10.7.能力開示
鳳炎の言葉を聞いた二人は、ばっと顔を上げた。
とても安心しているといった表情だ。
もとより断るつもりなど毛頭なかったので、逆にこの反応に少し驚いた。
「安心するところであったか?」
「当たり前だ……。俺たちが……俺たちが……くっ」
「言えないのであれば無理はするな。なんとなく分かった」
悪魔は辛かったのだ。
それくらいは分かる。
それをこちらに押し付けたから安堵したのではなく、これ以上犠牲を出さずに済むかもしれないということに安堵したのだろう。
彼らは、期待してくれているのだ。
であればそれに応えるしかないだろう。
こちらとしても多くの犠牲が出るのはもう見ていられない。
今鳳炎が考えている策をすべて試してみて、声復活を阻止することにする。
であれば話を進めなければならない。
鳳炎はダチアに問う。
「……日時は」
「早いほどいい。俺たちもついていくが、手伝うことはできなさそうだ」
「分かっている。まぁなんとかなる」
「すまない……」
これが彼らの限界なのだ。
そこは分かってあげなければならないだろう。
「お前たちなら成せるはずだ……あの時とは違ってな……」
「ずいぶん古い話を持ってきたな」
「……知っているのか?」
「ああ」
鳳炎は本を一冊取り出す。
意味なき戦争と書かれた本だ。
それを見た三人は目を見開いて驚いていた。
「こっ!? これは……!!」
「知っているのか?」
「良くここまで……残っていたものだ……」
五百年前に書かれた書物。
これが残っているというのは驚きでしかないだろう。
それを大切そうに持ったマナは、悲しい顔をして俯いた。
思い入れのある品物なのかもしれない。
ダチアがそっとマナの背をさすったあと、鳳炎に向きなおる。
「……すまない生まれ変わりよ。これを貰ってもよいだろうか?」
「構わないぞ。あと……生まれ変わりというのはよすのだ。私のことは鳳炎でいい」
「そうか。悪かった、鳳炎」
四人のことを同じように呼ばれ続けるのはなんとも妙な感じがする。
ここは普通に名前で呼んでもらいたい。
「さて……零漸。行くか」
「え? もも、もうっすか!? まだ応錬の兄貴が起きてないっすよ!?」
「あいつが起きるのを待っていたら手遅れになる可能性がある。ああ、そうだダチア。君たちはどうやって襲う場所を決めていたのだ?」
「仲間にダロスライナという上位悪魔がいる。あいつは次に襲わなければならない場所が分かるんだ」
「……バミル領は二度襲われたが、その理由は答えられるか?」
「くだらないことを聞くのは時間の無駄だ」
「教えられない……か。すまん、悪かった」
「構わない」
この会話にも慣れてきた。
こちらが質問をしてしまったせいでダチアは今の様に答えるしかなかったのだろう。
首を横に振ったり何も言わなかったりすると、それは肯定となる。
嫌味ったらしく聞こえる風な回答しかできないのは、仕方ない。
自分も少し軽率だったと思いながら、鳳炎は立ち上がる。
早く動かなければならないのであれば、早急に仲間を集めて今の話を共有しなければならない。
だがそこで、ダチアが声をかけた。
「……参考までに、この場にいる三人の能力を教えておこう」
「いいのか?」
「自分の弱点を晒すのだ。止められる筈がない」
「なるほど」
悪魔の技能は基本的に奇妙な物が多い。
それを少しでも知ることができれば、使うことができるかもしれない。
有難い話だと思いながら、ダチアが自分の能力を開示するのを待った。
「俺の技能は……これだ」
「……サイコロっすか? あ、あれ? でもこれ六面じゃないっす」
「これもサイコロの一種だよ。私はこういうのをダイスというけどね。で、これが技能だって?」
「ああ。俺はダイスと呼ぶが……出た目によって俺の能力の強さが決まる」
「は?」
「自分の身体能力の場合は出目が高ければ強くなる。デバフ技能を解除したり、技を発動させたりする場合は、出目が低ければ強力になるというものだ」
「訳分かんないっす」
いってしまえば博打技能。
