3.43.全員集合


「はっはっは! こりゃ驚きましたぞ!」

「いや驚いたのはこっちだ! クソ~……せっかく驚かせようとしたのに」

「いやはや、今のだけでも心臓が止まるかと思いましたわい。応錬様は老体にも遠慮がありませぬなぁ」

「おっと……こいつは失礼」


 今は全員が座布団に座り、俺とライキが話している。

 アレナと零漸はどうすればいいのかわからないようで少し縮こまっているが、もう少しだけ待って欲しい。

 侍女であるランは部屋を後にしてお茶を汲みに行っている最中だ。

 デンには姫様とシム、そしてテンダを呼びに行ってもらっている。


「して、応錬様。その者たちは」

「ああ。紹介しよう。零漸」


 零漸は呼ばれるとピシッと姿勢を正した。


「うっす! 零漸です! 今は応錬の兄貴と一緒に旅してます!」

「ほぉ。零漸殿も難しい字を書くのう。わしはこの城の城主、ライキじゃ。さて、お嬢さんは何というのかね?」

「アレナです。Aランク冒険者になるために頑張ってます」

「若いのに良い目標を持っておるな。励めよ」


 ライキはまるで孫を見るかのように優しい目つきで零漸とアレナに接してくれた。

 アレナは少しびくつきながらだったが、ライキに「励めよ」と言われてからは笑顔を見せ始めた。

 ウチカゲ以外の鬼と接するのは初めてなので緊張していたのだろう。


 それに対して零漸は通常運転だ。

 緊張するわけでもなく、いつもの調子で喋っている。

 物怖じしないその精神力は見習いたいものだ。


「ウチカゲ」

「は」

「よく応錬様を連れて戻ってきてくれた。今後ともお守りするように」

「はっ! ……む? と言いますと……」

「? 何を不思議がっておるのじゃ。お主ら冒険者になったのであろう?」


 何故分かったし!?

 いや、ライキはこういう奴だった。

 何も話していないにもかかわらず、既に知っていたかのようにこちらの情報を持っている。

 あの会話の中になにかヒントがあったのだろうか……?


「な、何故お分かりに?」

「む? アレナがAランク冒険者を目指しておると言っておったではないか。ガロット王国や他の国で同じことを言われても「そうか」としか言えぬが、冒険者ギルドのない里に来てそんなことを言う子供が一人というのはおかしいからの。故に、ウチカゲ。お主は応錬様を守るために側にいるのじゃからどこまでもついていくのじゃぞ?」

「はっ!」


 ああ……なるほどね。

 言葉は情報の塊ですね。


「か、貫禄……」


 零漸? それは違うと思うぞ?

 まぁ確かに貫禄はあるけどさ。

 あー……ライキがアスレに言った言葉を零漸が知っていたらさぞ興奮してただろうなー。

 かっこいいーって言っていたに違いない。うん。


 しばらく話をしていると廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

 この軽い足音は……。

 と思ったところでスパーンと襖が勢いよく開けられた。

 額には一本の鮮やかな赤い角が生えており、豪華な色彩の和服を着ている女性が部屋に入ってきた。

 鬼たちの姫様、ヒスイだ。


「応錬様が戻られたって本当ですの!?」


 そう言い周囲にいる人の顔を一人一人確認していく。

 だが姫様の知らない顔が三人。

 そして白蛇がいないという事に気が付くと、すぐにどす黒いオーラを放ち始めた。


「おお、ヒスイ。驚くな、この方が──」

「うぅううちいぃいいかぁぁげぇえええ!」

「!!?」


 姫様はそう言ってウチカゲの首に掴みかかった。

 ウチカゲはどうしていいかわからずただただ狼狽している。

 そんなウチカゲをよそに姫様は今まで見たこともないような表情で怒鳴り始めた。


「応錬様は!? 応錬様は何処におられるのですか!? いないではありませんか! どういうことなのです説明してごらんなさいさぁ!!」

「ちょっ……ひめさ……ひめっぐっ」


 姫様はウチカゲの首を掴んでぶんぶんを振り回している。

 揺さぶっているのではない。

 振り回しているのだ。

 流石鬼と言うべきかなんというか……。


 ってちょ、姫様?

 締まってる。締まってる締まってる。

 ウチカゲの首締まってるから! ちょい待て待て!


「おい姫様! 待て待て!」

「わああん! 応錬様は何処ですのー!」

「……」

「ウチカゲぇ!? 死ぬなよお前! 姫様! 俺だ! 俺が応錬だ!」


 ってなんて力だこの野郎!

 びくともしないどころか俺まで振り回されそうだ!


