9.6.裏切り?
目が覚めると、そこはいつも俺たちが泊まっていた宿の天井が見えた。
どうしてこんな所にいるのかと思って、とりあえず状態を起こす。
「んぐ!?」
いってぇえええ!!
か、回復水回復水……!
「びっくりした……あ」
そうか、俺たちあの羽休めで襲撃されたんだった。
やられたけど、俺は殺されなかったようだな。
とりあえず傷は塞がってるし、今の回復水で悪いところは大体治したはずだ。
うん、大丈夫。
今は誰もいないけど……誰が運んでくれたのだろうか。
いや、そんな事より……。
「あれ、零漸だったよな……」
最後に見たあの顔。
黒い短髪にあの目。
俺が見間違えるはずがないんだよな。
というかあの後どうなったんだ?
誰かいないのか?
そう思ってまずは操り霞を展開する。
すると、誰かがこの部屋に向かって歩いてきていたようで、すぐに扉が開かれた。
シルエットからして分かってはいたが、入ってきたのは一番状況をうまく教えてくれそうなウチカゲである。
「応錬様! お目覚めになられましたか!」
「ああ。すまんな、心配かけた」
「お怪我の方は?」
「今治したからもう大丈夫だ」
そう言ってポンポンと腹を軽く叩く。
誰かが治療してくれたのか、外部の傷はもうない。
後で礼を言っておかなければならないな。
さて、とりあえずウチカゲも来たことだし、あの後の状況を聞きたい。
「なぁ。あれからどうなった」
「はい。零漸殿と思われるローブ男は、俺と対峙していたローブ女を抱えて何処かに行ってしまいました」
「お前も気が付いていたか……」
「はい。爆拳とあの体捌き……。零漸殿の動きで間違いないかと。加えてこちらに怪我人は応錬様以外いませんでした」
「そうか」
そこまで分かっているのであれば、気を使って話をする必要はないだろう。
確かに思い出してみれば、俺の攻撃を受け流して足払いをかけたあの動きは、確かに零漸の地身尚拳であったように思える。
あいつの動きはダンジョンや冒険者とのいざこざの時によく見ていたから覚えているのだ。
しかし、どうしてあいつが俺たちを襲撃したんだ?
他の仲間たちはさすがに誰だかわからなかったが……。
「何か理由があるはずだ」
「俺もそう思って、調べてきました。応錬様、少し覚悟して聞いてください」
「……なんだ」
「クライス王子が誘拐されました」
「あの、あの王子が!?」
「はい。誘拐したのはバルパン王国の者であると調べが付いているようです」
これは今のところ関係者しか知らないことなのだが、実力のある者たちにはこの事が知らされていた。
なのでギルドマスターは勿論のこと、Sランクである雷弓の二人にもこの話は伝わっている。
俺たちには零漸が居なくなったということと、クライス王子が居なくなったことに関して何か関係があるのではないだろうかということで、今回の話を伝えられたらしい。
もう戦争の構えに入っているので、このことがサレッタナ国民に知れ渡るのも時間の問題ではあるだろうが。
その前からウチカゲは調べていたので、この話は知っていたようだ。
鳳炎もであるが。
その間に鳳炎をとりあえず診療所に連れて行き、イルーザのところにも連れて行ったということだったが、やはり記憶を取り戻す良い方法、そういった技能を持っている人物の知り合いはいないということだ。
「待って待って? 俺どれくらい寝てた?」
「三日です」
「ファッツ」
三日ぁ!?
俺の回復速度おっそくねぇか!?
おい天の声、これどうなってんだ!!
【……】
あー、はいそうですか。
「俺たちでやれることはやっておきました。ですが今回、記憶を取り戻す云々よりも零漸殿のことを何とかしなければならなさそうです」
「だな……」
あいつがそう簡単に俺たちを裏切るとは思えない。
というかもう、あいつが俺たちを襲った理由なんて見当がついている。
「クライス王子を、人質にされたか」
「その可能性が一番高いですね。貴族の間で零漸殿とクライス王子の噂は他国まで広がっていたようです。クライス王子を人質にすれば、零漸殿が手を出すことができないと知っていたのでしょう」
「まぁ確かにあいつら目立つ関係だったもんな……」
普通の冒険者が王族の部屋に泊ること自体おかしなことなのだ。
それが噂にならないはずがない。
貴族とかは噂好きそうだもんな。
もう少し詳しく話を聞いてみれば、クライス王子の父親、クラウス王は意外にも二人の関係を認めていたらしい。
そういや一回も会ってないな。
いや別に会おうとも思わないけどさ……。
話を戻すが、メイドや執事の中でもこの話は上がっている。
そこから様々なところに伝播してサレッタナ国民にも伝わった。
そうなってくると、他の国に王子が誘拐されたという情報が伝わるのも時間の問題だ。
零漸とクライス王子が出会ってから大体三ヵ月。
他国がこのことを知っていてもおかしくはない話である。
簡単に利用されたんだな。
「で、バルパン王国って?」
「はい。ここサレッタナ王国から二十日ほど移動した場所にある大きな国です。どうしてこのようなことをしたのかは皆目見当がつきませんが、このままでは確実に戦争が始まるでしょう」
「……で、零漸が今敵側にいると」
「そうなりますね」
「厄介すぎないか……?」
「対処できるのは応錬様だけでしょうからね」
あいつの防御力は折り紙付きだ。
五十枚くらい折り紙を折ってもいいくらい。
何を言っているのか良く分からないが俺も分からないので安心して欲しい。
俺は防御貫通を持っているので、零漸との戦いになれば有効打を与えることはできる。
他の者ではかすり傷一つ与えることができないだろう。
「……しかし、あいつ結構本気だったよな」
「ですね。ローブ女に身代わりを使っていた様ですし」
「……あいつ生きてんのか」
「はい。私も仕留めたと思ったのですが、応錬様が倒れた時に零漸殿も撤退しまして。追撃はしましたが全部の攻撃弾かれまして……」
「追いかけていったら、零漸がそのローブ女を担ぎ上げて逃げていったと」
「はい。爆拳での移動でした」
「懐かしい移動方法だな」
俺を助けに来てくれた時も、爆拳でこっちに飛んできてくれたんだったか。
しっかしこれは……。
「零漸との戦闘は、避けられそうにないな……」
「そう、ですね」
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