10.26.親子
地面を蹴った天打は一瞬で天の声の場所までたどり着いた。
瞬間移動に近い動き。
それを見て天の声は驚愕した。
鋭い目つきに黒い瞳。
まだ悪鬼の力の半分も使っていない天打のお試し攻撃ですら、驚異的なものだった。
「な!!?」
「鬼人舞踊……穿ち!!」
朝顔の柄頭が天の声の腹部を捉える。
それは一瞬の動きによって鍔の形の風圧をも直撃させた。
パァアアンッ!!!!
盛大な破裂音が響いた瞬間、天の声は吹き飛ばされていた。
それを先回りして、今度は地面に向かって殴りつける。
刀の使い方は分かったので、今度は肉体の使い方を覚えておきたかったのだ。
鈍い音が響いたと同時に、天の声は地面にめり込む。
巨大なクレーターが形成され、天の声よりもずっと火力が高い技が繰り出された。
空気を殴り、更なる追い打ちをかけたのだ。
「ぬおおおおあああああ!!」
「しぶとい……」
「鬼が悪鬼になりやがったかぁ……!! 面倒な真似をしてくれる!! レンマと同じことをしてんじゃねぇよ!!!!」
地面にめり込んでもすぐに這い出すだけの力があるらしい。
愚痴を言いながらすぐに体勢を立て直し、天打を睨む。
握っていた空気圧縮の剣。
それを持って襲い掛かった。
下段からの攻撃。
轟音と爆風を同時に発生させて、空中にいた天打の動きを制限しようとしたらしいが、それは無駄である。
なぜなら今の天打は空気を蹴ることができるのだ。
一度蹴ると数メートル移動し、素早く二度蹴ると凄まじい速度で前進する。
ギャンッ!!
ゴウッ!!!!
金属音と爆風が周囲に発生する。
それからはすさまじい連撃、そして爆風がその場を包んだ。
姿は見えず、見えているのは刃が弾け合う火花のみ。
あとは音しか聞こえない。
「ぜああああああ!!!!」
「スーッ……はぁ!!!!」
天の声が本気を出している。
様々な魔法、先ほどの空気圧縮、そしてガロット王国を地面に沈めた技能すべてを駆使しているが、それでも天打を止めることはできなかった。
数多くの魔法、有り得ない程の魔力量、更に計り知れない力を前に、天打は刃一本だけで立ち回っている。
応錬たちは彼らの戦いによってこちらにまで爆風が飛んでくる為、近づくことはできない。
自分たちを結界で守るだけで、今は精一杯だ。
天の声が強すぎる。
それよりも、天打が強い。
「鬼人舞踊!! 乱れ花!!」
「ぬぐ!? おおおおおお!!?」
ピョウッ!!!!
高音で鳴り響く風切り音は、数多の刃を作り出して天の声を襲う。
体中に傷をつけて数歩下がるが、その隙を見逃す程天打は甘くない。
空気を蹴ってすぐに接近し、刃を振るう。
「鬼人舞踊!! 杯!!」
「ぐぅ!!!!」
ギャンッ!!!!
腹部を両断する勢いで振り抜いた攻撃を何とか防いだ天の声だったが、その威力はすさまじく再び地面に背をぶつける形となった。
だがすぐに這い出してきて跳躍する。
天打は戦いながら考えていた。
この三尺刀朝顔のことを。
なぜ自分に朝顔と刻まれた三尺刀が届いたのか、分かった気がしたのだ。
朝顔とは、一日だけ咲く花だと鳳炎から教えてもらった。
たった一日だけのために花を咲かす。
まさに、今の自分のようだと思った。
この悪鬼化は長く持たない。
持久戦となれば必ず負けてしまうだろう。
現世では過ごせないこの体。
毒を常に吸っているのと同じようなものだ。
まだまだ限界は来ていないようではあるが、早期決着を急がなければならないだろう。
しかし天の声を圧倒はできているものの、決め手が足りなかった。
やはり神と名乗るだけのことはある。
力に関しては認めざるを得ない。
こんな化け物を、先ほどは応錬たちだけで戦っていたとなると申し訳なくなる。
だからこそここで挽回する。
たとえここで朽ちようとも、戦って死ねるのであれば本望。
頭を落とせば他も力を失うはずだ。
そう信じて、あとのことは全て任せるつもりでこの一戦に全神経を注ぐ。
「シッー……!! 鬼人舞踊……」
「!! その構えは……!! くぅ!!」
居合。
全神経を研ぎ澄ませ、敵を睨みつける。
強烈な殺意と、絶対にこの一撃で仕留めて殺るというやる気、そして刺し違えてでも殺すという覚悟を持って、この一撃を放つ。
集中。
狙いを定め、息を止める。
鯉口を切り、柄を優しく持って鞘を引く。
集中……。
相手の隙を探り出す。
ここだという時に最速で抜刀できる姿勢を空中で作り出した。
今か今かと気持ちが前のめりになるのを懸命に抑え、まだだと心の中で呟く。
集中……!!
全神経がただの一撃を放つためだけに総動員される。
自然体にて脱力するが、体は熱くなって動きを求めていた。
だが頭は恐ろしいほどに冷たく、冷静さをいつになく尖らせてその瞬間を待った。
「悪鬼羅刹」
以前、天打はこの技のことを、災いを与える化け物悪鬼を羅刹が一撃の牙で仕留める様を模したものだと考えていた。
だが、それは違ったと今では断言できる。
悪鬼とは、自分のことだ。
そして人を喰らう化け物羅刹が、声という邪神である。
悪鬼が食われるのではない。
悪鬼が喰らうのだ。
名は体を表す。
今天打はその名にふさわしい活躍をして見せた。
ザンッ!!!!
赤黒い斬撃が天の声目がけて飛んでいく。
その速度は目に見えず、最後に見送るときだけ赤黒い色が見えたという認識でしかなかった。
この攻撃は防げない。
だから天の声はそれを回避した。
しかし、両足が膝から無くなっていた。
「ぐぉおおおおお!!?」
「シー……辛うじて避けたか」
「ぐぬうう!! 『再生』……!!」
「んじゃその間に俺がお前の頭をかち割ってやるぜゴミが」
「!!!?」
「!? 父上!!?」
ズゴンッ!!!!
巨大な金砕棒が天の声の脳天を捉えた。
振り抜かれたあと、勢いをつけて地面に叩きつけられた天の声は歯を食いしばって現れた悪鬼を睨む。
「がぁっは……!! なぜぇ……なぜ二人も……!!」
天打ともう一人の悪鬼が地面に着地した。
ズンッと金砕棒を地面に突き立て、それに持たれる。
「かって~なぁ~。まぁいいや。よっ! テンダ!」
「父上! なぜここに!?」
「へっへっへ、ヒナタの婆さんに行けって言われてよ! 来ちまったぜ!」
「どういう状況なのかご理解は?」
「してるに決まってんじゃねぇか」
よろよろとこちらに向かって来る天の声を睨みながら、天打の父親、ゴウキは金砕棒を持ち上げる。
肩に担いで首を鳴らした。
「俺の息子と戦っているゴミは敵。以上!!」
「合っていますが……理解が浅い……」
「はっはっはっは! 俺は頭悪いからな! ……さ、馬鹿息子……いっちょあばれたりますかぁい」
「フフッ。足引っ張んじゃねぇぞくそ親父」
「言うねぇ~。どこまでも鬼らしく。正解だ」
勝ち筋が見えてきた。
天打はそう、確信した。
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