9.7.整理
まずは整理だ……。
今起こっている事としては、クライス王子がバルパン王国に攫われており、それを人質にされた零漸が俺たちと敵対している。
そしてクライス王子を奪還するために戦争が行われそうである、というところか。
悪魔のことについては一度後回しだ。
今のところ情報もないし、こっちの問題を解決しなければならないからな。
とりあえず敵ではない、ということを念頭には置いておくが。
で、戦争なのだが、サレッタナ王国は未だにそれに踏み切れないでいるらしい。
その理由としては、やはりクライス王子が人質に取られているというところが大きい。
戦争を開始した瞬間、殺されるとも限らないからな……。
まずは何が目的なのかを聞こうという慎重派と、強引にでも取り返そうという過激派で議論が行われているようだ。
まぁ本当に戦争をする気かは分からないが、誘拐されたのだからそういう構えは見せておく必要があるだろうな。
バルパン王国のやったことに対して冷静でいられる者はなかなかいないかもしれないけどね。
なんせ王子だ。
国家の問題に直接かかわってくる可能性があるのだから、過激派の言うことも良く分かる。
そこで提案されたのが……隠密での救出。
こちらも同じやり方で誘拐されてしまったのだ。
やり返すくらいの気持ちで行けばそれでいいとは思う。
で、その人選選びに……。
「俺たちと雷弓が?」
「もう話を聞いている者たちですからね。俺は役に立てますよ。応錬様も同じ技能を持っておられますし、問題はないかと」
「アレナと鳳炎はどうするつもりだ?」
「軍隊の中に紛れ込ませる、というのが俺の考えなのですけど……。軍隊を用意した時点で殺されても不思議ではないですからね」
「だが交渉材料なんだ。すぐには殺しはしないだろうよ」
「そうだといいのですが……如何せん相手方の目的が分かりませんので」
「それもそうか……」
確かに目的が分からないのであれば、下手に動いてはいけないな。
しかしサレッタナ王国が救出目的で交渉するのであれば、圧倒的に不利なのはこちら側だ。
王族の大事なご子息。
よくもまぁ誘拐という大胆なことを思いついたものだ。
「まだ、相手の要求は分からないのか?」
「はい。移動だけで時間がかかりますからね」
片道二十日程度だったっけ?
そりゃ確かに情報が届くのも遅いはずだよ。
……しかし、あのローブを着た人物たちはバルパン王国の兵。
戦争が始まる前に、俺たちは一度襲撃を受けているぞ。
それも狙ったように。
零漸が脅されて何か情報を教えてしまったか?
その可能性もあるな……。
「なぁ、ウチカゲ。あいつ本気で殺しにかかってきてたよな」
「……はい」
「いくら脅されていたとはいえ、そこまでするものか?」
「…………俺には分かりかねます。実際に戦ってはいませんので」
「あれ、でも追撃したって……」
「相手にもされませんでしたよ」
ま、それもそうか……。
それじゃ戦った、とは言えないだろうからな。
しっかし参ったな……これじゃ俺たちがクライス王子奪還作戦に行くことが決定してしまう。
零漸の方を何とかしたいのだが……まぁそうなるとやはりクライス王子を助けに行かなければならなくなるか。
だが相手が早々に俺たちのことを諦めて逃げるとは思えない。
せめて一人でも始末する腹積もりだろうし、警戒はしておかないとな。
「そうだ。ウチカゲが戦ったあのローブ女。あれは……」
「どうやら自己強化の技能と、相手に弱体化の効果を付与する技能を持っているらしいです。鬼人瞬脚を使っても拮抗していましたからね。後でアレナに俺の動きが遅くなっていたと教えてもらいました」
「そういうことか……。弱体化は面倒くさそうだな」
「速度だけしか落とせないものだとは思いますが、それでも十分脅威です。対峙するときは気を付けてください」
「だな」
この三日間襲われなかったことが奇跡だな。
相手もこちらの寝泊まりしている場所は把握していなかったか?
だが暗殺者だろうし、そういった類のことを調べるのはお手のものだろう。
となると戦力の補充かもしれないな。
というか全員が集まっているところで戦いを挑むこと自体おかしいんだよ。
俺負けたけどね。
……零漸の技能に頼っての作戦だったのかもしれないな。
兎にも角にも、まずはユリーやローズたちとも話をしなければな。
「ウチカゲ。あいつらがどこにいるか分かるか?」
「今はギルドでマリアギルドマスターと話をしている最中だと思います。向かわれますか?」
「ああ。できればマリアも引き抜こう」
俺でなければ、零漸は止められないだろうからな。
できる限りの時間稼ぎをしてもらう必要があるんだから。
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