3.31.お片付け


 戻ってみると、なんか燃えていた。

 村が燃えていたのだ。

 零漸と一緒に大急ぎで村に入って、消火活動を村人と一緒にやることになった。

 どうしてこうなったかを消火活動をしながら聞いてみると、アシドドッグの襲撃があったらしいが、とある人物が全て倒してくれたらしい。


 だが周囲の被害を考えずに火炎系技能を放ったようだ。

 何考えてやがる。

 とりあえずその人物には後で渇を入れるとして、まずは消火をしなければ山火事になる。


 無限水操で大量の水を作り出して、木や家に移った火にぶっかけて一瞬で消火していく。

 家の中は水浸しになるだろうが、ここは許してもらいたい。


 ていうか雨降ってんだぞ!

 なんで木が燃えてんだよ!?

 なんで家が燃えてんだよおかしいだろうが!


「零漸!」

「な、なんすか!?」


 水バケツを三つ抱えて消火活動に当たっていた零漸に声をかけた。

 どうやったらそんなに器用に持ち運べるのか不思議だったが、それは放っておこう……それよりもだ。


「家の中に人がいる! 行けるな!?」

「任せてください!」


 少ないMPだったがここで無理をしなくてどうするのか。

 という事で俺は操り霞を使って全ての家を確認した。

 そのうち二軒の家に人のシルエットを発見したので、防御力の高い零漸を突撃させることにしたのだ。

 零漸であれば消火したばかりの家にすぐに入ることができるだろう。

 無論燃えている中でも入って行きそうではあるが。


 零漸に指示を飛ばして家の中に入らせる。

 俺はその間にもう一軒の家に向かって火を消しながら進んでいく。

 しばらく進むと部屋で倒れている老婆を見つけた。

 脈を測ってみるがまだ生きているようだったので、こっそり『大治癒』をかけて治しておく。

 そのまま背中に乗せて外に一直線だ。

 人命救助完了!


 時を同じくして零漸も出てきた。

 両肩に夫婦と思われる男女を担いでいる。

 ちょっと乱暴だが二人抱えるのはこうした方が動きやすい。

 零漸はそのまま俺の所に二人を連れてきて『大治癒』を施すようにと頼まれた。

 俺はまたこっそりと『大治癒』をかけて治してやる。


「……む」

「ど、どうしました?」

「MPが底をついた。後何か一つでも技能を使えば倒れちまう」


 本当にぎりぎりだった……あとMPが3しかない。

 操り霞で一気に300も使うもんじゃないな。


 あの時は見つからずにイライラしていたのもあるだろうけど……ちょっと行動が浅はかだったな。

 反省反省……。


 とりあえず怪我人を安全な場所に休ませておく。

 途中その家族らしき人たちがやって来て、ものすごく感謝された。

 零漸はあからさまに嬉しそうだったな。


 しかしまだ消火活動は終わっていない。

 家は俺の技能で全て鎮火することができたが、森はまだ燃えている。

 俺はもうMPがないから肉体労働をするしかないわけだが……。


 すると村人の一人が俺の所までは知ってきた。


「さ、さっきの人! もう一回あの技能使って消火してくれないか!? 俺たちじゃ手が回らねぇ!」


 どうやらこの村人は、俺が先ほど家を消火するのを見ていたのだろう。

 だが……期待には答えられそうにない。


「す、すまん……もうMPがないんだ……」

「……えむぴー?」

「魔力がないんだ」

「ああ」


 そういえばこの世界の住人にはMPとかHPとかいう言葉は通じないんだったな。

 すっかり忘れていた。

 そんなことを考えていると、男が大声で呼びかけを開始した。


「おおい! 誰かマナポーション持ってないか!? 水を操れる人が魔力切れなんだ!」


 するとすぐに近くにいた人が、同じように呼びかけをしてマナポーションと言う物を探し始めた。


 マナポーション……名前からしてMPを回復させるものだろうか?

 暫くすると何人かの村人や、冒険者らしき格好をした人物が小さな小瓶を持ってきてくれた。

 小さなガラス瓶のようでひし形の形をしている。

 中には青い液体が入っているようだ。


「これを使ってくれ!」

「お、おう」


 勢いよく俺に手渡してくれた。

 なんかめちゃくちゃ頼りにされてる気がするけど……これ飲んで大丈夫なの?

 ちょっと怖いんですけど。


 まぁ今は緊急事態だ。

 さっさと飲んで火を消火してから、この原因になった人物を絞めよう。

 俺は小瓶の蓋をポンと抜いて一気に中の液体を口に入れる。


「っ!!!!??」


 途端に口の中一杯に生ゴミみたいな匂いが広がった。

 何だこれを思って吐き出そうとするが、一気に飲んでしまった為味を理解する前に飲み込んでしまった。

 くっそまっずい。


「なんっだこれ!?」

「え? マナポーションだ。魔力を回復できる」


 村人は当然のように言い切った。


 違う、聞きたいのはそこじゃないんだ。

 なんでこんなに不味い物が出来上がるのか不思議で敵わない。

 生魚の骨でも媒体にして作ってんのかと思うほど不味い。

 それに加えて匂いも最悪だ。


 明らかに不味そうにえずいている俺に向かって、今度は冒険者がマナポーションを手渡してきた。

 まだ飲めっていうのか……?


