4.8.報告


 ギルドに到着した俺は、オークとビッグヒールスライムのことを報告するためにカウンターの前に来ていた。

 やはり朝は冒険者が多いようで、人がごった返しているため低ランクカウンターは使えそうにない。


 高ランクカウンターに行こうと思ったが……なんだか周囲の目が気になりそうだったので、俺達が冒険者登録をしたいつでもスッカスカのカウンターに歩いていくことにした。


「すまんがいいか?」

「今日はどういった御用でしょうか?」

「報告をしたいのだが……それを爺さんに言ったら随分驚かれてな。出来れば秘匿で伝えておきたいのだがどうすればいい?」

「……となると受付を間違えていませんか? ここは冒険者登録を専門に扱うカウンターです」

「いやそれは知っているんだが、ああも人がいるとな。ここで何とかできないか?」

「うーん……まあ物によりますが……。とりあえず報告したかった内容を教えていただけますか?」


 タトムの爺さんがあれだけ驚いていたのだから、余り事を大きくしないように穏便に済ませたかったが仕方がない。

 まあ、俺が小声で喋ればいいだけだ。

 そんなに心配することもないだろうと思い、カウンターに体を乗り出し、口元を隠して職員に報告をする。


「……オークとビッグヒールスライムを見た」

「えええええええええええ!?」

「ばっか! お前ばっか!」


 職員がざわざわとしているギルド内に大きく響く声で叫んだため、周囲の目は完全にこちらに向かうことになった。

 秘匿で伝えたいと言ったのに、どうして叫んでしまったのだろうか。


 冒険者は勿論、ギルドの職員も全員こっちを向いている……マジで勘弁してくれ。


「で、で!? それはどうしたんですか!?」

「だから声がでけえんだよ阿呆! お前は混乱を招くつもりか!」


 そういうと職員はキュッと口をつぐんで口に手を当てる。

 だが俺も怒鳴ってしまったので、一体何だ何だと冒険者達はざわめきだしている。


 ……とりあえずここまで目立ってしまったので、ここで全部言ってしまうことにしよう。

 頼むから今度は騒がないでくれ。


「はぁ……オークとビッグヒールスライムは討伐した。だがまだ残っ──」

「オークとビッグヒールスライムを討伐した!? 本当ですか!!?」

「お前馬鹿だろ。お前馬鹿だろ」


 何なのこの子。零漸並みに馬鹿なの?


 この職員が全て言ってしまった為、周囲の冒険者のざわめきは最高潮に達してしまい、これは噂になってしまうのも時間の問題だなと考えながら、大きくため息をついた。

 タトムの爺さんが驚いていたのだから、これは穏便に済ませたほうがいいと思ったのだが……こいつのせいで大々的に報道する結果になってしまった。


 俺はあまり目立ちたくないのだが……これはもう手遅れだろう……。


「えっと! ええと、貴方ランクはいくつですか!?」

「とりあえず声押さえ……いやもう意味ねえか……。Eランクだよ」

「ええ!? Eランクの人がオークとビッグヒールスライムを討伐したんですか!?」

「あ、やっべこの子馬鹿の子だった」


 もう……もう知らない。


 俺は勢いに任せてカウンターを力強く叩き、この阿呆の子に懇切丁寧に説明してやる。


「ええい! さっさとギルドマスターに報告してこいや! ヒポ草不足の原因はビッグヒールスライムが食いまくっているからだ!! そして俺達が討伐したオークは一体! 斥候の可能性があるんだ! 調査隊を作って森を捜査させろ! 目撃場所はこっから西の森の奥! ヒポ草がまだあるところがその目印だ!」

