3.32.尋問開始


 尋問官の応錬だ。

 そしてこっちにいるのが秘書の零漸な。

 本当だったら個室で調べたい所なのだが、残念なことに家が燃えてそれどころではないので、青空尋問部屋を零漸秘書が用意してくださった。

 皆感謝するように。


 さて、今回は魔物を倒しただけだという意見を主張し続けている容疑者に、詳しい事情聴取を行う所だ。

 こいつのしでかしたことは結構ある。


 まず一つ。

 魔物を倒したこと。

 これは称賛に値する行動であり、褒めておかなければならない事だろう。

 火炎系技能を使い、一撃であの軍勢を仕留めたのだからこれはすごいと言うしかない。


 そしてもう一つ。

 村をちょっとだけだとは言っても数軒焼いたこと。

 これで死者が出かけたのだ。

 これはこいつの配慮が足らなかったというしかない。

 何故こんな村の中であんな火炎系技能を使ったかが未だ疑問である。


 さらにもう一つ。

 山火事を起こしかけたことだ。

 家などは燃えてもまだ建て直すことができる。

 時間はかかるが復興できるのだが、森はそうとはいかない。

 一度焼けてしまえばまた木を育てるのに何十年と言う月日を要する。

 焼いた木や葉っぱが肥料になるかもしれないが、森がなければ生活が成り立たなくなることだってあるのだ。

 こいつはこの村を殺しかけたんだから、それなりの報いは受けてもらわなければならない。


 最後にもう一つ。

 こいつ名前なんていうん?


「おい赤髪」

「私は赤髪ではないぞ!」

「名前をなんていうんだ?」


 すると赤髪はふんと胸を反らせて自慢げに言い放った。


「よくぞ聞いてくれた! 私は今巷で噂の炎の白騎士! 人々は私のことをこういう! 鳳炎と!」

「……で? 名前はなに?」

「聞いていなかったのか!? 鳳炎だ!!」


 アレナから鋭い突っ込みが入ったが華麗にスルーだ。


 だがそこでふと気が付いた。

 こいつの名前……漢字だ。

 この世界にもやはり漢字はあるのか?


 いやしかし……鬼たちでも漢字を知らなかった。

 漢字がある可能性は低い。

 そもそもこの世界の字は前世の記憶にあるものとは全く異なっている。


 でも鬼たちの名前は漢字に当てはめようと思えば、すぐに当てはめる事ができる。

 こいつもその類かもしれない。


「なんだ鳳炎って!」


 するとなぜか零漸が食って掛かった。

 零漸が何かを相手に物申すとは珍しい事であるが、喋り方的には嫌悪しているような感じはしない。

 鳳炎は食って掛かった零漸に向かって言葉を放つ。


「悪いのか!?」

「かっこいいじゃないか!」

「え、あ。え、うん。ど、どういたしまして?」


 零漸は相変わらず平常運転だった。

 まぁ気にすることでもないし、放っておこう。


 さて、問題はこれからだ。

 色々聞いていくとしよう。


「おい鳳炎」

「なんだ?」

「お前、どうしてここに来たんだ?」


 とりあえず当たり障りのない所から埋めていこう。


「ふん! 私はEランク冒険者だ! この村がピンチだという事ではせ参じたというわけさ!」

「お。さてはこいつ馬鹿だな?」

「何だと!?」


 この村の依頼はEランク冒険者が受けれる依頼ではなかったはずだ。

 Cランク冒険者が失敗続きで、この依頼の最低ランクがBランクに上がったという話だし……。

 こいつはほぼ無断でここに来ているのだろう。


 はて、こういう場合は一体どういう処遇に処すのがいいのだろうか?

 こんな時は冒険者になったことがあるウチカゲに聞いてみるのがいいだろう。


「ウチカゲ。こういう場合はどうなるんだ?」

「そうですね……俺はまず関与していませんし、応錬様たちは冒険者ではないのでそう言ったことは問題ないでしょう。しかし冒険者ギルドで依頼を見てきたというのであれば……まず違法金として依頼料の半分とられます。それからランクの降格ですかね」

「な、なにぃ!?」


 こういったことはよくあるのかと聞いてみたが、滅多にないらしい。

 なぜかというと、冒険者にメリットがないから。

 ランク外の依頼だと違法金は払わなければならないし、報酬も貰えない。

 それにランクも下がる。

 これを聞いてそれでもやるという奴はいないだろう。

 ただ、こんなことをすれば目立ちはするだろうが。


 それに嫌がらせでやったとしても、依頼人と依頼主が接触していない時点でそれはすぐにばれるのだという。

 ただ個人の特定は難しいらしい。

 とは言っても報酬もないし危険も伴う。

 そんなことをする奴もそうそういないようだ。


 で、こいつはそのことを知らなかったらしい。

 ていうかランク以下の依頼しか受けれませんよって言われてんだろ。

 阿保かこいつ。

 零漸でも間違えないぞ。


「まぁそれはいい」

「私としては聞き逃せないのだが!」

「次の議題だ。ウチカゲ、俺は村の復興費用とかはよくわかってない。この感じだとどれくらいかかるんだ?」


 こういう被害を素早く解決させるのは、金だ。

 これだけあれば人員を町から呼び寄せることも、新しい家を建てることも可能である。

 だが俺にはその相場などはわからない。

 という事で再びウチカゲの出番だ。


「そうですね……ざっと金貨二十枚くらいで足りるのでは?」

「大金だな」

「家の修復……修理費、ここまで来るための馬車の運賃、宿泊費、雇うための賃金など……で大体ですが、まぁそれくらいあれば足りるでしょう」

「だってよ。頑張って稼げよ鳳炎」

「な……な……」


 ついに頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

 ここまでくればもう牢屋はいらないだろう。

 零漸に牢屋を解除するように言って解除してもらった。

 こいつは音も何もないので解除されたことも気が付いていない様だがな。


 しかし……Eランク冒険者が金貨二十枚の借金か。

 なんだか哀れだな……まぁ後は好きにさせておけばいいだろう。


 だがこいつ、鳳炎といったか。

 Eランクの実力じゃないな。

 雨降ってるのに普通に家や森は燃やすし、アシドドッグも黒焦げだ。

 相当な火力を生み出すことができるのだろう。

 そう考えるとなんて恐ろしい奴なんだ。

 MPのない今の俺では勝てそうにないな。


「よし、後は村人が何とかしてくれんだろ。皆、もう今日は疲れたから休もう」

「「はーい」」


 いつの間にかアレナとサテラがいて、俺の手を引っ張って宿に連れていかれた。

 それに零漸とウチカゲもついてきて、全員が宿に入る。

 そこに残ったのは鳳炎だけだった。



「……うむ!」


 応錬たちが去ったあと、すぐにそう言って鳳炎は立ち上がった。

 その顔は何かに悩むような顔でもなく、ただ清々しいほどに何ともないような顔をしていた。


「とりあえずこの里からは逃げよう」


 鳳炎はとんでもないことを口にした。

 すると何も持っていない手から、炎の槍を生み出し、それを地面にとんと突き刺して一つの技能を静かに口にした。


「『炎翼』」


 すると突き刺した炎の槍が背中にまとわりつき、炎の翼が出現する。

鳳炎はそのまま空へと飛んでいき、何処かへ飛び去ってしまった。

 それを見た村人は多かったようだが、誰もが驚いて声を出せないでいたようだった。

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