9.30.声たち
なんだか小さな声が聞こえる。
眠い……目を開けることができない……。
だが寝れば時間は一瞬で過ぎ去る。
次に目覚めるときは、過ごしやすい季節になっていることは間違いない。
自分の中にある本能が、そう告げていた。
すると、体を激しく揺すられた。
一人の柔らかい手。
女性のようではあるが、一体誰だろうか。
「──! ──!」
「────!!」
声が何個か聞こえてくる。
一人や二人ではなさそうではあるが、相変わらず良く聞こえない。
水の中に顔を突っ込んで、その中で声を出しているような……。
ここは水の中なのだろうか?
だとすれば自分はどうして息ができているんだ?
んー、これはあれか、昔の俺だからっすかね。
そうか、この夢は昔の俺!
応錬の兄貴と一緒に水の中で生活していたころん名残なのかもしれないっすねー。
いやーそう考えてみると懐かしいっす。
兄貴と離れてから死に物狂いで魔物を食べまくったっすからね。
そんでようやく進化して出てこれたと思ったら、今度は地上の魔物との戦闘っすよ。
あれは結構きつかったっすねー。
何回甲羅をガジガジされた事か。
だが俺の防御力の前ではー、無力ッ!!
非力もいいところっす!
攻撃手段が殆どなかったのは致命的だったっすけどね……。
進化したばっかりで技能整理が追い付かず、魚の時の技能だけで頑張ってたっす。
合成が本当に大切だと知ったのは、その時っすね。
まぁ俺の場合は人間の姿の方が強いんすけどね!
「……!! ……!!」
んぬぅ~?
まーだなんか聞こえるっすねぇ……。
俺は眠いって言ってるじゃないっすか。
邪魔しないで欲しいっす!
でも、なんか忘れている気もするんすよねー。
そういえば俺、何処で寝てたんだっけ?
たーしーかー……あ、クライス王子のところで寝てたっすね!!
「ああああ!! クライス王子との約束ー!!」
「「「「ぅおわああ!?」」」」
「へっ?」
大切な約束をしているのに、寝まくっている事を思い出した俺は上体を思いっきり起こす。
すると、俺を揺すり続けていた四人の人物がそれに驚いた。
何が何だか分からず、とりあえず身を引いて身構える。
だが構えはすぐに解くことになった。
「天の声じゃないっすか! それと……誰っすか?」
「びっくりしたけど……やっと起きたぁ!」
「あれ、ここ……」
見知った人物がいることに安堵したが、周囲を見渡してみるとそこは天の声と話したことのあるスポットライトで照らされている場所だった。
だが応錬の兄貴や鳳炎たちはいないっすね。
俺だけがここに呼ばれたっすか?
てなると、夢を見ている俺はまだ寝ていることになるんすね。
んー、まだ起きれそうにないっすかねぇ……。
どうしても眠くて目が明けられないっす……。
だけど、俺の知らない奴が三人いるっすね。
まずは天の声。
こいつは知っているからいいっす。
一人は牧師のような格好をしている爺さん。
いや、おっさんっていう方がいいっすかね?
全体的に青い服を着ているが、その中に黄色が混じってる。
牧師のような服装であるのにとても奇抜なデザインだという印象を受けた。
もう一人は黒い服を着ていて、服にはバンドやベルトなどといった物が巻き付けられている。
この人物は女性で、服はコートのようなものだが……白い線が所々入っており、時々色を変えているようだ。
黒服の女性の髪の毛はとても長く、膝あたりまではあった。
下に行くにつれてふわっと広がっている。
顔を見てみればきりっとした目をしているが、頑固そうな印象を受ける。
最後の人物は女性であり、灰色の服を着た小柄な女の子だ。
だがその顔は無表情。
何かの精神的な病気なのではないだろうかと思ってしまう程だ。
ロシアの軍帽のようなもこもこした帽子をかぶり、そこからは透き通る白色の髪の毛がちょっとだけ飛び出していた。
服にももこもこが多く付けられている。
そこだけは女の子らしい。
「急に呼び立ててごめんね零漸君! でも緊急だったんだ!」
「何があったんすか? まさか応錬の兄貴たちになにか……!!」
「いや、応錬君たちは無事に悪魔を退けてくれた。だけど今は君自身が危険に晒されているんだ! クライス王子だったっけ? その子も危ない!」
「どういうことっすか!?」
「今から説明するよ!」
すると、天の声は二つのスクリーンを出現させて、映像を映し出す。
その中には俺と、縛られて気絶しているクライス王子の姿があった。
ローブ姿の人物が何人もいて、サレッタナ城の抜け道を使って誘拐を企てているところであった。
場所は水路。
まだ城の地図を頭の中に入れてはいないが……俺であればあの状況を打破することができるっす!
何人いても関係ない!
クライス王子に身代わりという技能を使えば、人質に取られたとしても問題なく暴れることができるっす!
「誘拐犯はバルパン王国の暗殺者たち。明日には飛竜に乗ってクライス王子をバルパン王国に連れて帰ってしまうだろうね」
「じゃあ今しかないっす! 逃げ場の限られている水路なら、相手を全部縛り上げることくらい俺にはできるっすよ!」
「それができないから焦っているんだ……」
「なんでっすか!? ……ッ! 俺、まだ起きられないんすか!?」
その言葉に、天の声は小さく頷く。
一体どれだけ寝れば気が済むんだ自分の体!
ガっと髪の毛を掴んで蹲る。
今回も応錬の兄貴の助けにもならず、ついにはクライス王子までも助けることができない。
今近くにいるのは俺だけなのに……!!
こんな事であれば、進化しておけばよかった。
次起きたらこんなことがない様に、絶対に進化しよう。
俺は、もう進化ができる状態にあるのだ。
今からでもできないか!?
どうしたって俺には進化しか道がない。
今起きているのであれば、体に変化くらい起きて欲しい!
「無理だ」
「っ……」
「そんな朧げな意識で、進化なんてできないよ」
「誰っすか」
「地の声さ」
こいつが……俺の特殊技能の中にある……地の声。
零漸に声をかけてきたのは、バンドやベルトを服に巻き付けている、黒服の女性であった。
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