2.21.究極の選択


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 名前:応錬(おうれん)

 種族:土王蛇


 LⅤ :38/45

 HP :199/199

 MP :212/212

 攻撃力:153

 防御力:187

 魔法力:192

 俊敏 :65

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 よし! あと7だ!


 馬車を調査してから二日が過ぎていた。

 以前の予想では前日の夜までにはLVがMAXになると思っていたのだが……毎回良い肉を与えてくれるわけではなく、品質の悪い物もよく混じっていた。

 そのため計画通りにはいかず、大きく予定が狂ってしまったというわけだ。


 泥人を使っていて分かったのだが、どうやら男達は希少種である俺に新鮮な肉を食べさせようと狩りをしていたらしい。

 ご苦労なことで!


 もちろん……アレナからも毎回半分貰っていた。

 何度か断ろうとしたがやはり根気負けしてしまい食べてしまう俺であった。

 だがそのおかげで早くレベルが上がったので感謝しておかなければならないだろう。


「白蛇さん。あとどれくらい?」


 俺はメーターを作り出して水で満たしていく。

 八割ほどで水を止めて、後これくらいだよと教えてあげる。

 これは我ながら言い伝え方ではないのだろうかと思っている。

 自画自賛したい。

 自慢できる相手いないけどな!


「もうちょっとだね!」


 そうだな!

 だけど次どんな進化先なのかがわからないんだよな。

 ウェイブスネークは絶対にあるだろうけど、もう一匹の情報が一切出てないからわからないんだよな。

 いつものことだけど。

 まぁ強い奴だとは思うんだけどなぁ……。


 できれば火!

 火炎系の蛇がいいです!


 何故かって?

 料理ができるからだよ!

 肉焼きたい。

 いつまでも生のまま食べるのはちょっとなぁ……。


 いや、問題はないんだろうけどさ?

 前世は人間だったから生肉を食べるのは抵抗があるんだよね。


 あとは電気系の蛇でもいいぞっ!

 殆どの生物を確実に仕留めることができそうだからな……!

 頑張ったらお肉も焼けそうだしね。


 兎にも角にも、今日中には進化できそうだ。

 まだ目的地にはつかないようだし、売り捌かれる前に脱出はできそうだな。

 流石に町の中に入ったら出るのも難しくなりそうだからよかった。

 なんなら外に出てるだけで殺されるかもしれない。

 人間からしたら俺は魔物だもんなぁ。


「ねぇねぇ白蛇さん」


 はいなんですか?


「サテラお姉ちゃんのことよろしくね?」


 おう。任せとけ。


 俺は頷いて返事をする。

 俺が今日、進化できるかどうかは……男どもが獲ってくる得物にかかっている。

 レベルが5でも上がれば、後はアレナがくれるパンでほぼ確実に進化することができるはずだ。

 希少種の恩恵に感謝だな。

 あれがなければここまで早くレベルを上げることはできなかっただろう。


 それにしても……アレナはこの境遇に何も感じていないのだろうか。

 奴隷商に家族を殺されて、姉とは生き別れとなり自分は奴隷へと落ちた。


 アレナやアレナの村の人は何も悪くないんじゃないのか?

 普通だったら憎しみに駆られてもおかしくないはずだ。

 なのにアレナは自分のことよりも姉のことを心配している。

 自分が奴隷になるとわかっているのにだ。


 俺だったらそんな理不尽は許せないだろう。

 中には復讐をする者もいると思うのだが……。

 どうしてここまで清らかな心でいられるんだ?


 本当なら聞きたい所だが……俺は難しい質問をする事ができない。

 絵で説明するしかないからな。だから俺が質問するときはとても苦労した。

 俺が何を知りたいのか考えるのがアレナは面白かったようだが。


 まぁ、綺麗な心でいてくれるならそれでいいか。

 いやいやそうじゃねぇよ馬鹿か俺は。

 これから奴隷になるんだぞ?

 絶対心折れるって……。


 でも奴隷になって世話をしてもらわないと生きていけないかもしれないからな……。

 何処か親切な冒険者が助けてくれれば話は変わってくるんだがなぁ……。


 奴隷になるとわかっていてもそれを止めてやることができないのが辛い。

 やっぱ俺にはまだ力がないんだなと痛感してしまう。

 だがアレナはそれについて怒っている様子がない。

 それがわかっているから尚更辛いのだ。


「あ、そうだ白蛇さんっ! 多分その姿で探しに行くんでしょ? だったら私のこと伝える方法がいるんじゃない?」


 俺の気も知らないでこの子は本当に……。

 俺が助けに行くまで、純粋でいてくれよな。


 えっと、アレナのことをサテラに伝える方法だったな。

 確かにそれは必要かもしれない。

 俺が普通に出て行っても警戒してしまうだけだろうしな。

 ただでさえそれなりにでっかい蛇だし。

 俺は頷いてその方法を教えてもらうことにした。


「まず、水出して」


 水を出すということは絵文字で何かを伝えるということだな。

 俺は水を出してあげて指示通りに形を作り出す。


「ここをー、こうして……あ、違う違う。こっちのお水はこう伸ばしてー」


 な、なかなか細かいですね。

 こ、これ記憶できるか……?


