9.8.ギルドにて会議


 宿屋を出てギルドに向かった俺とウチカゲ。

 とりあえず俺は操り霞の範囲を広げて、何処に行くにしても警戒を怠らないようにしておく。


 ちなみに、今アレナと鳳炎はサレッタナ城に行って調べ物をしているらしい。

 鳳炎が調べ役で、アレナが護衛だ。

 アレナの技能であれば相手の動きを封じることができる、という理由で同行している。


 調べていることはバルパン王国の暗殺者が侵入してきた経路。

 今のところ誰もそれを見ていないし、どうやって入って来たのかいまだに分からないでいるらしい。

 そういった技能を持った奴が居るのかもしれないなと考えるが、それを言い出したらもうキリがないしなんでも片付いてしまうので、これは黙っておく。


 向こうはとりあえず任せておこう。

 鳳炎がいるのであれば、何か見つけることくらいできるだろう。


 さて、俺たちはこっちだ。


「失礼」


 コンコンとノックした後に、ウチカゲは短くそう言った。

 返事を待たずに扉を開けると、中にはマリアとユリーとローズがいる。

 俺の姿を見て三人とも呆れたようにため息をついた。


「おっそい」

「悪かったな……」

「応錬君、これマズいんじゃないの? 零漸君のことだけどさ」

「やっぱり?」


 覚悟はしていたけど、ギルドマスターのマリアにそう言われるとやはり不安になる。

 零漸は今、向こう側にいるということになっているのだ。

 ウチカゲと話している時はそこまで考えはしなかったが、ここに来る道中で気が付いた。


 零漸は、クライス王子の真隣に常にいたのだ。

 だがずっと寝ていた。

 それは執事やメイドなどが証言できる。


 何が問題って、零漸とクライス王子が一緒に消えた事が問題なのだ。

 そして、俺たちを襲ってきた。


「脅されて仕方がなく従っていたとは言っても、零漸君は君たちや雷弓を襲った。それだけで罰則を与えるには十分。加えてクライス王子が攫われる前にどうして起きなかったんだと、貴族、王族連中から言われるかもね」

「ここに居づらくなるのは確定か」

「その通り。でもその辺は何とかして見せるから、これ以上被害を出さないようにしてあげて」

「そうだな」


 従わされているのであれば、また何処かで襲撃してくるかもしれない。

 クライス王子はバルパン王国に連れて行き、サレッタナ王国では零漸がいる……。

 あれ、待てよ?


「零漸が動かなくても敵には裏切ったことがバレないのでは? それにあの程度の連中だったら零漸だけでも何とかなっただろ……」

「そういう契約みたいなものをしているのかもね。どういったものかは分からないけど……。皆、零漸君の腕に何かマークみたいなのなかった?」


 そう言われ、俺はあの時のことを思い出す。

 だが俺が対峙したのはほんの一瞬で、流石に見えなかった。

 それが何だというのだろうか……?


「それが?」

「私は見てないわ」

「同じく、見ていません」

「……あったような……なかったような……」

「おーい、俺の話を聞けー」

「ああ。奴隷紋よ」

「奴隷紋?」


 こういうのは奴隷商のドルチェがよく知っていそうだな。

 え、でも奴隷紋??


