10.27.打倒
ギリギリを歯を食いしばる。
ようやく長い年月をかけてこの世界に降り立ち、自分たちを閉じ込めた神々の作った人間を破壊しようと画策していたのに……。
また……また悪鬼によって打ち滅ぼされる未来が近づいている。
許されない。
あってはならない。
目的を達成するまでは、死ぬことは何としても避けなければならない。
天の声が足を踏み込んだ。
姿勢はひどく低く、手で何かを持ち上げるように魔力を籠めている。
すると無数の結界が出現し、更には空気圧縮の球すらも生成し始めた。
あれを先ほど見ていた天打は、何としても止めなければならない攻撃だと理解して構えを取る。
「親父。あの白い球は危険だ。この辺の地面を抉り取りやがった」
「そりゃけったいな
「細けぇよ……」
くだらない話をしているところで、攻撃が飛んでくる。
すべての結界は鋭利な刃が付いているようで、少しでも掠れば怪我をしてしまいかねない。
肉を抉り取る形の刃だ。
相手の殺意が具現化している。
それらをすべて打ち払ったあと、ゴウキが前に出る。
前進してきたゴウキに攻撃が向かった瞬間、テンダが刃を振るった。
「鬼人舞踊、乱れ花!!」
「ぐぅう! 厄介なぁ!!」
攻撃に回していた結界を引き寄せ、盾とする。
その速度は常人では見えない程だろうが、悪鬼である二人にはよく見えた。
対等な速度で戦っている。
判断もできるし、対処もできた。
ゴォンガァンッ!!
ガガガガンッ!!
ゴウキがすべての結界を弾き飛ばしていく。
使っている得物が金砕棒で、更に悪鬼の力が加わっているということもあり、すべての結界がひしゃげて地面に突き刺さる。
もうそんなことに構っていられないのか、天の声は焦ったように結界を作り出し、更にはひしゃげて使い物にならなさそうな物も差し向けているが、今のところ脅威にすらなっていない。
悪鬼二人で戦えばこんなにも楽に圧倒できるのかと、二人は少し驚いていた。
「んだよ楽勝じゃねぇか!! オラオラ逃げてばっかいんじゃねぇぞ!!」
「油断すんじゃねぇぞ!! 鬼人舞踊、乱れ花!!」
「吹き飛べぇえええ!!」
「振りかぶってーフンッ!!!!」
圧縮された空気の球。
それが上空から向かって飛んできたが、ゴウキが一足先に跳躍して接近し、ボールを打つようにしてそれを吹き飛ばした。
はるか上空で爆発し、こちらには少し風が吹いてくる程度。
追加で飛んできた二つの球も、同じ様に上空に飛ばして事なきを得た。
悪鬼の速度に、爆発が追い付かない。
そんなことあるのかと、天の声は心の中で叫んだがそれで現状が変わるわけがなかった。
ゴウキが接近する。
金砕棒を振りかぶって思いっきり叩きつけるが、それを空気の剣で何とか防ぐ。
「何も効かねぇなら道ずれだ!!!!」
「ああ? ぐ!?」
パァンッ!!!!