 アレナはそのまま何かの絵を書いている。

 この形は……加工された石?

  ダイヤモンドのようにカットされている石だ。

 これは何なのだろうか?


「ハイ完成っ! これ、パパがママに渡していた石だよ! ママがずっと大切にしていたから、これ見せたらわかると思うんだ。村で宝石を付けてたのはママだけだったから」


 ほう、なるほど?

 指輪みたいな感じなのかな?

 そういう文化もあるんだな……。


 でもちょっと形が歪だな……。

 もうちょっと俺なりに作り替えてみるか。

 え~と、形をもうちょっとカクカクさせてー……石っぽく石っぽく……。

 どうだ?


「わっ! すごい……そっくり」


 うん。上手くいったようだ。

 やっぱり元は綺麗な宝石なんだな。

 これなら形も覚えやすいし、サテラを見つけ出した時にすぐに出すことができるだろう。


 実はこういうふにゃふにゃした鉱石があるのかなと思っていたのは内緒な?

 ほら、異世界だからさ……ない物でもある可能性あるもんね。

 アレナから合格を貰ったことだし、これで大丈夫そうだな。


 それから俺とアレナはまた話を続けていた。

 あれだけ話をしてもまだまだ話すことが尽きないアレナ。

 女の子ってこんなにも話すことが好きなんだな。

 俺はびっくりだ。

 

 ……今日が最後だしな。

 今日は夜まで付き合ってあげよう。

 さ、俺の想像力が試されるぞっ。


 絵だけで会話するのって!

 難しいんだよーーー!





 ―夜―


 夜になり、いつものように食事が運ばれてきた。

 男は暫く他の動物に餌を与えていたが、その作業もすぐに終わりそそくさと外に出て行ってしまった。

 俺に出された今回の肉は……もうデカい肉の塊としか言えません。


 これちゃんと血抜きしてますぅ!?

 ナイフで抉り取っただけなんじゃないですかぁ!?

 狩った獲物はすぐに冷やさないと肉が火傷しちゃうんですよ!

 全く! そんなことも知らないんですかこの世界の人たちは!


 まぁ狩ってからすぐに食べる私には関係ないんですけどね。

 でもそれをアレナに食べさせるなんて……!

 流石にアレナの貰った肉には火が通してあるが……既に痛んでる物だしな。

 あんまりおいしくないだろこれ……。

 ただ薄く切って焼いてあるだけだし……。


 焼くだけでもおいしくさせる方法はあるんですよ!

 これ表面炙っただけじゃね!?

 なんで最後のお肉がこんな手抜き料理ですか!

 私のは生だけどな! はむっ!


【経験値を獲得しました。LVがMAXになりました。進化が可能です。現在のステータスを表示します】

 

 ちょおおおおい!

 めっちゃいい肉使っとるやないかい!

 なら尚更ちゃんとした料理作りなさいよ!

 あ、ステータスはとりあえず良いです。


 しかし一気に7も上がってしまうとは……。

 まぁデカそうな肉だしな。

 魔物も結構大きかったんだろうね。

 だがこれで……進化ができるぞ!


 俺はすぐにアレナにこの事を伝える。

 もちろん水でゲージの枠を作って、そこに水を貯める。

 今回は水のゲージをいっぱいに上げていく。

 これで「進化できるようになった」と伝えることができるはずだ。

 アレナはそれを見てすぐに気が付いたらしく、明るい表情をしていた。


「白蛇さん! もしかして……!」


 そうですよ! 進化できるようになりましたよっ!


 俺は頷いてそう伝える。

 アレナは俺にできる限り近づいて小声で「おめでとう」と言ってくれている。

 なので俺も顔文字で笑顔を作って「ありがとう」と伝えた。


 もう慣れたものでこれが俺たちの会話だ。

 最初は苦労したけどなれれば結構スムーズにできるようになるものだな。


「じゃ、白蛇さん。頑張ってね」


 おう! 絶対にお前の姉ちゃん探し出して助けてから、お前を助けに戻ってくるからな!

 水で手を作って横に振る。

 「バイバイ」の絵文字だ。

 アレナも手を振ってくれた。

 暫くあえなくなるけど……絶対に、絶対に戻ってくるからな!


