4.21.昇格試験 ウチカゲ
朝になったので俺たちは冒険者ギルドへと向かっていた。
その理由はただ一つで、零漸、ウチカゲ、そしてアレナに昇格試験を受けさせるためだ。
昨日は勢いでギルドマスターに対して無理難題を言ってしまったと、一日経って気が付いたが、結局の所そのギルドマスターがそれを了承したので今更気にしたって仕方がない。
ふと思ったが、これは飛び級とは少し違うのだろうか?
試験は受けているし、ギルドマスターもこれに一枚かんでいる。
だがE+をすっ飛ばしているので、やはり飛び級という扱いになるのだろうか。
以前にウチカゲから、飛び級は滅多にないと教えてもらったが……。
いや、俺的には全然問題がないのだが、他の冒険者がどう思うかが心配だ。
変な言いがかりをつけられなければいいのだが……。
そんなことを考えていると、試験会場に到着した。
そこには昨日と違い、ギルドマスターが会場の真ん中に立っており、俺を見るや否やすぐに手を振って大きな声を上げた。
「おーい! こっちだよー!」
「? 応錬様、あの方は?」
「ここのギルドマスターらしい」
「なるほど。ここのギルドマスターは女性なのですか」
「珍しい事なのか?」
「いいえ?」
あ、そうなのね……。
とりあえず俺たちはギルドマスターであるマリアの場所へと歩みを進める。
俺たちが近づくと、マリアは三人の顔をまじまじと観察して満足そうに頷いた。
「うん、なかなか筋はありそうね」
「俺ほどではないかもしれんが、それ相応に強いぞ」
「みたいね。じゃ、試験の内容を発表するね」
それからはマリアが昇格試験の内容を簡単に説明してくれた。
昇格試験は模擬戦で、ギルドマスターが用意した人物と戦ってもらうことになるらしい。
負けても勝っても、そのランク帯にふさわしい強さを持っているのであれば、試験は合格ということになるようだ。
要するに自分の力を全て発揮し尽くせ、という事だろう。
分かりやすくて簡単ではあるが、これは相手にもよると思うので、三人には油断をしないようにしてもらいたい。
因みにこの昇格試験はランクが上がるごとに難しくなっていくようで、Sランクの昇格試験ではギルドマスターが直々に模擬戦をしてくれるらしい。
うーん、別にどうでもいい。
でも近いうちに戦うことになるだろうから、この事は覚えておいてもいいかもしれないな。
「じゃ、まずは誰からやる?」
「俺から行きましょうか」
珍しくウチカゲが挙手をして一番手を申し出た。
ウチカゲはそっと腕につけている籠手の鉤爪を下ろして戦闘態勢に入る。
とは言ってもまだ対戦相手が来ていないようだったので、棒立ちではあるが。
「珍しい! 貴方は鬼ね?」
「そうですが」
「これは面白くなりそうね! じゃ、鬼君以外は少し離れてね~。はい! 模擬戦開始よ!」
俺たちが後ろに下がるより先に、マリアは戦闘開始の合図を出す。
だがしかし、ウチカゲの対戦相手は何処にもおらず、その場にしんとした空気が流れるだけになった。
それが気になったのか、アレナは首を傾げて周囲をキョロキョロと見まわしている。
それは零漸も同じで、アレナと同じように周囲を見ていた。
この二人に感知系技能はないので気が付かないことは仕方がないのかもしれないが、実は俺たちが入って来る前からマリア以外の他三人の姿を俺は感じ取っていた。
恐らくあの三人だろう。
感知系技能がないとここまで気が付かないものなのかと、俺は少し驚いていたが、ウチカゲはかすかではあるが気配か何かを感じ取っているようで、一点を見続けていた。
「……? ギルドマスター。この三人の内、どの方と戦えばよろしいのでしょうか」
「あら、わかってたのね。そこの右の男よ」
「承知」
ウチカゲはそれを聞いたと同時に、今度こそ戦闘の構えを取って鉤爪を前に出す。
相手もそれと同じように、慌てて木で作られた剣を握って構えを取った。
それを見ていた他二人は、自分達が邪魔だと感じたのか後ろに引いて距離を取る。
一人残った男は、俺にした時と同じような質問をウチカゲに投げかけた。
「……見えるのか?」
「見えませぬ。ですが気配は感じます故」
「気配も消しているはずなんだがな……」
「いいえ、貴方の気配はありません。ですが、貴方の意識はこちらを向いております」
「んん? ……わ、わからねぇ……」
うん、俺もわかんない。
隣の二人は意味わからな過ぎて困惑しているようだし……これは俺が説明したほうが良いのだろうか……。
「ま、見えてねぇなら……何とでもなるだろ!」
あいつは声的に……あの時俺に一番初めに襲って来たシャドーアイのクライスだろう。
随分と元気そうで何よりだが……また何も考えずに正面から突っ込んでいる。
この男……クライスは技能に頼りすぎている節があると思う。
俺と対峙したときも堂々と歩いてきていたし、自分の技能に相当の自信がありそうだ。
まぁ……ウチカゲにそれが通用するかどうかと聞かれれば……そうではない。
「フッ」
「……!?」
ウチカゲが一瞬でクライスの後ろへと移動した。
それを誰もが確認した瞬間、クライスの持っている木の剣はばらばらになって地面にゴトゴトと落ちる。
ウチカゲはあの一瞬で腕についている鉤爪を振って木の剣をスライスしたようだ。
驚いたクライスは、透明化が解除されて姿が見えるようになった。
どうやらあの技能は集中力が必要になってくる技能のようで、気が緩んでしまうと解除されてしまうようだ。
それを見逃さなかったウチカゲはすぐさま反撃に出るが、そこでマリアが模擬戦終了の掛け声を出してウチカゲを停止させた。
「……拍子抜けですね……」
「ウチカゲー! よかったぞー! 俺も見えなかった!」
「はははは、ちょっと本気を出しましたからね」
確かにあの速度は過去に一度見ただけで、最近は見たことがなかった速度だ。
最後に見たのはレクアムと戦った時だったか……。
試験が終了したのは流石に隣にいる二人にもわかったようで、二人はウチカゲに拍手を送っていた。
ウチカゲは俺たちの所にゆっくりと戻ってくる。
「これであれば片方の鉤爪だけでも問題なかったですね」
「ウチカゲやるっすねー! 俺もがんばろ! 次俺! 俺!」
「わかったわかった、行ってこい」
「っしゃー!」
ウチカゲの戦いを見て士気が上がったようで、気合十分に今度は零漸が前に出た。
零漸には感知系技能が一切なかったはずだ。
あの透明な奴らをどうして捌くのか非常に気になるのだが……適用するかはわからないところだ。
なにせ次の対戦相手は、シャドーアイの隊長であるビッドだったからだ。
ビッドはゆっくりと零漸に近づいて数十歩の間合いで立ち止まる。
零漸はビッドの存在に気がついてはいないだろう。
最初から隠密技能を全開に使用して模擬戦をさせるギルドマスターはなかなかに性格が悪いと思うのだが、これくらい捌くことができなければ話にならないのだろう。
「さー! どっからでもかかってくるっすよ!」
「次はあなたね。じゃ、開始してもいいかしら?」
「うす!」
「じゃー……模擬戦開始!」
開始の合図と同時に、ビッドは宙高く飛び上がって手にしていた木の剣を大きく振りかぶった。
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