5.4.偵察結果
Side-ティアラ-
偵察に来ていたティアラは、普通ではありえない程の速度で走っていた。
こういう偵察に長けているティアラだが、実はもっと得意な技能がある。
それは魔物を従えることのできる技能。
つまり、魔獣契約をすることのできる技能だ。
今は一匹しかいないのだが、契約条件があやふやなので中々仲間は増やせていない。
だがティアラ自身はそれで満足していた。
しかし、今はそれどころではない。
今は大きな狼の様な魔物に乗って、森の中を駆けている最中だ。
実際には既に偵察は終わっているので後は帰るだけ。
だというのに、冷や汗がとまらない。
「なんなのよあれ! やばいやばいやばい!」
あんなのおかしいでしょ!!
なんで……なんで……。
なんで洞窟にいるはずの魔物が出て来てるわけ!?
洞窟の魔物は一切外には出てこない。
そういった事例も一切ないのだ。
怪物宴はこれまでに何度かあったのだが、ここまでの規模は珍しい。
と言うか、全世界で初めての事例となるかもしれない。
外にいる魔物より、洞窟にいる魔物の方が狂暴だ。
洞窟は食べられるものが少ない。
だから強くなり生存競争を勝ち抜かなければならないのだ。
それ故に、地上にいる魔物より狂暴で賢く、強い。
管理されているダンジョンでは冒険者が間引きしているのでそう言った強い個体は出現しにくいのだ。
地上も似たようなもので、弱い魔物が沢山いる。
だからあまり生存競争は激しくない。
その為強い魔物は出現しにくいのだが、何十年も人の出入りのない森では脅威度の高い魔物も現れる様だ。
これは長年ギルドが観察してきているので間違いない。
そして今回のこの異常事態。
幸い敵の足は遅い。
時間の猶予はあと三日といった所だろう。
「早く……! 早く伝えないと! 頑張ってテラ! もう少し速く!」
「バルァ!」
「これが全速!? んーー! はやくぅー!」
「グルゥ……」
転移魔法陣でここに来たことをすっかり忘れてしまっているティアラ。
その事に気が付いているが、実は主人とまた走れるのが楽しいので黙っているテラであった。
◆
Side-応錬-
眠い。
眠すぎるぞこの部屋。
作戦会議を中断してから半日が経った。
今はティアラの報告待ちなのだが、中々帰ってこないのだ。
まぁ偵察だしな。
それなりの時間を有してしまうのは仕方がない。
とは言っても俺は何もやることがないのだ。
ビッドやマリアはこれから冒険者の部隊をしっかりと決めている最中なので、この部屋にはいない。
今いるのは……鳳炎だけ。
またかよ。
「おーい、マジで暇だぞ。こんなんでいいのか。戦闘前だぞ」
「すぐすぐ来るという事もあるまい。それに私は今考え事をしている。少し黙っていてくれ」
「おいひでぇ言い様だな」
ま、こんな感じで会話すら許してくれません。
もう下に手伝い行こうかなぁ……。
ていうか考え事ってなんだよ。
俺にも共有しなさいよ、全く。
マジでこれなんも考えなくていいのかよー。
言っちゃあれだけど、ティアラが帰ってこない可能性だってあるんだぞー?
言いたくはないけどさ。
「ん? おい鳳炎。なんか聞こえないか?」
「だから……少し黙っていてくれと言っているだろう」
「と言われてもなんか声が近づいてきてるんだ。警戒しろよな?」
「────ぁぁぁぁ」
「む? 確かに何か……」
「ぁぁぁぁぁぁあああああ! きゃああ!!」
バリーン!
と言うけたたましい音を立てて窓が割られた。
どうやら外から何かが突っ込んで来たらしい。
俺と鳳炎はすぐに戦闘態勢を取り、部屋の中に転がって来た人物を目視する。
そこに居たのは一匹の狼。
この狼はなんだか見覚えがあるのだが……何だっただろうか。
んー……。
あ!
こいついつぞやユリーに依頼としていかせたシャドーウルフじゃん!!
張り紙でこんな絵を見たことがあるぞ。
でもなんでこんな奴が……?
「テラじゃないか!」
「てら?」
「っておい!! ティアラ無事か!?」
鳳炎はそう言って、すぐに狼のもとに近寄る。
どうやら俺の方からは死角になっていた場所に、ティアラが倒れていたらしい。
俺もすぐに近寄って様子を伺いに行く。
見てみると、ティアラは目を回していた。
まぁあんだけ派手にこの部屋に入ってきたらなぁ……。
鳳炎が暫く声をかけていると、意外と早く復活した。
シャドーウルフが心配そうに近寄っているが、ティアラ自身に怪我はないようだ。
全員が一度安心したところで、ティアラが復活して「そうだった!」と叫んで鳳炎を掴む。
「おお!? なんであるか!」
「聞いてください鳳炎さん! 魔物の大群が!!」
「いやそれは分かっている! 敵の数と魔物の種類を教えてくれ!」
「えっと、えっと!」
ちょっと落ち着きなさいよ……。
てかこの狼可愛いな。
走って来ただろうし、水飲ませとこ。
暇だし。
「ダンジョンや洞窟にいるはずの魔物も進軍中です!」
「なに?」
「アシドドック、ゴブリンなどの弱い魔物は勿論、ゴボック、ダトワーム、オークなどの強力な奴らに加えてバンディスライムやカバルア、飛竜種も何種類かいました! ほ、他にも……」
「あー分かった分かった。もうそれ以上はいい。Bランク以上の魔物はどれくらいいたのだ?」
「く、詳しい数は分かりませんが……。ざっと一千は居たと思います……。大きい奴だけですが……。全部合わせると一万は超えているかと」
「参ったな……」
あ、水はもういいんですか?
てか魔物って言ってもこれだけ人に慣れていると可愛いもんだな。
普通に撫でれるし。
シャドーウルフの毛って結構硬いのね。
そういや俺こいつ初めて見るなぁ。
こいつの生態誰かに聞いたことがあったような気がするけど、誰だっけ。
どんな生態だったか忘れたけど、仲間思いの奴だったような気がする。
てかティアラこいつに乗って来たよな。
従属魔法的な技能でも持ってんのか?
名前もテラとかいうらしいし……。
ペットやん。
俺も欲しいなぁ。
まぁ魔物関係で言ったら零漸がペットみたいなもんだけどな。
「コラ応錬! 何をしている!!」
「うわびっくりした。なんだよ」
「今からまた策を練り直すぞ!」
「あ、やっと? まぁいいけど……」
なんかまた熱が入ってんな……。
その上がり下がりが激しいのは何なの。
「ティアラ、帰ってきて早々悪いが、ギルドマスターを呼んできてくれ」
「わ、分かりました!」
あ、テラついて行っちゃうのね……。
もうちょい撫でたかった……。
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