 おーーーし! 天の声!

 進化先を!

 教えてくれ!!!




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―進化先―


―ダトワーム―

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 ……。

 …………。

 は?


 …………え?

 は?

 …………は?


 えーっと……ごめんごめん。

 ちょっと待ってね。

 天の声よ、ステータス表示してくれる?


===============

 名前:応錬(おうれん)

 種族:土王蛇


 LⅤ :45/45

 HP :221/221

 MP :234/234

 攻撃力:162

 防御力:198

 魔法力:209

 俊敏 :74


 ―特殊技能―

 『天の声』『希少種の恩恵』『過去の言葉』


 ―技能―

 攻撃:『剛牙顎』『追跡』『猛毒牙』『連水糸槍』『多連水槍』『大水流剣』

 魔法:『操り霞』『無限水操』『泥人』『破壊土砂流』『破岩流』

 防御:『水結界』『水盾』『泥鎧』

 回復:『回復』

 罠術:『水捕縛』『偽装沼』

 特異:『発光』『土壌浄化』『土壌創造』

 自動:『悪天硬』『水泳』


 ―耐性―

 『眩み』『強酸』『爆破』『腐敗』『視界不良』『盲目』『毒』『気移り』『耐寒』

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 うん。正常だな。

 全く問題がない。

 よし、今度は特殊技能の『過去の言葉』の詳細を見せてくれ。


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―過去の言葉―

 理解できない言葉を自らが知っている言語に変換する技能。

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 うん。全く変わってないな。

 平常運転だ。

 問題ない。

 故障とかではなさそうだな。


 ま、表示バグとかありそうだしな。

 いや、この場合は音声バグかな?

 うんうん、よし、天の声。

 進化先を教えてくれ。




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―進化先―


―ダトワーム―

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 は?


 ちょっと待ってくれよ。

 ちょっと待ってくれよ!

 ちょっと待ってくれよ!!!


 な、なな、なんで進化先が一つしかないんだ!?

 た、確かに俺が陸に上がるときも進化先は一つしかなかった!

 それは認めようじゃないか!

 だ、だがなぜここにきて一つなんだ!?


 ていうかお帰りダトワーム!

 死ね!


 いや違うそうじゃないそうじゃないんだ!

 そうじゃないんだよ!!

 なんで退化してんだよ!

 おかしいだろ!

 進化しろよ! し! ん! か!


 ねぇ天の声さん!

 前に進化先二つしか無くてケチー! って言った事根に持ってるんですか!?

 だったらごめんなさい! もう言いませんから! 辞書とか言いませんから!

 三つくらい進化先欲しいとか贅沢言いませんから!

 お願い! もう一個追加して!


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―進化先―


―ダトワーム―

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 ねえええええええええええええええええええええ!

 聞いてる?

 聞いてるよね絶対。

 絶対聞いてるよアイツ。


 だって前に説明文変わったもん!

 絶対どっかで聞いてんだよ!

 知ってんだぞこら!


 はっ! 待てよ……?

 もしかしたら同じ名前なだけで違う生物かもしれないぞこのダトワーム。

 よし!

 進化先の情報を教えてくれ!


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―ダトワーム―


 巨大なミミズ。ダトワームが通った土地は痩せた大地すらも栄養度の高い大地に回復させるという。

 しかし恐ろしい所もあり、間違えて地上に出てしまった場合は暴れ狂い、村を崩壊させるまでに狂暴になるらしい。

 そんなダトワームはつぶらな瞳が特徴的。

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 何にも変わってねぇじゃねぇか!

 詐欺だ! 詐欺だあああああ!!!

 ふざけんな!

 ふーざけんなーーー!


 おいおいおいおいおい!

 どうすんだこれ! どうすればいいんだよこれ!

 え、これに進化するしかないのか……?

 マジで?

 え、マジで言ってんの?

 はっはっは何の冗談だ?

 だ、だれか……誰か嘘だと言ってくれ……!

 だれかぁああああああ!


「……白蛇さん?」


 はっ……!

 そ、そうだよ……俺は此処から脱出しなければいけない。

 そしてこの子を助けなきゃいけないんだ。


 だ、だが!

 お……俺が……俺がワームになるのか……?

 本気か? 正気か!?

 いやだがそれしかないじゃないか!


 お、おおお、お応錬……げ、現実を受け止めろ!

 も、もう神なんていない!

 目に見えないものをし、信じるな!

 あるのは目の前にある……現実だけだ……!

 かっか、覚悟を、き決めろ応錬!

 この子を……助けるために!


 進化先を! ダトワームに! 選択!

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