何回でも振れる技能ではないらしいが、技に関しては攻撃する度に振るらしいので効果は様々なのだとか。
「そうか、あの時アレナの技能を解除したのは……」
「そういうことだ。鬼の攻撃を受け止めたのは、俺が既に自身を強化していたからだ。普通はあの半分以下の力しかない」
「うえ!? そそ、そんなに変わるんすか!?」
「強化するステータスを防御力にして、いい出目が出れば零漸……だったな。お前の防御力と同等になる」
「はぁー……」
いい出目が出れば、恐らくこの場にいる誰よりも強くなることができるのだろう。
とんでもない技能だ。
鳳炎は少し呆れる。
彼の特異能力はこれだけだが、魔法や攻撃技能はもう少しバリエーションがあるそうだ。
だがそれ程特殊なものでもないため、説明は省かれた。
「では次は私が」
「イルーザか。魔道具の制作といったところか?」
「いえ、違います。私の特異技能は魔力コントロール……」
「あれ、普通っすね」
「因みに私が魔術の開発者です」
「んん!?」
技能を改変して使うのが魔術。
原理は分からないが魔法技能とは違うものであり、一つの技能から何十種類もの魔法を作り出すことができる。
身近な存在でいえばローズだ。
彼女は水弾という技能しか持っていないが、魔術でそれを改変して様々な魔法を使う。
水系魔法であるのには変わりがないのだが、その威力はSランク冒険者になれる程なのだ。
極めることができればそこまで行くことができるという証明となっている。
その開祖がイルーザだというのだ。
彼女も悪魔なので長生きをしているのだろうが、自分の特異技能を誰でも使えるようにしたというのは驚きである。
「やるっすね魔女っ子……」
「魔道具に関しては趣味だったんですけど、いつからかダチア様に認められて今では日用品から戦闘用の魔道具まで色々作れます」
「テキルに勝てるっすかね」
「……誰ですか……?」
話題を広げるんじゃないと鳳炎は零漸を小突く。
意味はまったく伝わらなかったようだが、これが平常運転なので問題はない。
そもそも防御力が高すぎて小突いたことすら気付いていないだろう。
逆に自分の肘が痛かったと、鳳炎は腕をさすった。
(くそ……)
「最後に私は……。すべてを作り替える技能を持っているの」
「……え?」
「言葉通りの意味よ。戦闘系技能ではないけど……」
マナは先ほどイルーザがどかした茶菓子を一つ摘まみ上げた。
それを握りつぶす。
「『
手を広げると、そこには茶菓子ではなく小さな木の実があった。
まったく別のものが作り出されたらしい。
もう一度握りつぶし、同じように技能を呟く。
再び広げられた手の中には、金貨が乗っかっていた。
「使い勝手が悪そうっすね」
「零漸、やはり君は馬鹿だな……」
「なんでっすか!?」
「この技能、生物にも使えるのだろう?」
「その通りよ」
「え!?」
破壊し、作り直す。
それに制限はなく、触れたものすべてが思い通りのものになるという技能。
鳳炎の持っている絶炎と同じような技能だ。
当たれば勝ち。
万物を作り替えることができる技能はそれほどにまで恐ろしくなる。
ルリムコオスの事象を破壊できる技能。
マナの万物を作り替えることができる技能。
ダチアの出目によって能力が変わる技能。
どれをとっても脅威だ。
悪魔がなぜここまで恐ろしく強い技能を持っているのかは分からない。
これも何か理由がありそうではあるが、今新しい謎を深堀するのは止めておこう。
大体の能力は見ることができた。
使えるかどうかは分からないが、覚えて置いて損はないだろう。
「参考になった。私たちはもう行こうと思うが、君たちはどうする?」
「ガロット王国へ向かう。だが姿は現すことができない……。お前たちに任せるつもりだからな」
「分かった」
「……そうだ、最後に聞きたい」
「なんだ?」
「ガラクはどうなった?」
「……誰のことだ?」
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