「は、はいぃ!」


 とっさにギルドマスターという単語を出したが、ちゃんといたようで安心した。

 と、いうかこれだけ説明しなければ行動に移せないのかと、ここの職員のレベルの低さに呆れを通り越して乾いた笑いが漏れる。


 もう俺はこれ以上ここにいる意味はないので、さっさとギルドから出ることにしたのだが……どうやらそうさせないとする者達が三人、俺の前に立ちふさがる。


「……はて、誰だい君達は」


 その三人は少しばかり立派な装備をしている冒険者で、確実に俺達よりもランクは上だという事がわかる。

 しかし……この雰囲気はなんなのだろうか。

 めちゃくちゃ弱そうな雰囲気……を漂わせているというか、こいつら基礎すらできていない我流の戦闘方法を嗜んでいるような歩き方だ。

 素直に言わせていただくと、歩き方が汚い。


「お前、Eランクなんだってな」

「そうだが?」

「そんな奴がオークを倒せるとは到底思えないが……その装備からしてそれなりに実力があると見える。どうだ、俺達のパーティーにはいら──」

「断る」


 話は済んだと思うので、その三人を回避するように避けて通ろうとしたのだが……またその通り道を塞がれてしまった。

 非常にめんどくさい。

 普通に何か喧嘩を吹っかけてくるのであればそれなりに対処法があるのだが……勧誘となると断る以外に穏便に済ませれそうな気がしない。


 ふむ、こう考えているあたり、俺もアレナと零漸と同じように脳筋っ気があるのかもしれないな。


「まあまあ、そう言うなって。俺達はCランク冒険者だ。お前が俺達のパーティーに入ればEランクなんてちっぽけな肩書すぐに消えるんだぜ?」

「とは言ってもな。俺はすでにパーティーに所属している」

「そんなの抜けろって~。どうせお前以外は弱い奴らなんだろ? そんな子守みたいなことしなくてもいいんだよ」


 ふむ、子守か。いい得て妙だな。

 まあ子守と言うより保護者と言ったほうが良いのかもしれないが……。


 しかし……めんどくせえな!

 こういうのってどうして回避すればいいんだ……。こいつら諦める様子ねぇし! うざい!


 と言うか仲間を少し馬鹿にされて苛立ちを覚えているのだが……ここで俺が手をだしたら俺が全面的に悪くなってしまいそうなので、ぐっと我慢する。


「とにかく、お前らのパーティーに入るつもりはない。俺の仲間より弱い奴らのパーティーに入っても碌なことがないだろうからな」

「なに!?」


 やはり仲間を馬鹿にされたことがムカついたので、俺も少しだけ煽っておく。

 やられたのであればやり返さないと気が済まないのだ。


「じゃ、じゃあ俺達のパーティーに入らないか!?」

「ちょっとやめなって……」


 すると、他の場所から勧誘の声が上がり始めた。

 それに全て対応している暇はない……というかくそ面倒くさいので、さっさとギルドを出ることにする。


「おいちょっと待てよ!」

「……これ以上俺の邪魔すると吹き飛ばすぞ?」

「ああ? こっちは穏便に済ませようとしてるってのに……! 表出ろこの野郎! だったら勝負しやがれ! 勝ったほうのいう事を聞くってのでどうだ!」

「……ふむ。わかりやすくて大変結構」


 ……こいつは馬鹿なのだろうか?

 俺はあの二匹の魔物を討伐したと知っている筈なのに、ましてや決闘を申し出るとは。

 普通に考えて勝てる見込みはないはずなのだが……だがまぁ、最初からこうしてくれた方がいい。

 こういう世界なのだから、実力行使と言うのも割と悪くないな。


 ま……断られて諦めない奴らはどうかと思うのだが……。


「ルールは?」

「戦闘不能にさせるか、降参と言うまでだ!」

「いいだろう」


 俺としてもあまり人に攻撃はしたくないので、さっさと降参してもらうことにしよう。


 ちょっと大人げないが……精度は無視して多連水槍を五十本作り出し、俺の後ろに置いていつでも発射できるように構えておく。

 とはいっても普通に見てしまえばただの水の槍なので、この切れ味の恐ろしさを理解することはできない。

 なのでその辺に転がっていた石ころを上に放り投げ、一つの槍でそれを一刀両断する。

 これでこの武器の恐ろしさがわかるだろう。


「え?」

「どうする? 俺としては降参してくれた方が無駄な魔力を使わずに済むし、お前が怪我をしなくても済むのだが」


 威圧の為、一度槍を一気に前進させてすぐに止める。

 これで相手に認識させたいことは、俺は一切体を動かさずともお前を倒せるぞという事。


 周囲の冒険者もその光景を見て驚いているようで、誰もが口を開けて呆けていた。


「っ……! はああああ!」

「いや、向かってくんなよ……。後、足元注意な」

「ふべっ!?」


 盛大にずっこけたので、仕掛けておいた水捕縛を使用して拘束していく。

 もう多連水槍は必要ないので解除して消し、水捕縛の力を強めるために残った水を水捕縛に吸収させていく。


「ぐぬぬぬぬ……」

「はい、降参しろー。もう勝てねぇぞ」


 だがこいつはなかなか降参する気配がない。

 もうここまで来ると意地なのだろうが、それに付き合っていられるほど俺も暇ではないのだ。


「降参しないと気絶させるぞ?」

「ふん! まだ負けてねえ!」

「……ああ、そうかい……」


 俺はデコピンをしようと、手の形を作って相手の額に中指を当てる。

 『内乱波』、『防御貫通』。


 パコンと良い音がしたと思ったら、すでに気絶していて白目を向けていた。

 それを確認した後、すぐに水捕縛を解除して解放してやる。


「おい、お前らこいつの仲間だろ。面倒見てやれよ」


 ポカーンとしていた奴らに声をかけ、俺は今度こそギルドから出ていくことができた。

 何故報告をするだけなのにこんなにも目立ち、時間を取られてしまったのか……。


 散々だったと感じながら、俺は薬草を売りにまた店を梯子する。

 そんな応錬を野次馬の中から見ていた人物が一人いたのだが、応錬がその人物に気が付くことは無かった。

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