4.20.何してたんだ?


 すっかり日が暮れてしまったので、俺はとりあえず宿に戻ることにした。

 もしあの三人が居なかったらどうして探そうかと考えながら、その足を少し早めに進める。


 宿に戻ってみると、いつも見る風景が飛び込んでくるのだが、机やテーブルの置かれている休憩場所のような場所に、ウチカゲとアレナが座って金を数えていた。


「おお、お前ら帰ってたのか」

「応錬だ! ただいまー!」

「遅くなり申し訳ありません。少々面白い物を見つけましてね」


 面白い物とはなんだろうか。

 とりあえず二人が座っている席について、話を聞いてみることにする。


「なんだその面白い物っていうのは」

「あのねあのね! ダンジョン見つけたの!」

「だ、だんじょん?」


 ダンジョン。

 ダンジョンといえば、宝があったり、進んでいくにつれて敵が強くなったりするような場所だったはずだ。

 ゲームとかではよく使われているようなものだが、まさかここでダンジョンという言葉を聞くとは思っていなかった。


 どうやら二人は依頼をこなしている最中、人だかりを見つけて話を聞いてみたところ、そこがダンジョンだという事を教えてもらったそうだ。


「で、依頼自体はすぐに終わったんだけど、ちょっとダンジョンに潜ってみたかったから一日近くのキャンプで一泊したの!」

「それで帰りが遅れたのか」

「ご心配をおかけしました……」

「こりゃ零漸が聞いたら絶対に行こうとするだろうな」


 ゲームとかのことに関しては零漸のほうが詳しそうだし、ダンジョンのことなどもよく知っていることだろう。


 しかしどうやら二人は一度ダンジョンに潜ったようだ。

 俺も少なからずダンジョンという物に興味はあるため、聞いてみることにした。


「どんな場所だったんだ?」

「うーん……なんか思ってたのと違った。でも私達は二階層までしかおりてないから……なんとも」

「全体的に敵は弱かったです。ダンジョンに潜る冒険者も多くいるため、接敵するほうが少なかったですしね」

「そのダンジョンには何かメリットとかあるのか?」

「ありますよ。そのダンジョンを制覇するとランクが一回だけ一つ上がるそうです。Bランクまでに制覇しないと意味無いらしいですけどね」


 話を詳しく聞いてみたところ、そのダンジョンはサレッタナ王国の冒険者ギルドが管理しているダンジョンだったようで、攻略難易度はBランクと指定されているようだ。

 もしDランクでこのダンジョンを制覇した場合、D-、D+をすっ飛ばしてCランク帯に昇格させてくれるらしい。


 俺達のレベルから考えると、今の依頼難易度は非常に簡単なものであるため作業と化してしまっている。

 であれば、とりあえず明日三人に昇格試験を受けさせてD-ランクにして、それからダンジョンを制覇すれば晴れてCランク冒険者になることができるはずだ。 


 俺はまともに依頼をこなしてはいないが……まぁ別に上げてくれるというのであれば上げてもらえばいい。


 二人に昇格試験の話をすると、すぐに食いついて明日にでも試験を受けようという流れになった。

 どうやら二人も今の依頼に物足りなさを感じていたらしい。

 今回の依頼もちょっとした討伐依頼だったらしいので、三時間程度で依頼が終わってしまったのだという。

 全部アレナが始末してしまったようではあるが……。


 とりあえず二人の許可は取った。

 あと一人の許可を取らなければならないのだが……。


「なぁ。零漸は?」

「零漸殿ですか? 俺は見ていませんが……っていうか帰っていないのです?」

「ああ。昨日からお前らと同じように帰ってないな。どうせ迷ってる程度だとは思うのだが……明日までに見つけておきたい」

「応錬様の感知能力でも探せないのですか?」

「俺のは人を見分けれるわけではないからな。残念ながら」


 あいつの服装は非常に独特だがシルエットだけでは流石に探すことはできない。


 しかし、まず零漸はどんな依頼を受けたのだろうか?

 二人に聞いてみたが、その時一緒に居なかったのでよくわからないらしい。

 これは暫く待っておくしかないのだろうか……。


「ただいまっすー!」


 ……噂をすれば影が差す。

 とはよく言ったもので、元気そうな零漸が扉を開けて誰に言うでもなく声を出していた。


 今ままで心配していた俺がバカみたいだと思いながら、とりあえず苛立ちを抑えて零漸をこちらに招き寄せた。


「遅くなりました!」

「零漸殿、一体どこに行っておられたので?」

「アシドドックの討伐依頼を受けてたっすけど……如何せん数が多くてめちゃくちゃ手こずったっす」

「迷子じゃなかったのー?」

「失礼な!」


 あえて言わなかったことを平然と言ってくれるアレナ、流石である。


 とりあえず、零漸が帰ってきたので先ほどウチカゲとアレナに説明した昇格試験のことを零漸にも伝えておくことにした。

 ダンジョンと聞いてテンションが上がっていたが、これは昇格試験が終わらないといけないので、まずは昇格試験に集中してもらうことにする。


 とは言っても、アレナとウチカゲ、そして零漸は普通に合格しそうな気もするが……。

 いや、しかしアレナは心配だな。

 アレナはまだ技能に助けられている節がある。

 非常に強い技能ではあるが、それが使えなくなってしまうと非常に危険だ。


 そのあたりをあのギルドマスターがどう見るか……。

 うーん……でもあいつなんかふわっとしてるしなぁ……そんなに見る目ない気がする。

 流石に馬鹿にしすぎかな?


「よーし! じゃあ明日に備えて寝るっすよー!」

「私お腹空いた」

「じゃあどっか適当な場所に行って食べるか」


 今日だけで一気に話が進んだ。

 これなら高ランク帯の受付に立つのもそう遠くはないだろう。


 しかし、こうしていると疑問に思うことがある。

 一体俺はどこまで通用するのだろうかと。


 技能的にはおそらくほかのどんな奴らよりも良い物を持っている気がする。

 剣術は何故か動きを知っているし、それに伴う知識もあるので動けないことはない。


 Sランク指定のレッドボアも倒したことだし、特に苦戦するような敵はいないのではないだろうか。


 完全に危ない考え方ではあるが、実際に最近強い敵と戦ったことがないので仕方がない。

 今度ギルドマスターと模擬戦でもしてみようか……。


 ま、とりあえずはこの三人の昇格試験を見守ることにしよう。

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