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「鳳炎、起きるっすよー」
「……む」
少し寝るだけのつもりだったが、起こされるまで起きられなかった。
中途半端な睡眠は再び眠気を誘って来るが、今はそれを振り払って立ち上がる。
自分が寝ている間に、既に全員がこの場に集まっていた。
零漸がユリーとローズと合流後、全員を呼んできたらしいのだ。
これはありがたい。
そう思いながら、目を擦ってもう一度眠気を飛ばす。
「昨日の今日でよくもまぁ情報を集められるわね」
「すまんなマリアギルドマスター。休んでほしかったが、それはもう少し先になりそうだ」
「激務なんて日常茶飯事よ。で、何を掴んできたの?」
「……悪魔と接触した」
鳳炎の言葉に全員が驚くのは不思議なことではない。
これが普通の反応だ。
だがそれに一々反応しているのも面倒なので、先ほどあったことをすべて全員に伝えた。
イルーザが悪魔であったことにウチカゲはさらに驚いていたようだった。
そんな身近に悪魔がいるとは思わなかったのだろう。
「……で、次はガロット王国? んでもって邪神復活を私たちが?」
「その通りである」
「でもでも鳳炎。そんな簡単にできるものなの?」
「アレナの言う通り、簡単にできるものではない。本当のやり方は分からないが、今から話す三つの方法のいずれかが邪神復活阻止の方法に繋がっているはずである」
一つは、人々の移動。
一つは、魂の献上。
一つは、魔力の消費。
一番初めの方法は明確な理由がない。
なのでこれは最後に試す物として、残りの二つの方法をガロット王国で試してみる。
一番準備のかかる魂の献上。
これを手始めにやってみて、次に魔力の消費。
最後に人々を移動させてみるという手段を取る。
大量の獲物を取ってこなければならないというのネックだが、国中の冒険者を使えば不可能ではない。
魔物を生け捕りにし、ガロット王国内で殺して魂を解放する。
残酷な方法かもしれないが、これが一番可能性がある。
どれだけの魂を使えばいいのか分からないので、これは長期の作戦となる可能性が高い。
魔力の消費は同時進行でできると思うので、獲物を確保しながら多くの人々に手伝ってもらって魔法を使用してもらう。
「国民の移動は最後でいいだろう。確率も低いだろうしな……」
「……あの~……」
「む? どうしたローズ」
「いや、あのですね……とーっても言いにくいんですけど……。馬車の修理に最低でも五日かかります……」
「ん!?」
騎竜用の馬車というのは普通の物と比べて少し大きい。
使っている木材もそれなりに大きく削りだして使っているのだが、あの速度で往復十日の道を走り抜いたのだ。
ガタがきていないわけがない。
ここに鳳炎が来た時、ローズとユリーがいなかったのは馬車の点検をしてもらうため、少し出払っていたからだ。
あのまま走らせ続けると確実に何処かで大破してしまう恐れがあったので今は修理に回している。
本当は一台だけでよかったのだが、バトルホースも参戦したため予備の馬車も使ってしまった。
同じ様に十日走り続けたのでガタがきており、こちらも修理の対象となる。
逆に十日間良く持った方……らしい。
「移動手段が……」
「馬車の足周りの部品は全部取り替えらしいです。結構割れていたり、摩擦熱で焼けているところも見受けられたらしいので……」
「ラックは乗れたとしても三人……。シャドーウルフを使っても時間が掛かりそう……」
「無難に馬車で一週間走っていった方が早いかもしれないわね」
修理を待つよりは、今日にでも出発してできるだけ時間を節約したいところだ。
ラックを往復させるという手もあるが、何度も往復させるよりは一気に全員で行った方が効率的だし、作戦も練ることができる。
シャドーウルフも流石に片道八日の道のりを走り抜けるのには時間が掛かるし、抜け道を繋げるのにも相当な時間が掛かるので現実的ではないようだ。
やはりここはユリーの言った通り、無難に馬車で向かった方が良いだろう。
「まぁ仕方がないな……。普通の馬車で向かうことにしよう。ちなみに私は応錬が目覚めるまでここに残る」
「アレナも残る!」
「君は行くんだ。バミル領の手も借りるかもしれないからな。ここに残るのは私だけで充分である」
アレナは不貞腐れていたが、戦力はできるだけ作戦地へと送っておきたい。
今はここに居ても、彼女の力は発揮できないだろう。
渋々といった様子で了承したアレナを見たあと、今度はウチカゲを見る。
「ウチカゲ、君は前鬼の里に協力要請を。そのあとアスレとの協力を取り次いでもらいたい」
「承知しました。では俺は先に向かった方がいいですね」
「ああ、頼む。他の者はこれから馬車で移動だ。ローズ、応錬が起きたらラックを借りたい」
「いいですよ。遅れてもらっては困りますからね」
「すまん。では皆、頼んだぞ」
ウチカゲはその場からすぐに消える。
他の者たちも準備を整えるために動くが、マリアだけはこちらに近づいてきた。
何か話があるらしい。
「鳳炎……クライス王子の件なんだけど……」
「ああ、どうだったのであるか?」
「今は城の中で大人しくしてもらってる。国王もよくやったと褒めてくださったんだけど……」
「どうした」
「驚かないでね? ……バルパン王国が休戦の申し出をしてきたの」
「……早くないか? 普通なら最低でも……」
「二十日はかかるはず」
休戦の申し出というのも可笑しな話だ。
向こうから吹っかけてきてそれはないだろうと思う。
もちろんサレッタナ王国の国王はそれに従う気は一切ないらしく、今は兵を集めて戦争の準備を調えている。
だが問題はそこじゃない。
これはなんとなく分かった話だ。
問題なのは、何故自分たちよりも早くその書面がこちらに届いているか、である。
こうなることを事前に予測して、使者を待機させていたとは考えにくい。
クライス王子を逃がしてしまったあとで書面を書いたのが普通である。
「いやまさか……」
「これ、バルパン王国にも誰か向かっておいた方がいいわ。鳳炎君の話だと、悪魔に見せてもらった地図の中にあるバルパン王国はバツマークが書かれてなかったんでしょう?」
「それはいいのだが、すぐに連絡が取れないだろう?」
「連絡水晶を一セット持ってるから、それをシャドーアイに渡しておくわ。二度手間になって申し訳ないけどね。ということで頼むわよシャドーアイ」
「「「はっ!」」」
マリアは魔道具袋から一つの水晶を取り出し、それをビッドに手渡した。
丁寧に魔道具袋に仕舞ったあと、三人はシャドーウルフに乗って再びバルパン王国へと向かっていった。
「ではあっちは任せよう。シャドーウルフなら騎竜とバトルホースほどではないが普通より早く到着するだろう」
「そうね。君は応錬君をよろしくね」
◆
「……と、ここまでが皆がいない理由である」
「俺が寝ている間にめっちゃ話進んでる……ごめんなさい……」
「でだ……! これからが貴様の問題となった無意識に起った進化だがなぁ……!!」
「それは詳しく聞きたい……でも怒らないで……悪気はないから……」
いや、うん……。
ごめんて……。
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