空気の剣が破裂した。
これも空気圧縮同様の作り方で作った代物。
破裂するのは至極普通のことである。
だが威力は大したことがなかったようで、天の声とゴウキは地面を転がるだけで済んだ。
受け身を取って立ち上がった両者は、再び構えた。
「チィッ! あの武器厄介だなぁ!」
「怪我は!?」
「ねぇ! だから無茶はできるが、俺があれに警戒しちまってる。接近戦は危ねぇかもな」
恐らくあの剣は破裂させるタイミングを自分で決められるものだ。
こちらに不利なタイミングで破裂させられると、隙ができる可能性がある。
だが、それだけ。
こちらもそれに対策をすればいいだけのこと。
「はっはっは! んじゃ、もうこの辺はぼっこぼこだから……使うぜぇ……!」
「……なにを?」
「決まってる! 技能だよ!! 『破壊神』!!」
膝を曲げ、中腰の体勢で力を溜める。
肌に黒い線が入っていき、手は真っ黒になった。
握っていた金砕棒の柄が握りつぶされ、振るえなくなる。
やっちまった、と思ったがまぁいいか、という表情でそれを投擲した。
しかしコントロールが良くなかったらしく、天の声の頭上を大きく超えてしまう。
何がしたかったんだと天の声が警戒心を緩めた瞬間、後方で大爆発が起こった。
それは空気圧縮で起こった時と、ほとんど同じ火力である。
「……は?」
「ぜははははは!!」
拳を合わせると、空気が振動した。
バチィンッという音が響き渡り、彼の火力をそれだけで理解することができる。
「親父ばかりに良いところは持って行かせねぇ。『鬼人力脚』、『鬼人雷拳』、『鬼人雷脚』」
三つの強化技能を使用した。
移動速度が大きく上昇し、体中に雷が走り回る。
できるだけ体力は温存しておきたかったが、父親が本気を出すというのだ。
であればこちらも良いところを見せたい。
初めての共闘なのだから。
「行くぞくそ親父!!!!」
「任せろ馬鹿息子!!!!」
バッ。
スッ。
二人は瞬時に、天の声の眼前にまで迫っていた。
天打の三尺刀が腹を横から狙い、その後ろからゴウキが黒い拳で狙いを定める。
「な──」
「鬼人舞踊!! 杯の水面!!!!」
「破壊神!!
ズバンッ!!!!
先に前に出ていた天打が天の声を両断する。
盛大に吐血したそれは地面に撒き散らされた。
メキョアッ!!!!
後方から追撃してきたゴウキが顔面を捉える。
上半身だけになった天の声は、軽くなっている為紙きれの様に吹き飛ばされた。
ズガンッズガンッ!!
ズザザザザザザザ!!!!
水きりの様に跳ね飛んでいく天の声が地面を勢いよく転がっていく。
二人はすぐに追撃し、二度目の攻撃を繰り出した。
天打が心臓を一突きして地面に張りつけ、その上から再びゴウキの黒曜拳が胸部に向かって穿たれる。
地面が凹み、クレーターができた。
二度目の衝撃によってさらに深くなり、計五回の衝撃が半身となった天の声に喰らわされた。
二人はその場から飛びのき、構えを取ったまま成り行きを見つめる。
しばらく動きはなかったのだが……砂煙の中から一つの影が立ち上がるところが見えた。
「かってぇなぁ……」
「あと一度、だろうな」
「ああ」
体を再生させ、辛うじて作り出した剣を杖にして二人を睨む。
さすが神というだけのことはある。
圧倒的耐久力。
しかしそれも、そろそろ終わりに近い。
「がぁ……ぐぞ……。力が……!」
あの攻撃を耐えるだけで、天の声が持っていた力の九割が消えた。
回復には時間が掛かり過ぎる。
一割回復させるだけでも、数十年は必要だ。
出し惜しみをしたつもりはない。
むしろ全力を出しすぎたくらいだ。
だというのに、また……勝てなかった。
影が自分の前に立つ。
首をねじって見上げてみれば、そこにゴウキが立っていた。
「終わりだ」
渾身の力で止めを刺す。
それが強者との戦いにおいての礼儀だ。
最後まで油断はしない。
空気と一緒に天の声を殴った。
もちろん顔面。
叩き潰すようにして繰り出した一撃は、避ける力すらない天の声に直撃する。
ファッサッ。
殴る寸前、ゴウキの腕が砂となった。
「!!」
「……ッ」
天の声が持っていた剣。
それがゴウキの心臓に突き立てられた。
「……ごふっ……」
「へへ、ふはははは……打倒悪鬼……ってね……」
「お、親父!!!!」
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