10.8.準備


「……知らない?」

「知らん」

「俺も知らないっす」


 悪魔三人はそれに首を傾げた。

 彼らが前鬼の里に行ったということは、イルーザが調べて分かっている。

 それが悪鬼ガラクと連絡がつかなくなったことに繋がるのではないかと聞いてみたのだが、予想と違う答えが返ってきてしまった。


「お前たちは……前鬼の里で何をしていたんだ」

「姫様を助けに行ってたのだ。ああ、ヒスイという鬼の姫である。何かと戦ったのだが……覚えていなくてな」

「……なるほどな……」


 ダチアは今の鳳炎の回答で何かしら腑に落ちたようだった。

 それが何かは分からなかったが、彼らにとっては重要なことなのだろう。


「すまん、引き止めてしまった」

「いや、別にいい。では私はもう行くぞ」

「ああ」


 軽く手を上げて挨拶をしたあと、鳳炎は零漸を引っ張ってイルーザ魔道具店を後にした。

 ダチアとマナは二人が部屋から出ていくと同時に、その場から消え去った。

 最後に一人残ったイルーザが静寂を解除し、小さく息を吐く。


 今回は自分も何かできるかもしれない。

 そう思って帽子をかぶり直したあと、部屋を出て今まで作っていた魔道具の整理をしに向かった。



 ◆



 鳳炎は再び零漸を掴んで空中を飛んでいる。

 やはりこの方が移動が速くて便利だ。


「……帰って来て早々、やることが増えたな……」

「しゃーねーっすよ。あ、そういえばなんであいつらの名前って口にしちゃいけないんすかね」

「本当は聞こうと思ったのだが、多分答えられない内容だからな。聞けばまた何か遠まわしに知らないと言わなければならないだろうし、聞かなかったのだ」

「俺、絶対悪魔と会話できる気しないっす」

「こういうのはできる奴に任せておけばいい。お前の出鱈目な防御力もこれから重宝するから頼むぞ?」

「任せるっすよー!! 今度は役に立つっすー!!」

「暴れるな……」


 手足をブンブン振り回してやる気を表現してくれている。

 だが今は空を飛んでいるので激しく動くのは止めて欲しい。


 さて、まずは皆と合流してこの事を共有しなければならない。

 それからガロッド王国に行き、国王であるアスレに話を通す。

 零漸、ウチカゲ、アレナが面識を持っているので、恐らく向こうも対応をしてくれるだろう。


「あとは移動手段であるな……」

「向こうまで結構時間かかるっすからね。でもラックを使えば一瞬っす」

「これだけの人数をラックだけで運ぶのは無理だ。騎竜とバトルホースを使う方が良い」

「確かに……。で、応錬の兄貴はどうするつもりっすか?」

「置いて行く」

「うぇ!?」


 起きるのを待つというのは現実的ではない。

 いつ目が覚めるかもわからない奴を待って解決を先延ばしにすれば手遅れになる可能性が出てくる。

 それだけは避けたいところだ。


 それに、応錬がいなくても戦闘面に特化した仲間たちは多い。

 加えて近くには前鬼の里もあるのだ。

 話を通せば協力してくれるはずなので、戦力としては申し分ないだろう。


 次の目標がガロット王国だからよかったが、他の場所であれば新しい戦力を何処からか調達しなければならないところだった。

 それにアスレは応錬やウチカゲと親しい間柄だ。

 今回の話も馬鹿にせずに聞いてくれるだろう。


「で、でも鳳炎! 誰かがいないともし応錬の兄貴が起きた時困るっすよ!」

「……そうだな。その辺はイルーザに……とでも思っていたのだが、悪魔だから期待ができなくなった。今仲間にしている者たちはできるだけ連れていきたい。……これは私が残る方がいいか」

「それは俺も同感っす。全部知ってる鳳炎が残った方が良いっすよ。ラックに乗れば二日で合流できるっすしね」

「何も問題がなければの話だがな……」

「んじゃ、まずは移動手段の確保っすよ! 昨日の今日で申し訳ないっすけど、騎竜とバトルホースにはもう一肌脱いでもらうっすー!」

「元よりそのつもりだ」

「……そういえばこっち宿の方向じゃないっす!!」


 ふと思ったのだが、サレッタナ王国からガロット王国までは八日だ。

 飛竜であるラックはそれを二日で飛ぶのだが……。

 騎竜とバトルホースの走る速度を見ていたせいか、なんだか遅く感じてしまう。

 一日で飛び切ることもできるとは思うのだが……今そのことは置いておこう。


 それから少し飛び続け、鳳炎は騎竜とバトルホースたちがいるであろう場所にやってきた。

 騎竜とバトルホース、そして飛竜が日を浴びて気持ちよさそうに寝ている。

 長旅で疲れたのだろう。

 まだ満足はしていなさそうだったが。


 ゆっくりと降下して、まずは零漸を下す。

 それから周囲を確認するのだが、今ここにローズやユリーはいないらしい。

 買い出しにでも行ったのだろうか?


 音に気付いたのか、飛竜のラックがのそりと首を持ち上げる。


「グル?」

「起こしたであるか?」

「グルル」

「お前ももう少ししたら仕事をしてもらうぞ」


 ラックは大きく首を縦に振った。

 人の言葉を理解できるというのはなんとも凄いものだ。


「ローズはどこだ?」

「ガルッ」

「知らないか。じゃあ少し待たせてもらうとしよう」


 話は彼女たちが来てからだ。

 鳳炎はその場に座り、ようやく一息つく。

 自分も長旅で疲れていたようで、気を抜くと一気に眠気が襲ってきた。

 まぁ少しくらいならいいかと思い、鳳炎も騎竜たちと一緒に少しだけ眠ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る