10.10.急ぎ向かう


 多分、俺が無意識に進化したことによって鳳炎に多大なる迷惑をかけた……んだろうな!

 うん!

 いやだからすいませんそんなに睨まないで……。


 でも当時の状況は気になる。

 こればかりは話してもらわないと……。


「まず……お前は五日前に進化した」

「五日か……」

「それも宿で多くの人が休んでいる時に……」

「まっ!? え、だだ、大丈夫だったのか!?」

「んわなけなかろうがぼけぇ!!」

「そうっすよねすいませんっしたああああ!!」


 そりゃそうだよね!

 だって俺が寝ていた所全部ぶっ壊れてたもん!

 なんかお腹痛いなーって思ってたけどそれ全部元宿屋の瓦礫だったわけだしね!

 その上で五日間も寝る俺ってどういう神経してんだマジで。


「あの時は本当に驚いた。お前が寝ている部屋に戻ったら白い肉塊がどんどん膨らんでいたんだから」

「いやきっも!!!! それ本当に俺!!!?」

「お前だよ。邪神の件もあるし、何かしら奴らが仕組んだとすぐに思いいたったが、それよりもまずは宿にいる人達の避難を優先させた。名目は空から魔物が降ってくるってことで片付けたが」

「それ信じたのか……」

「まぁ全員が宿から出た瞬間、お前が爆発的にデカくなって宿を完全に破壊したからな。この五日間本当に大変だったんだぞ……」


 白い龍。

 まぁ龍という存在がこの世界で認知されているわけがなく、大騒ぎとなったようだ。

 冒険者が集まり、国の研究機関が調査と言って調べはじめたりとなかなか大変だったが、それを鳳炎がすべて止めてくれたらしい。

 いや頭が上がりませんわ……。


 寝ているし今のところ害はないとして、とりあえず鳳炎の権限でその場を取り仕切った。

 宿は応錬が持っていた魔道具袋の中から財布を取り出して弁償はできたらしい。

 あのお金結局使いきれなかったもんな……。


「はぁ……。まぁ終わったことはいい。とりあえず今の現状もお前に話した。邪神の詳しい説明は道中で行う。まずは皆と合流することを目的として動こう」

「あ、ああ……。……イルーザ」

「なんでしょう?」

「子供たちにこのことは」

「今はまだ。でも私たちの存在が正しく認識されるのであれば、伝えようかと」

「そう、か」


 今の状態で伝えられるわけがないもんな。

 怖がらせちゃうだろうし。


 ……ああ、そうか。

 日輪も、自分が声を連れてきたことに対して責任を感じていたのかもしれないな。

 あいつらは俺たちに干渉してこの世界に何とか存在している。

 俺たちがいなければ、あいつらもここには来れなかっただろう。

 ……何とかしなければな。


「よし、行こう」

「ああ」

「あ、すいません。少々お待ちください」


 イルーザが俺たちを止め、帽子をかぶり直して部屋の奥へと走っていく。

 しばらくして戻ってくると、彼女の手には二つの魔道具が握られていた。

 それを俺と鳳炎に手渡してくる。


 一つはお守りの様なものだ。

 この世界では初めて見る形だったが、それには見覚えがある。

 勾玉。

 青い宝石を勾玉の形に加工しているらしい。

 首にぶら下げられるように紐も通されていた。


 もう一つはリングだ。

 手首に付けるもののようで、これは自動で手首にフィットするようになっているらしい。


「これはなんであるか?」

「手首に付けてもらったリングは防御魔法が付与されている魔道具です。魔力を籠めることで一定時間シールドを展開します。そして石は……秘密です」

「ひ、秘密? ここで?」

「応錬。これは恐らく邪神に対抗するための何かだ。貰っておこう」

「それ作れるってすげぇな……。まぁ質問はしないでおくよ。んじゃ、ありがたく」


 勾玉を首にかけたあと、俺たちはイルーザ魔道具店を後にした。

 すぐにラックがいる場所へと向かう。


 鳳炎が空を飛んだので、俺も多連水操を使って空を飛ぶ。

 これが結構便利。

 槍を何本か合わせて足場にするの、なんで思いつかなかったんだろう。

 これなら常にぶら下がる必要ないのにね。


 でもバランスが悪いので、最低でも一本は頭上に展開してそれを握っておく。

 落ちるの怖いから……。


「なかなか面白い飛び方をするな」

「さっき思いついたんだけどな! で、俺たちはラックに乗っていけばいいのか?」

「そうだ。向こうではすでに作戦は始まっているはずである。合流して状況を聞きに行こう」

「二日はかかるだろうけどねー」

「……多分だが、ラックは本気で飛んでいないぞ?」

「えぇ……?」


 た、確かに手加減して飛んでいるとは聞いたことがあったけども……。

 いや待って、あれ以上素早く飛ばれたら俺の体もげちゃう。

 それは勘弁してくださいませ。


 でも一日で到着するんだったら、そっちの方が断然いいよな。

 あとで話を聞いてみることにするか。

 ていうか俺が龍になればいい話なんだろうけど……。


「んー」

「どうした」

「いや、俺たちって魔物じゃん? でもあんまり魔物の姿使いこなせてないなーって思って」

「人たちの世界に入り込んでいるのだ。その辺はもう諦めろ」

「それもそうか……」

「……にしても……羨ましい! なぜお前が龍なのだ!!」

「え!? 今!?」


 知りませんがな!!

 鳳炎の不死鳥も捨てがたいとは思いますよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る