怯んでいるようだが……それも時間の問題だろう。

 その前に何とか地面に潜りたい!

 ええい! ままよ! 『狂酸唾液』!

 それに加えて『土壌改変』!


 そのまま頭を地面にくっつける。

 発動するとまず狂酸唾液で土を溶かして体を地面の中に入れていく。

 半分ほど入ったところで口が勝手に動き出し、土を食べながら地面を進んでいった。

 土壌改変はどうやら土の性質を変える技能のようで、食べるところを柔らかい土に自動的に変えてくれていた。


 ……狂酸唾液は要らなかったかもな。

 石とかにぶつかった時に使うんだろうけど。

 てかこれめっちゃ掘れるな。

 どんどん地中に潜っていくことができる。

 

【経験値を獲得しました。LVが2になりました】


【経験値を獲得しました。LVが3になりました】


【経験値を獲得しました。LVが4になりました】


【経験値を獲得しました。LVが5になりました】


【経験値を獲得しました。LVが6になりました】


【経験値を獲得しました。LVが7になりました】


【経験値を獲得しました。LVが8になりました】


 おお……凄まじい勢いでレベルが上がっていく。

 これなら……この姿からも早いうちに解放されそうだな……。

 多分地中にいる微生物だな。

 プランクトンも微生物もいい仕事してくれるぜ。

 やっぱり馬鹿にならねぇな。


【経験値を獲得しました。LVが9になりました】


【経験値を獲得しました。LVが14になりました】


 …………ん?

 なんで今ちょっとレベルが飛んだんだ?

 ……え? まって? 待って待って待って!?

 今俺何食べた!? 今何食べた俺!

 いやあああああああ!

 待って嫌だ無理無理! 無理! 生理的に無理!

 絶対地中にいる何かを食べただろ!

 それにその何かがわからないのが怖い!


 あああああ背中がぞわぞわする!

 待って! マジで速く進化しよう!

 じゃないと俺が俺でなくなってしまう!

 精神が崩壊してしまう!


【経験値を獲得しました。LVが15になりました】


【経験値を獲得しました。LVが16になりました】


 頼む……このまま……このままで頼むよマジで。


【経験値を獲得しました。LVが17になりました】


【経験値を獲得しました。LVが32になりました】


 いやああああああああああああああああああああああ!

 本当にごめんなさい無理です!

 見えないってのが辛い!

 せめて何を食べたのか教えて!

 じゃないと俺が! 死ぬ! 精神的に死ぬ!

 なんでこうなった……なんでこうなっちまったんだよ!

 あああああああああ!


 止めたいが進化するまでは止まるわけにもいかず、只々土を食っては経験値を回収していった。

 そして俺は無になることに務めた。

 何も考えないように……。

 無になるのです……。


【経験値を獲得しました。LVがMAXになりました。進化が可能です。現在のステータスを───】


 はい! はい! 進化して!

 ステータスとかいいから!

 進化先を教えてくれ!!!


 え? 無になる?

 無理に決まってんだろ。

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