「俺が見たことある奴隷に、そんなもの描かれている奴は見たことないぞ?」

「戦闘奴隷と普通の奴隷は違うからね。普通の奴隷は首輪。戦闘奴隷はそんなものつけてたら邪魔になるから、奴隷紋で行動を制限しているのよ」

「……その戦闘奴隷の奴隷紋が、もしかすると零漸に付けられているかもしれないということか?」

「そういうこと」


 まじか……そんな制限つけられてるんだったら、流石にそりゃ勝手に行動できないわ。

 でもそうじゃないと、零漸が暴れない理由がないか……。


 しかし、この中にいる者でそんな模様を見た人はいない。

 目立たないみたいだからな。

 戦闘中にそんな余裕とかないわ……。


「なかったなのならいいんだけど……」

「でも零漸の奴、本気で応錬倒しにきてたわよね?」

「私もそんな感じがしました」

「あいつの性格的に絶対そんな事はしないと思うが、確かに俺も死を覚悟した……」


 いや、あいつと接近戦すること自体間違ってるからな。

 まぁ俺も正体知らなかったから、結構本気で天割で攻撃したんだけども。


 でもあいつは操られてはいない。

 従わせられているだけだ。

 あんだけ寂しそうな顔してたんだからな。

 だから自分の意志で戦っているということは分かった。

 俺たちに本気を出しても守らなければならないものがあるのだろう。

 それはクライスだけしか思いつかないけどな。


 まだ腑に落ちないが、止めてやらないといけない。

 あんな顔見て黙っているほど、俺は非道な人間じゃないぞ。


「で、どうするんだ」

「今はバルパン王国の使者を待っている状態。まぁそんなに時間はかからないと思うよ」

「多分まだクライス王子はバルパン王国に到着していません。発覚したのが三日前ですし」

「追いかけなかったのか?」

「追いかけているに決まってるじゃない。そこまで馬鹿の集まりでもないでしょ」


 まぁそれもそうか。

 となれば即席ではあるが精鋭部隊が追っているだろうな。


「で、帰ってきたのは?」

「生きて帰ってきた奴は一人もいないわ。斥候すらもね」

「敵側に索敵に優れた奴がいるみたいなのよ。そんで遠距離魔術での攻撃に長けた奴もいる。面倒だわ」

「よく分かるな」

「斥候の死体を見ればね」


 斥候の死体はこの二日間に六名ほど見つかったらしい。

 その全てが魔法による攻撃で絶命しており、何処かの肉が抉れてなくなっていたのだとか。

 なかなか強力な魔術師がいるらしい。


「なのでウチカゲ君に任せてみた」

「え? まじか?」

「はい。一昨日と昨日で調査を終えて帰ったのですが……。結果から言うと、クライス王子が乗っていると思しき馬車は見つけました。ですが馬車には御者と護衛がいるだけで、中はもぬけの殻だったのです」

「……囮?」

「その可能性が高いかと」


 今まで追い続けていた馬車は偽物で、本物はどこにいったのか分からなくなってしまったらしい。

 バルパン王国への道は多くあり、それ全てを今から探すのは難しいとのこと。


 わざと見つかって、追わせたというところか……。

 なかなか面倒くさいことをするんだな。


「あーそれとね。君たちが戦った奴らのことも調べさせてる。今のところ情報はないけど」

「手間が省けますね」

「君たちもここに居れば襲われないでしょ。あいつらもギルドに乗り込もうなんて考えないだろうからね」

「で、これからの動きはどうなる?」


 マリアは少し考えるようにしてから、以前使っていたものとは違う武器を腰に下げた。

 いま彼女が持っているのは大きめのハンティングソード。

 反りのついている片刃の剣だ。


 その後、胸を張って俺たちにこれからの動きを説明した。


「行くわよ、バルパン王国」

「奪還作戦ね。面白そう」

「おいおい、零漸はどうするんだ?」

「もうこの街にはいないでしょ。いたら貴方たち、寝込みを襲われてるわよ」

「そ、そうか……」


 考えてみればそれもそうか。


 ま、方針は決まった。

 行くのは霊帝の四人、そして雷弓二人、更にギルドマスターのマリアと隠密部隊のシャドーアイ三人。

 計十人での作戦だ。


 これだけで土地勘も何もないバルパン王国に行くのはなんとも不安だが、誰も彼もが精鋭である。

 ここは仲間を信じなければならないだろう。


「今回の肝は応錬君だからね!」

「俺じゃないと零漸は止められないだろうからな」

「その通り! じゃ、二時間で準備してきてね! 私は馬車取ってくるわ!」

「あ、それでしたら私の騎竜をお使いください」

「おおー! いいわね! じゃあローズは一緒に来て頂戴!」

「分かりました」


 救出作戦か……。

 ま、それだったら相手の要求を待つ必要もないか!

 っしゃ準備だ!

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