5.3.騎士団の動き


 あれから俺と鳳炎は考えられる想定を作り出してはコマを動かし、どの様に動かすかを真剣に考えていた。

 基本的に作戦を考えるのは鳳炎。

 それを指摘するのが俺、と言った役割だ。


 俺は兵法に関しては単純なことでしか考えることが出来ない。

 なので、指摘役としては持って来いだったようだ。

 なんせ鳳炎の作り出している策の穴を見つけるだけの簡単な仕事なのだからなっ!

 楽勝である。


「なぁ……応錬……。私より兵法出来るんじゃないか……?」

「それは無いだろう。言うて穴見つけるだけの簡単な仕事だし」

「その言い方は癪に障るぞ……」


 さっきの仕返しだこの野郎。

 

 すると、いきなり部屋の扉が開け放たれた。

 そこにはマリアが立っており、随分と息を切らしてる。

 今は顔を下げて息を整えているので、表情は見えないが……。

 どうだったのだろうか?


「お、どうだった?」

「はぁ……はぁ……。くっそ! 騎士団は使い物にならないわね!!」


 その言葉を聞いて俺と鳳炎は固まった。

 最悪の事態が想定できたからだ。


 そこでマリアは顔を上げる。

 その顔からは悔しがっている様な、はたまた怒りをこらえている様な表情が伺えた。


「ま、マリアギルドマスター……まさか……。まさかだとは思うが! 騎士団の奴ら!」

「そのまさかよ!! 『騎士は国の防衛のためにいる。国こそ守るが出兵はしない』だってさぁ!!」


 マリアは怒りを露わにして壁を殴る。

 相当手加減しているのか、音自体はそこまで大きい物ではない。

 だがマリアが落ち着くためにはしばらく時間がかかりそうだった。


 ちょっと待ってくれーくそ騎士団ー。

 あいつら俺たち冒険者だけで戦えって言ってんのか?

 今まで俺と鳳炎が考えていた作戦は騎士団ありきの作戦ばかりだぞ!?

 やり直しじゃねぇかくそったれぇい!!


「って! 鳳炎! 騎士団無しで勝てんのかこれ!」

「わ、分からん! 奴らは気に食わないが、戦闘だけに関しては駆け出し冒険者より何十倍も戦力になる奴らばかりだ。教育されているからな……。それを見越しての策だったが……! これじゃあ意味がないではないか……!」


 これは外に出て戦うってのは止めて、防衛戦に徹したほうが利口かもしれないな。

 幸いなことにこの国には強固な城壁がある。

 それを使えば勝てないことは無いだろう。


「そうだろ?」

「それが……そうも言いきれないのだ……」

「な、なんでだ?」

「アシドドックを知っているか?」

「ん? あの犬か」


 何で急にそいつの話が出てくるんだ……?

 確か強力な酸を持っていたが……。

 実際に喰らったことは無いけど、攻撃自体はかなりの物だった。

 地面溶けてたしな。


 ……ん?

 地面が溶ける程の強力な酸……。

 あれ、もしかして。


「……そいつらが来ると城壁ってあんまり意味ない?」

「その通りである。だからそいつらだけでも外で始末しておきたいのだ」

「でもそいつらが来るって確証はないだろう?」

「あるのだ。アシドドックはゴブリン同様、もしくはそれ以上に繫殖力が高い魔物。そんな奴らが参戦してこないというのは絶対にないのである」


 あーそーですよねー。

 てことは鳳炎がさっきまで考えてた作戦って、アシドドックをどうにかするっている作戦ばかりだったのか。

 だから消耗の激しい編成を最初っから使いたかったんだな。


 前衛で暴れまくってから撤退。

 そして今度は低ランクの冒険者でもできる防衛線をしている間に、外に出ていた者は休息を取る。

 そういう風にしたかったってことだよね多分。


 それを早く言ってくれよぉ。

 俺そんなの分かんないからさ……。


「だから一回は確実に兵を前に出さねばならんのだ」

「難儀だなぁ……。マリアやSランク冒険者は動けんのか?」

「私はここの指揮よ。鳳炎は前線に出るわ。貴方はここで防衛……。Sランク冒険者は数人いるけど、仕事で戻ってきてないのが多いわ。いるのは雷弓の二人だけよ」

「はっはっは、名前の意味通り必要な時にいてくれて助かるな」


 頼りにしてるぜ二人共……。


「鳳炎殿! 応錬殿! ただいま戻りました! あ、マリアギルドマスターも!」

「ビッドか! どうだった!」

「何言ってるんですか。冒険者たちですよ? 手を取り合って戦うに決まっています! 冒険者の数は四千と二百程です……!」


 え、多いな!?

 そんなにいたの!!?

 まぁこの国結構広いしな……。


「その内、外で戦える者は何人なのだ?」

「二千名程度かと……」


 あーそうか……。

 戦う事がまだうまくない奴らもいるもんなぁ。

 そう言えば子供たちで冒険者稼業をしていた奴らもいたっけな。

 流石に子供は戦力にする事は出来ないだろうしね。


 で、これで騎士団合わせたら何人になるんだ?


「騎士団は何人くらいいるんだ?」

「詳しい数は分からないが、多く見積もっても三千程度だろう」

「あれ? 結構少ないのか……。国を守るのにそんな少数で大丈夫なのか……?」

「いや、騎士と呼ばれる者の人数がそれと言うだけで、国の戦力としてはまだまだいるはずだ。戦争になったら傭兵も何処からともなく沸いてくるしな」

「……でもその国の戦力も、騎士団が動かない限りは動かないって事か……」

「え!? 騎士団来ないんですか!? そんな馬鹿な!」


 まぁそうなるわなぁ。

 ビッドにはまだ伝えてなかったし。


 でも、俺たちはこれから二千の兵だけでアシドドックを狩らなければならないという事か。

 敵の規模が分からない以上、それは危険だな。


「とにかく、あいつを待つしかなくなったな……」

「ティアラか」

「ああ。こうなってしまってはもう作戦を考えるのは時間の無駄である。敵戦力がある程度わかってからまた考えるとしよう」


 こりゃ暫く……ティアラが帰ってくるまで待機だな。

 頼むぞー……。

 なんでもいいから役に立ちそうな情報持って帰ってきてくれよー!


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