「嘘ですわ! 応錬様は白蛇なんですのーー!」

「クッソ説明してる時間ねぇか!」


 俺は即座にMPを100使って人間の姿から蛇の姿にモードチェンジ。

 人から蛇に変わっていく姿を見て姫様は目をぱちくりさせていたが、完全に蛇になったところでようやくウチカゲの首に回していた手を離した。

 勿論ウチカゲは既に限界だったようで、手を離されてからは重力に従うようにビタンと倒れた。

 目隠しでわからないが、おそらく白目はむいているだろう。

 すまんウチカゲ。


 姫様は俺を見てブワッと涙をこぼし始めた。

 するとすぐに飛びついてきて俺は押しつぶされてしまった。



 ◆



 落ち着くまで、一時間はかかったはずだ。

 あれからテンダとシムが合流して、零漸とアレナを紹介してやった。

 俺は人の姿に戻って口が利けるようにしている。

 じゃなきゃもう話が進まなさ過ぎてめんどくさい。

 そして姫様は俺から離れようとしない。

 まぁ今日くらいいけどさ。

 だけどね。アレナの機嫌が悪いの。

 マジで。ずっとこっちをジト目で見てくる。


「いやはや……しかし応錬様が人の姿になられているとは驚きました……。これであれば俺ももう一日くらいガロット王国に滞在しておくべきでしたな」

「いや、実はテンダがいるときには既に人間の姿になれたんだ。だがなれるようになった時が時でな。混乱させると思ってやめておいたんだ」

「ああ、いえいえ! 気にしてはおりませんので! それよりウチカゲは粗相をしませんでしたか?」

「逆に助けられてばかりだったぜ」

「……不甲斐ながら……一度死にかけてしまいましたがね」

「気にすんな。でも零漸には感謝しないとな」

「ふふん! 防御力には自信がありありのありなんですよ!」

「……ダズラの口調が移ってんぞ」


 それからは俺たちが見てきたことを話していった。

 鬼たちは誰もがその話を真剣に聞いてくれた。

 特に零漸が助けに来た時の話は大いに盛り上がったな。

 零漸は一気に褒められてなんとも照れ臭そうにしていたが、嬉しそうだった。


 アレナのことについても説明し、俺たち全員でパーティーを組んでその名前を『霊帝』にしたと言う所まで話した。

 冒険者活動はサレッタナ王国で開始する説明すると、ライキが助言を沢山してくれた。

 主に冒険者の心得と言う奴だ。


 ライキは昔から冒険者をしていたようで、魔物や地形のことについてはとても詳しかった。

 とは言っても数百年も前のことであるらしいので、魔物の生息域は変わっているかもしれないとのことだ。

 だがライキは冒険者をしていたといっていても、その頃はまだ人間と亜人が共存していなかった時代。

 なので冒険者と言うより、旅をしていたという方が合っているのかもしれない。


 俺は冒険者をやるからこの里にはずっと滞在できないという事に、何か言われるかと思ったが、別段そんなことはなく、逆に応援されたくらいだ。


 しっかしやっぱりお爺ちゃん。

 話長い。

 所々で空気を読まない零漸が口を挟んでは話の腰を折ってくれなければ、ライキはあのまま話し続けるだろう。

 助かったぜ零漸。


「あ。そうだライキ。俺に装備を見繕ってほしいんだがいいか?」

「勿論。応錬様の装備となれば鍛冶師が腕を振るうでしょうな。どのようなものがよろしいでしょうか」

「うーん、俺としてはウチカゲみたいなガッチガチの鎧は向いてないんだよね。和服にそれとなーく鎧が付いていればそれでいいかな」

「ふむ。ではそう言ったことはシムに聞くのがよいでしょう」

「シムか」

「ふふふ。私、こう見えても鬼たちの装備を一新した発案者なのですよ?」


 それはすごい。

 てことはいまウチカゲが来ている鎧や、テンダがつけている籠手なんかは全部シムがデザインを考えたって事か。

 それだったら任せても大丈夫そうだな。

 俺はシムにお願いして、俺に似合うような和装備を整えてもらうことにした。


「あ、応錬様は武器も欲しいといっておられましたね。槍がよいですか? 刀もありますが」

「刀だな! できれば三尺刀がいい」

「……三尺刀……でありますか?」


 あれ? もしかして鬼たちに三尺刀っていう武器ないの?

 って思って聞いてみたが、そんなことはなかった。

 日本刀より扱いにくい三尺刀をどうしてほしいのか疑問を持たれただけのようだ。


 まぁ普通そうだわな。

 でもな、普段使われているような武器で行くのは面白くないのだ。

 俺は、不遇とされている武器を使いこなしたい!

 鎖鎌もそうだ! てか鎖鎌ってめちゃくちゃ強いからな!

 お前知ってるか!? 武器に鎖と分銅巻き付けられた時の引っ張られる力ってすごいぞ!?

 てか巻きつける前に絶対に体にヒットするから怪我するしな。

 鎖鎌は鎌で戦ってはいけない。

 鎖で戦うのだ。

 だが鎖鎌は防具をした相手にはてんで弱い。

 奇襲で使うからこそ鎖鎌は本来の強さを発揮する。

 利便性を間違え、見る所を間違えればそれは弱い武器だといわれてしまっても仕方がない事ではあるが。


 それに……三尺刀ってなんか響きいいじゃん?

 選んだ理由はそれくらいだけどね。

 でも帯刀した姿はかっこいいのだ。


「わかりました。では三尺刀と小太刀を作らせましょう」

「あ、言っとくけど無駄な装飾はいらねぇからな?」

「ではその様に伝えておきましょうか」


 テンダはそのことを紙に書いていく。

 後聞かれたことは柄の色とかだった。

 俺は全体的に白いから白一色でのオーダーで申し込む。

 シムからも装備のことについて事細かに聞かれたが、これも白色をメインにしてもらうという事で話は通った。

 姫様も何か手伝いたいようだったが、確か姫様は織物ができたはずだ。

 なので俺の服を見繕ってもらうことにした。


 姫様は俺に頼まれ事をされたとすごく嬉しそうにして、すぐにでも取り掛かろうとしていたが、せっかく全員が集合したのだから今日はゆっくりしてくれと言っておいた。


 俺が武器と装備の話を進めている間、零漸とアレナはライキやデン、ランたちと楽しそうに話していた。何とか話の輪に入れたようで安心した。


 そして……夜が来た。

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