4.9.結果!
冒険者ギルドでは酷い目にあったが、なんとか昼までに薬を扱う店を回れるだけ回ったので、この三つの素材のおおよその相場を確かめるために宿に戻って集計をしてみた。
結果としては、ヒポ草が一本当たり銀貨一枚。
プラリス草が一本当たり銅銭五枚。
レッドグポップが一個当たり金銭一枚と、やはりレッドグポップが一番高価であった。
まあ、これだけの成果が出て、相場がわかったという事はそれなりに今所持している金額も大幅に増えている訳で……今回売っただけでも相当な額になっている。
ヒポ草だけで銀貨約五十枚……つまり金銭が五枚。
プラリス草で銅銭が千枚……銅貨が百枚になって、それを合わせて銀銭が十枚になり、銀貨が一枚となる。
レッドグポップで金銭が二十枚……金貨が二枚。
合計すると金貨二枚、金銭五枚、銀貨一枚という結果に落ち着いたようだ。
「いやこれ低ランク依頼受ける意味まじでなくね?」
本当に採取するだけで一日分の食費は勿論、宿代だって稼げてしまうことになる。
冒険者ギルドに貼りだされている低ランク依頼は、完全にお遣い感覚で見ておいた方がいいだろう。
そんなことがあっていいのかと少し疑問が残るが……ランクを上げなきゃ高ランクの依頼は受けることができないし……上手い事経営しているなとつくづく実感する。
そのせいで自分達の首を締めているような気もするが……まあ俺達には関係のないことなので放っておいてもいいだろう。
さて、ではとりあえず今の所持金を確認してみよう。
アレナが持ってきた金貨四百枚……これ使っていいのかとても悩むのだが……。
そして、レッドボアの牙を売って手に入れた金貨五十枚……だが昨日少し使ってしまったので今は金貨が四十九枚になっている。
減ってない。うん。ていうか減らない。
これなら宿代を先払いしておいた方が後々楽かもしれないな。
簡単に崩せる金額ではないし……っていうかそうだ、お金を崩すっていうのは方言だった。うん、どうでもいいな。
とりあえずそのお金を一つの財布に全て入れ、金貨四百四十九枚は魔道具袋の中に収納しておくことにする。
アレナ達に素材があれば回収してきてくれとは言っていなかったが……回収してくれているだろうか?
回収してくれていたら生活に余裕ができそうなので、今度から森に出た時は回収してもらうことにしよう。
「やることなくなったな……とりあえず腹減ったし、その辺の屋台でも見てみるか」
腰に三尺刀を差しなおして、俺は宿の外に出る。
昼なので食堂や酒場は非常に混雑していた。
一人でテーブルを使うわけにもいないし、ここはやはり軽く済ませておくことにしよう。
「うがっ!」
適当に歩いていこうと振り返って歩こうとしたとき、ドンと誰かとぶつかってしまった。
ぶつかった相手は少年のようで、ぶつかってしまった顔を抑えながら悶絶していた。
これは悪いことをしてしまったようだ。
すぐにしゃがんで謝っておくことにする。
「すまん少年。大丈夫か……?」
「むぬぅ……いてぇ……けど大丈夫……。お兄さんは……?」
「俺より君の方が痛そうだ。なんせ鞘に思いっきりぶつけたようだからな……って、お前! ジグルか!」
「うぇ? なんで知ってんの?」
顔から手をどかしてくれたので、やっと容姿が見えたと思ったら、この少年はあの時助け出した少年の一人、ジグルだった。
色は違うがアレナと似たような武具を身に着けており、駆け出しにしてはしっかりとした装備を付けていることに少し感心する。
得物は長物のロングソードだが……その小柄な体には似合わず、少し見栄っ張りな気がする。
しかし、所々擦り傷だったり打撲痕が残っているのが痛々しい。
後で治しておいてやることにし、とりあえずジグルを立たせて体についてしまった汚れを払い落とす。
「覚えてないか? 俺だ俺」
「……あ! あん時の白髪の兄さん!」
「応錬だ。ジグル、お前Eランクだってな。イルーザに聞いて驚いたぜ」
「それも知ってんの!? てことはもう皆とは会ってたのか! うわー! タイミング悪ー!」
「む? 知らなかったのか? というとお前は暫く家に帰っていなかったのか」
「いやー、昨日の夜には帰る予定だったんだけど、シャドーウルフに遭遇したから隠れてたんだ。今の俺じゃ勝てないから」
「うむ。自分の力量をしっかりと理解しているのは非常に良いことだ。それに魔物の知識もちゃんとあるようだな。駆け出しにしては良いじゃないか」
「へへん!」
褒められて鼻を高くしている姿は、まだまだ子供だという印象を受ける。
だがあまり調子に乗らせておくわけにもいかないので、その鼻を少し小突いてよろめかせる。
「だが、天狗になるなよ?」
「おう! てかさ兄さん! 今から暇? 暇だったら家に帰って食事にしようぜ! 皆も喜ぶ!」
「丁度何をしようか悩んでいたところだったんだ。じゃ、お言葉に甘えさせていただこうか」
「よっしゃ! 先に行ってイルーザ先生に伝えてくるよ!」
「こけるなよー」
「こ、子ども扱いすんなー!」
口調では怒っていた物の、その顔はとても楽しそうだった。
走っていくジグルの姿を見届けながら、俺はその後をゆっくりと追いかけ、イルーザ魔道具店に向かった。
◆
店の前はまだ人がいるようだったが、俺が来たことを確認するとジグルが看板を休憩中に変えて、扉を閉めてしまった。
すると裏口からジグルが出てきて、俺を引っ張って連れて行ってしまう。
裏口から店の中に入ると、良い匂いが漂ってくる。
「みんなー! 兄さん連れてきたぞー!」
「あ! 本当だー! こっちこっち!」
「ああ、はいはい。わかったわかった。だから引っ張るなって」
お出迎えをしてくれたのは最年少のジンだ。
接客している時はとても真面目そうなのだが、こうしてみると本当に普通の子供だ。
あんなことがあったというのに、すっかりあの時のことは忘れているかのように無邪気に育ってくれている。
イルーザに任せたのはあながち間違いではなかったのかもしれない。
子供達は元気に、そして無邪気に育ってくれているし、何よりイルーザが働いているのだ。
これ以上何を求めようか。
ジンに案内された部屋に通されると、すでに料理がいくつか並べられており、ミナとムーが料理の手伝いをしていた。
そこにはイルーザの姿もあり、ミナとムーに指示を出しているようだ。
「ミナ、そのお皿には野菜のっけてね。ムーはテーブル拭いておいて。拭き終わったらこれ運んで」
「「はーい」」
こうして見てみると本当に普通の家族のようだ。
ミナとムーはきっと良いお嫁さんになるだろうし、ジグルは立派な戦士になる。
ジンはまだどうなるかわからないが、イルーザが教えたことはすぐに飲み込む賢い子だと言っていたので、商売を任せてみるのもいいのかもしれない。
まあなんにせよ、決めるのはこの子達次第なので俺からは特にいうことは無いのだが。
俺の姿を見てミナとムーははしゃいだが、イルーザに咎められて任された仕事に戻って作業を繰り返す。
それから俺は椅子に座らせてもらい、料理が運ばれてくるのを待った。
その間にジンと話をしたが、ジンとばかり話しているとミナとムーの視線が痛いので大人しく座っておくことにした。
女の子って面倒くさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます