5.5.作戦
ティアラが帰ってきてようやく敵の大まかな戦力が把握できるようになった。
今はそのことを踏まえながら作戦を立てる所だ。
ティアラは洞窟やダンジョンに住んでいる魔物が出てきていると騒いでいたけど、それってそんなに大変な事なんだろうか?
魔物って全部同じじゃないの?
ていうか名前だけ言われてもどんな魔物か俺は見当がつきません。
教えてくださいよ?
俺と鳳炎、マリア、ティアラは地図を囲っている。
既に騎士団のコマは取り払われており、冒険者のコマだけがそこにある状態だ。
城の外に出せる戦力は約二千。
他の冒険者は経験が少ないので外に出すのは危険すぎる。
なので物資の運搬や医療に勤めさせるという方針で決定した。
問題は出陣する戦力をどう動かすかだ。
「前衛部隊の目的はアシドドックを出来るだけ多く討伐する事である。それが出来れば後は防衛に努めるくそ騎士団に任せればいいだろう」
「私もそれに同意よ。外から帰ってきてすぐに防衛戦をするのは厳しいからね。やらなきゃいけない時もあるけど、騎士団がいるなら問題ないわ。全部丸投げしましょう」
冒険者をどう動かすかも考えないといけないけど、これって騎士団がどう動くかも確認しとかないといけないんじゃないか……?
悪いこと考えてる奴らが居たら、その責任を全部ギルドに押し付けられそうで怖いんだが。
とは言っても騎士団の知り合いとか俺いないしなぁ……。
話の通じる奴と仲良くなっとくべきだった。
まぁ防衛線の話は後でもできる。
時間はあるらしいからな。
ティアラの話だと敵がここに来るまでには三日を有するらしい。
であれば優先すべきは二千の冒険者の動かし方だ。
どういう奴らがいるのか俺は全く分からないので、ここは任せることになるが。
「で、どうすんだ? 作戦は?」
「やることは基本的には同じである。前衛に重装歩兵。その後方より魔導士兵での一斉攻撃で先頭にいるはずのアシドドックを壊滅。後は足止めをしながら後退だ。無駄に戦力を削るわけにはいかないからな」
「飛竜はどうするんだ? 飛んで攻撃してくるだろうから接近戦が得意な冒険者では勝ち目はないぞ?」
「そこは私がいるので問題は無いぞ。任せ給え」
「大丈夫なのか……?」
鳳炎の技能はそれとなく見せてもらったことはあるけどさ。
確かに対空技能は多かったよなぁ。
てかこいつだけで何とかなりそうだ。
前にアシドドック殺してるしな。
村と一緒に焼き払いかけたけど。
とりあえず飛竜系の魔物は鳳炎に任せておいても問題なさそうだな。
「てか鳳炎がいるんだったら別に事細かく作戦を決める必要なくないか?」
「そうでもないのよ」
「どうしてだ?」
「こいつ……燃費悪いから」
「あっ」
そういやすぐにMP切れ起こしてたなこいつ。
技能は強力だけどその分消耗が激しいって奴。
てことは足止めするのにはこいつだけじゃダメなのね。
飛竜たちを鳳炎に殆ど任せるのであれば、地面にいる敵はこっちで何とかするしかないって事か。
それなら仕方がないな。
よし。
「ほれ」
「な、何故マナポーションをそんなに渡してくるのだ……」
「戦えなくなったら意味ないからな。魔力が無くなったらしっかり飲むんだぞ」
満面の笑みで渡します。
これは完全なる善意なので問題は無いはずです。
「ぐぅ……。分かった……。貰っておこう」
「うむ」
後でもうちょい仕入れとこう。
「ティアラ。敵の数は分かるかしら?」
「万は越えていると思います……。高台から見る事は出来なかったので詳しい数は分かりません」
「その数を防衛線に当てるか……。厳しいかもしれないわね」
「騎士団がいるだろう? 何とかなるんじゃないのか?」
「何処まで役に立つか……」
騎士団の信用どん底やないかい。
まぁこの状況にも関わらず引っ込まれているとそうもなるわなぁ……。
俺も嫌いになりそうだし。
とにかく、前線に出る冒険者は死なないことが大前提。
ここで戦力を削って防衛に回せなくなるのはもっと厳しいからな。
だが、後退しつつも敵戦力を削っていく。
可能であればの話だが。
無理ならそのまま後退するというのが今回の大まかな作戦になるな。
これが良いのかどうかと言われると、俺は少し不安である。
足の速い魔物や飛竜なんかはしっかりついてくるだろうしな。
それに、魔物は寝るのかどうかわからない。
昼夜問わず進軍してくれば冒険者の疲労はどんどん溜まっていくことになる。
帰ってきた冒険者がまともに戦うのは難しそうだよな……。
敵が少しでも進軍を止めてくれるという事を願うしかない。
無理だろうけど。
「後は罠ね」
「であるな。その素材などはあるのか?」
「残念ながら備蓄分は少ないわ。冒険者の持っている罠を借りないとね」
「痛い出費になるが、そこは多めに見てくれよ?」
「そんな事些細な事よ。何とか守り抜かないといけないんだからね」
あー、罠ですか……。
…………俺の技能使えないかなぁ?
泥人で前線に出て偽装沼と水捕縛設置しまくったら丁度いいんじゃね?
あ、でも泥人って一体何処まで操ることが出来るんだろうか。
まぁ実戦としてやってみるか。
「なぁ。罠を張るんだったらこいつを持って行ってくれるか? どこまで役に立つかは分からんが」
そう言って、俺は泥人で蛇の分身を作り出す。
勿論部屋では作ることが出来ないので、ギルドの外で作ってから壁を登らせてこの部屋に入れる。
「なんなのこれ。どこかで見たような蛇だけど……」
「土王蛇の小さいバージョンだな。俺の技能に罠を張る為の技能があってな。こいつがいればその辺に張ることが出来るぞ。だが離れすぎると俺が操れなくなるかもしれない。検証してないから分からんけど」
「じゃあ私が連れて行くとしよう。期待せずに持っていくよ」
「ああ」
ないよりはましだからな。
罠の設置は俺が遠隔操作ですればいいから大丈夫だろう。
そっちに集中は出来るだろうしな。
「もう行かないとマズいな」
「そうね。鳳炎皆をよろしくね」
「うむ」
敵が来る時間帯もそれなりに分かっている。
もう行かないと罠を仕掛ける時間が無くなってしまうのだろう。
鳳炎はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
……俺はお留守番ですね。
てかお前可愛いな。
テラだっけ。
よーしよしよしよし。
「……何で応錬さんにはすぐに懐いてるのよー……。テーラー?」
「グルゥ……」
「ティアラはこいつ手懐けるのに苦労したのか?」
「凄く……」
そうなんだ……。
なんかごめん。
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