「い、いやもう……大丈夫だ」

「何言ってんだ。マナポーションは一本だとちょっとしか回復しないんだ。最低もう一本は飲んでもらわないと」


 何言ってんだこいつと思っていたのだが、ステータスを確認してみるとMPは53までしか上がっていない。

 どうやら一本につき50のMPを回復できるようだ。

 確かにこれならもう一本は飲まないと満足に消火活動はできないだろう。


 だが味を知ってしまえば、今度は覚悟が必要になってくる。

 ポンと栓を抜いたが口につけるのが怖い。

 先程のように一気に飲んでしまえばいいのだろうが……俺は不味いぞ? とマナポーションが言っているような気がする。

 てか言ってる。


 ええい!

 考えてても飲まないと始まらねぇんだ! 飲んでやるよ!


 そしても一本飲み切った。

 ほんとに吐きそう。


「おし! じゃあ頼む!」


 そういって村人と冒険者は走り去っていった。


 あれは何だったんだ……未だに腹の中がグルグルしている。

 ていうか拷問だろ。

 それに加えてもう一回消火活動してこいとかどんな鬼畜だよ。

 俺は覚えたからなあのマナポーション。

 アイツらの顔も覚えたからな!


「あ、兄貴……大丈夫ですか?」

「うっぷ……気持ち悪い……。お前も……飲むときはっ……覚悟しろよ」

「……うっす」


 それからよろよろと火災現場に直行した。

 火はすぐに消し止められ、村人たちが落ち着いたところで、燃えてしまった木や被害の調査報告が始まった。

 俺たちはこの村の者ではないので、そう言ったことはやらなくていい。


 だが村人に会う度にお礼を言われた。

 「貴方がいたおかげで大きな被害が出ずに済みました」とか「助けていただいてありがとうございました」とか「今度宿に泊まるときは割引しますね」とか、本当にいろいろ言われた。

 悪い気分ではなかったが、あしらうのがちょっと大変だったように思う。

 零漸はそれ全てを素直に受け取って嬉しそうにしていた。


 さぁ問題の問題児は何処だ。マジでどこだ。

 お前のせいで俺は消火活動を手伝わされ、挙句の果てにはマナポーションを無理やり飲ませられたのだ。

 お前にも二本くらい飲んでもらうからな。

 さっきお礼を言ってきた人達がマナポーションを俺たちが持っていないという事を話したら、快く十本程度譲り受けた。

 準備は万端だ。

 任せろ絶対に飲ませてやる。


「兄貴~」

「ん?」

「その問題児ってこの規模の炎を操ることができるんですよね? もしかしてアイツよりすごいのでは?」

「アイツってレクアムの事か?」

「あ、そんな名前なんですね」


 そういえば教えてなかったな。

 忘れていた。

 だが確かに零漸の言う通り、ここまで大規模な炎系技能は見たことがない。

 まだこの世界に慣れていないから、これがどれくらいすごいのかはよく分からないが、少なくとも炎系技能が得意だというレクアムよりはすごいと思う。

 火力も十分。

 なんせあのアシドドッグを黒焦げにしているんだ。

 あの量を黒焦げだぞ? 多分すごい奴なんだろうな。


 まぁどんなにすごい奴でもマナポーションは飲ませるけどな!!


 村人のその問題児がどこにいるかを聞いてみると、すぐに居場所はわかった。

 どうやら俺たちが止まっていた宿の外にいるらしい。

 近くにウチカゲとアレナとサテラがいるというのが不安になるが……。

 まぁウチカゲがいるのだから問題ないだろう。


 宿に戻ってみると、確かにそいつはいた。


 ウチカゲが戦闘モードだ。

 珍しい。

 その後ろには興味深そうにその男を見つめているアレナとサテラの姿があった。


 そしてその男なのだが……白い防具に身を包んでおり、燃えるような赤い髪を後ろで束ねている。

 あんな髪の色は今まで見たことがない。

 この世界の住人の髪の毛の色は様々だが、一般的には茶色や金髪……まぁ西洋の髪質に近いのだろうか?

 黒っぽい髪の毛と言うのはあまり見られない。

 明るい髪をした人物が多い。


 だがこの男は明るすぎる。

 どうしてここまで綺麗な赤色が再現できるのか……染めているのだろうか?

 しかしこの世界に髪を染めるなんて方法があるの?


 とは言ってもやることは変わらない。

 俺はその男に近づいて声をかけた。


「おい」

「なにかな?」


 んー無駄に整った顔。

 今すぐぶん殴りたい。


「お前がこの火災を引き起こした犯人か」

「犯人だなんて人聞きの悪い! 私はこの村に攻撃を仕掛けてきた大量のアシドドッグを屠っただけさ!」


 大きく手を広げながら、自分の姿を主張するように立ち回り始めた。

 これから何か演説でも始まるのだろうか。

 と言うかこいつは反省していないらしい。

 それは困ったことだ。

 実に困ったことだ。


「零漸」

「うす」

「閉じ込めろ」

「『エアープリズン』」


 パコンっと可愛らしい音を立てて、正方形の透明な牢屋に赤髪の男は囚われた。

 だが牢屋にいることなど知らない赤髪は、バコンっと思いっきり顔面を壁にぶつけた。


「!? なんだこれは!」

「お前反省していない様だから暫くそのままな」

「なんだと!? ん!? で、出れない!?」


 壁をぺたぺたと触って出口を探しているようだが、零漸もそこまで甘くない。

 小さな小さな通気口だけを作って後は密閉してある。

 これで窒息するなんてことはないだろう。

 火を使わなければ。


「なぜだ!? 私はこの村を助けたのだぞ!? なぜこのような仕打ちを受けなければならないのだ!」

「ど阿呆。お前自分が出した被害ちゃんと目に入ってんのか」

「被害だと? 家と森がちょっと焼けたくらいではないか!」

「……」

「……兄貴。俺こいつ思いっきり殴っていいですか?」


 流石の零漸もご立腹だった。

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